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戯曲テキスト『さかなのくちのかたち』

2024年12月27日(金)に上演予定の作品『さかなのくちのかたち』の戯曲テキストです。

戯曲『さかなのくちのかたち』
脚本・演出 にさわまほ
【あらすじ】一年の終わりがもうすぐ迫る、とある夜の喫茶店にて。
「ここにいない、きっともう会うことのない人について話す会」が開かれます。
珈琲の香りに包まれながら、集まった人それぞれの話に耳を傾けてみませんか。
僕はまだ、僕の話を、話すことができなさそうです。




【登場人物】


からす … 「ここにいない、きっともう会うことのない人について話す会」の司会進行役。
いるか … 会の参加者。
とかげ … 会の参加者。
うお  … 会の参加者。
きりん … 会の参加者。
さそり … 会の参加者。まだ他の人に話をすることができずにいる。
こぐま … さそりの友だち。


※    この脚本は、ユニセックスであることを目標に執筆しています。登場人物の一人称と性(ジェンダー、セクシャリティ)は必ずしも連動していないので、ぜひフラットな目で読んでいただけたら幸いです。



#0  夜の喫茶店


冬の夜。
閉店後の喫茶店の店内に、ぽつぽつと人が集まり始める。

小さく流れている音楽。
ささやくように交わされる他愛のない会話。
参加者の名前を確かめるからすの声と、それに応える来訪者。

この日、話す予定の参加者は受付で名札を受け取り、見えるところにつける。
参加者同士、なんとなく固まって座ったり、話をしたりする。

時折店内を見回し、ドアが開くたびにそちらを振り返る人(こぐま)がいる。

あたたかいコーヒーと紅茶の香りが、店内に満ちていく。


店内の椅子がいっぱいになった頃、こぐまは席を立つ。
店の中をぐるりと巡り、踊るように歩を進める。

やがて、こぐまはドアを勢いよく開き、外へ出る。

それと入れ替わりに、さそりが店内へ入ってくる。
さそりに注目が集まる。


さそり ……遅れました。すみません。

からす いえいえ、ちょうど始めるところです。お名前を頂戴しても?

さそり さそりです。

からす さそりさん。ありがとうございます。どうぞ、名札です。


さそりは名札を受け取り、会釈して空席へ。
そこは先ほどまでこぐまが座っていた席であることを、さそりは知らない。



#1  ここにいない人の話


からす ではそろそろ、みなさんお集まりのようなので…

とかげ お。

いるか 始まります?

うお  ます?

からす ます。では、始めま…してもいいですか?

いるか 日本語…。

うお  いいと思いますー。

きりん 大丈夫です。

からす はい、あの、ありがとうございます。ではですね、始めさせていただきたいのですが……この「させていただく」っていわゆる二重敬語にあたる言葉で、誤用ではないんですけど、誤用だと言われることが多い表現でもあって。でも今回の場合は、みなさんに許可をいただいて、「始めさせてもらう」という形なので、謙譲語として「始めさせていただく」は適切な表現であると、

とかげ 先生…?

いるか 先生、国語の時間に。

からす すみません、脱線しました。とにかく、始めさせて、いただきます。


からす、一同を見渡す。


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