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犬と走ってみた

これはフェンリル デザインとテクノロジー Advent Calendar2024 18日目の記事です。

私は、犬と一緒に暮らしています。オーストラリアンシェパードという犬種で、来月2歳になる男の子です。
羊を追い回せる体力と知力がある牧羊犬種なので、頭を使うのも体を動かすのも大好き。若くてエネルギーが有り余っていることもあり、ドッグランでは誰よりも長く走り回っています。

ドッグランで跳ね回る犬

たとえ広い草原を縦横無尽に駆け回れる体力を持っていても、普段は都市部の一般家庭暮らし。彼は毎日暇を持て余しています。
休日や休憩時間に何か一緒にできるアクティビティはないかと思い、犬と一緒にカニクロスに挑戦してきました。

カニクロスとは

カニクロス(Canicross)は「犬と一緒に草原や野山を走る」競技です。Caniは犬(ラテン語)、crossはcrosscountryの略で、はじめは犬ぞりを引く犬たちのトレーニングとして考案されたそうです。
犬と一緒にできるスポーツはいろいろあります。アジリティ競技の様子はよく動画サイトなどに掲載されているので、ご存じの方も多いでしょう。他にも、フライボールや犬ぞり、ディスクなど、それぞれに競技大会やトレーニングが行われています。
カニクロスは特別な道具が必要ないので、初心者にも挑戦しやすいと言われています。最近、日本でも大会が行われるようになりました。

バンジータイプの、引っ張りが負担になりにくいリードを腰につけて走る
引用:Getty Images

「犬は走る生き物なんだから、競技にするほどの難しさはないのでは?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。確かに、大抵の犬は走ることがとても好きです。
カニクロスでは、走ること以上に、コミュニケーションに主眼を置いているように感じます。レースでは、人間と犬がリードでつながっている状態で走ります。平らでないところもある森の中の地面で、犬が何も気にせずトップスピードを出して走ったら、どうなるでしょうか?人間はあっという間に石か何かにつまずいて転んで、引きずり回されてしまうでしょう。また、好き勝手に道を選ぶのではなく、コースに沿って一緒に走ることが求められます。
犬ぞりをする子たちにも、スタートの合図、方向転換、停止などのコマンドを教えます。カニクロスでも同じように、「人間と一緒に走ること」を覚えてもらう必要があるのです。
競技として順位がつくものではありますが、ドッグスポーツは、犬と人間がいろいろな経験を一緒にして、絆を育むためのひとつの方法として位置付けられているように思います。
中でも、自然を一緒に感じながら走るカニクロスでは、難しいことを考えずに「犬と共に楽しむ」ことができそうだと思い、大会にエントリーしました。

走らない犬、走れない人間

オーストラリアンシェパードという犬種は「第六感がある犬」と言われるほど空気の読める犬です。コマンドを覚えるのも早いですが、あまりきっちりと指示を出さなくても、その場で求められていることを察して行動できます。
問題は人間の運動能力が低いことです。参加申し込みをしたのはいいものの、飼い主である私は運動が大の苦手。マラソン経験もありません。犬に引っ張られて走ったら足がもつれて転びそうです。人間に合わせて走ってもらう練習が必要だと感じ、とりあえず、広めの公園で一緒に走ってみました。

彼は走ること自体は好きなはずなのですが、散歩ではあまり走ってくれず、公園のにおい嗅ぎに夢中。散歩のときにグイグイ引っ張られると危ないので、引っ張らないようにと子犬の頃からトレーニングを積んでしまったことも、原因の一つかもしれません。あるいは、単純に私の走るスピードが遅すぎて飽きてしまったのかも……。
結局、仕事の繁忙期も重なり、ほとんど何も準備できずに当日を迎えてしまいました。やったことといえば、走りやすそうな犬用ハーネスを用意したくらいです。
なんとか楽しくレースに臨みたい一心で、奥の手を使いました。牧羊犬という犬種の特性からか、彼は他の犬や人間を追いかける習性があります。そう、羊の役になる人間がいれば、もしかしたら走るかもしれません。当日は、もうひとりの飼い主にも一緒に走ってもらうことにしました。(*1)

