エッセイ:1ヶ月だけの先生
私は大学卒業後すぐに教師になったのではない。教員採用試験になかなか受からなかったので、学童保育で指導員として仕事をしながら教員採用試験の勉強をしていた。
そんな生活が2年経った頃、臨時採用ではあるが産休の先生の代替で、F市の小学校で8月から働くことになった。
そこで、学童保育の仕事を6月で退職することになった。7月は仕事がない無職期間。当時実家に住んでいたので住む家やお金の心配をする必要もなかった。
社会人になってからまとまった休みを取ったことがなかったので、1ヶ月は大人の夏休みだ、何をしようかなどと呑気に考えていた。
6月の下旬、一本の電話がかかってくるまでは。
電話はF市の教育委員会からだった。「特別支援学校で介護休暇を取る先生がいるので、7月1日から1学期の終業式まで働いてほしい。」という内容だった。
私は特別支援学校の教員免許は持っていない。でも小学校、中学校、高校の教員免許を持っている。だから特別支援学校でも働く資格はあるということだった。
断ろうと思っていたが、ここで断ったら8月からの小学校の臨時採用の話もなくなってしまうのではないか、と勝手に思い込んだ私は引き受けることにした。
そして、7月。学童保育を辞めた翌日から特別支援学校での勤務が始まった。
担当することになった学年は高等部1年生。
勉強というよりは農業やマラソン、プール、など体を動かすことや音楽など実技系の授業が多く、特別支援学校のことなど何も知らなかった私は驚いた。
特別支援学校の教員は常に体力勝負。家に帰るとヘトヘトだった。
でも、朝は早く起きて学校でマラソンし、給食をモリモリ食べ、夜は早く寝る。健康的な生活になった。
同じ学年の先生方は同年代の先生方ばかりで、今まで学童保育の指導員として年上の人達と仕事をしていた私にとって新鮮で、楽しくて毎日あっという間に過ぎていった。
そして最終日。1学期の終業式。スクールバスに乗る生徒達を見送る。
その後、昼の納め会が食堂で行われた。そこで一言挨拶。
2学期から休んでいた先生が復帰するという話も事前に聞いていたので、私の役目はこの日でで終わり。ちょっと泣きそうになる。
たった1ヶ月の先生、勤務した日数は20日もない。
でも、この経験がのちの教員生活に大きな影響を与えることになるなんて、この時の私は思っていなかった。
ちなみに、もう会うことはないだろうと思っていた生徒や先生方とはこの先、思わぬ形で再会することになる。