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一口小説:友人

あいつは「友達」じゃない。「友人」だ。
ここがミソなんだよな。
友達なんて緩くて肯定が前提の、親密すぎる関係じゃない。
ただ等しく「他人」。そういう関係。
だと、俺は思ってる。

「なあ、最近どうよ?」
「ん?」

久しぶり…といっても、一ヶ月ぶりぐらいにあいつと飲みに行ったとき。
仕事が一旦落ち着いて、周りの慌ただしい緊張感や自分の覆いかぶさる疲労感が、少し収まり始めたときに、「休まりたい」一心でこいつに連絡した。

「いやぁ…仕事が一段落して、やっと安心できるよ。」
「あー、だから顔色悪いのな。」
「それさっきも言われた」
「あ、まじで?ゴメン」

そしたら快く受け入れてくれたから、こう、騒がしすぎない飲み屋に来た。
あいつの第一一声は「おお」次に「顔色悪っ」
たしかにその時の俺は満員電車から逃れたばかりだったから、それも相まってたんだろうな。

「おまえは?」
「あー、うん。順調…だな。」
「どうせまたやばいぐらい頑張ってんだろ。」
「いや。んなことないよ。」
「少なくともおまえは頑張ってんだよ。俺にはそう見えんだよ」
「おいどうした」
「おまえはすげぇよなぁ…」
学生の頃からこいつはずっと頑張ることができて、
空気も読めて、他人のことも考えられて、でもいい人過ぎなくて。
「お前だってお前なりに頑張ってるだろ。それでいいだろ。俺はそう思うぞ。」
ああ、こういうところが
羨ましくて、劣等感が
「…‥‥」
「…。すみませーん、枝豆くださーい」
「なあ、」
「ん?」

「今日の〇〇の動画、見た?」
一瞬目を丸くした。でもすぐにいつものにやけ顔になった。
「‥あ゛ー、まだ見てないんだよな。」
「ほんとにおまえが友人でよかったよ。趣味が同じだから。」
「それ以外にないのかよw」
「んー、まあ。」
「おぉいw」

「ごめんな、こんなおかしいやつに付き合わせて。」
「お前といると楽しいからヘーキ。」
「あ、そう。感謝。」
「デリシャ?」
「いい大人が何いってんだ」
「あ、今お前全世界の俺らの世代で感謝感謝してるやつら敵に回したからな。」
「嘘だろ…」

「お前酔い始めたな」
「んなことないよ」
「いつにもまして情緒不安定だから俺にはわかる。」
「あそう。」
「おら枝豆食え。」
「うめぇ」
「お前のおごり」
「!?」
「嘘割り勘」
「やめろよいらないサプライズだ」
「オメデトー」


あー、やけに楽しい。
だからこいつと友人でいるのはやめられない。
これからもいくらこいつに劣等感を抱いても、そのたびに俺はこいつの言葉が欲しくなるんだろうな。

「ありがとな。」
「こちらこそどういたしまして。」
「どういうことだよ」

俺の唯一の友人。