いざ本番

今回参加したのは、イヌと何でも楽しむ委員会さんが主催する、第1回 カニクロス秋ヶ瀬 ドックマラソン

必要もないのに顔を隠す犬

受付でゼッケンをもらい、コースを試走してみましたが、ゆっくり歩いたこともあり、800mのコースを一周するのに20分かかりました。順位にはこだわらないですが、あまり他の参加者さんを待たせるのも気が引けるなあ、などと思いながら、スタート時間まで待機しました。
今回のレースでは、体のサイズによって三つのカテゴリーに分かれ、800mを二周、1.6km(1マイル)走ります。私たちは大型犬でエントリーしました。小型犬からスタートするので、3時間くらい他のチームを見守ったり、車であたたまったりしながら過ごしました。

犬で暖をとる人間と、迷惑そうな表情の犬

今回の大会では、ローリングスタート(順番に一頭ずつスタートする)に加えて、事前に運営さんが、チームごとの目標によってスタート順を決めてくださいました。タイムをできるだけ短くし、表彰台を狙いたいチームは先にスタートして、完走を目標にするチームは後からスタートするという対応です。もちろん、私は歩いてもいいから完走したかったので、最後にスタートしました。

1マイルの思い出

スタートからゴールまで、犬は私たちの横を飛び跳ねながら走っていました。スピードの遅い私の走りに合わせようとしてくれていたのかもしれません。スキップ(にしてはやや高かったですが)しながら走る姿に、コースそばでみてくださっている方々は笑顔で応援してくださいました。

愛犬だけでなく、他の子たちとの出会いも、体験に彩りを与えてくれました。中でも印象に残っているのは、コースの途中で、「もういいです」と言いたげな表情で、落ち葉の上に伏せをしていた犬さんです。飼い主さんがやさしく声をかけるものの、全く動く様子がありません。
「その気持ちめっちゃわかる」と心から共感していたら、うちの犬がその子のところへ駆け寄りました。鼻をツンとあてて、「一緒にいこうぜ」とばかりに挨拶をすると、その子は立ち上がって、うちの犬の横を走り始めたのです。愛犬の優しさと、犬同士のあたたかいやりとりに、レース中ながらほっこりしてしまいました。

他にも、人馬一体(犬ですが)といった風情で息のあった走りをしていたチームや、大きな体を一生懸命動かしながら、みんなに拍手でゴールを称えられた超大型犬さんなど、犬と人間のいろいろな関係にふれることができました。
たった1マイルのレースでしたが、たくさん笑って、でも走るのはつらくて、顔を真っ赤にしながら完走。タイムは11分とめちゃくちゃ遅かったですが、とにかく怪我なく楽しく走れて、大満足の一日でした。

もう一人の飼い主と犬は、あと三周くらい走れそうだった

次は何する?

犬と言葉を使って会話することはできません。(*2)
彼らにも性格があり、意思があります。何をしたいのか、何を考えているのか、どんな気持ちなのかを、別の方法で一生懸命に表現してくれています。
犬は大会中、しっぽをふわふわ揺らし、ニコニコ笑いながら、飼い主を見つめてくれていました。「しゃべってくれたらいいのに」と思うこともありますが、コミュニケーションをとるための感覚を研ぎ澄ますことを思い出させてくれる、貴重な存在であるとも感じます。

冬がやってきました。
一緒に雪遊びもしたいし、犬ぞりにも挑戦したい。
「明日はどこに行こうか」と聞いてみたら、無言で顔を舐められました。全然意味わかんないや。

「どこでもいいよ」なのか、「とりあえずお腹すいた」なのか。

(*1) 今回の大会のルールでは犬一頭につき人間は二名まで走れることになっていましたが、そうでない大会もあるかもしれません。レースに出場する際は、都度ご確認ください。また、牧羊犬の前をむやみに走るのは大変危険です。突撃される可能性があります。訓練された飼い主以外は真似しないでください。
(*2) コミュニケーションボタンという方法で、犬に言葉を教えることができますが、丁寧に言葉を教え、根気よく繰り返しボタン押しを練習する必要があります。自発的に言葉を覚えて発話してくれるわけではありません。


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