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中国人は合理性を追求する
私は日本のイラストレーターの中国進出をサポートしている。昨年、ある人形製造メーカーから連絡があり、弊社のIPを使った商品を作ることになった。メーカー側は弊社のIPを気に入ってくれていて、こちらとしても悪い気はしなかった。
しかし、契約の段階で驚いた。契約書には「弊社も最低○○個を販売する」と書かれていたのだ。つまり、こちらが在庫リスクを負い、販売ノルマを課される形になる。IPをライセンスする側がなぜそんな責任を負わねばならないのか?当然、抗議した。すると、彼らの返答はこうだった。
「あなたたちのIPで売れる自信がないのか?このくらい余裕だろう?」
さらに、こちらがノルマを拒否すると、「それなら最低保証金額は減らす」と言ってきた。合理性の塊のような発言だ。中国のビジネスは得か損か、シンプルな行動原理で動いている。そして、驚くことにこれが一般的なやり方なのだ。
順調に進む商品開発、だが……
なんとか契約をまとめ、商品開発が始まった。人形製造には金型やデザインなど大きな初期投資が必要だ。彼らも本気で頑張っていたし、サンプル画像もなかなか可愛かった。
彼らの販売方法は「プロセスエコノミー」的なものだった。サンプルの制作過程をSNSで公開し、ファンの意見を取り入れながら改良を重ねる。その結果、フォロワーが増え、盛り上がりも見せた。「これなら販売ノルマも余裕だ」と安心し、数千万円規模の売上も期待できると思った。
ところが、サンプルが届いた瞬間に雲行きが怪しくなった。体のパーツが取れたり、洋服の色が写真と異なっていたりした。問い合わせると、返答はこうだ。
「これはサンプルだから。本番は異なる。」
この回答は中国製造では“お馴染み”だ。しかし、サンプルと本番が違うのなら、サンプルを作る意味がなくなる。何度もこの回答を受けたが、いまだに納得できない。
勝手に発表される新キャラクター
SNSの盛り上がりとともに、彼らの暴走が始まった。許可していない画像のアップロード、見たこともないデザインの発表。注意しても一向に聞かない。そして、ついには勝手に新キャラクターを発表した。
ファンたちは困惑した。
「これは公式のキャラクターなのか?」
疑問の声が次々と上がり、最終的にファンは「公式が作ったものではない」と断定。さらに、製造側を責め始めた。今の中国の若者は権利関係や“本物”に対して非常に敏感だ。勝手な行動を取った相手には容赦がない。
そして、この会社のフォロワーは一気に増えた後、ファンの怒りを買い、攻撃され始めた。炎上の中、彼らは「謝罪」と称したコメントを投稿したが、時間が経つと削除。そのたびにファンの怒りは増していった。まるで火に油を注ぐような展開だった。
予約販売の開始、そして大混乱
そんな状況の中、彼らは突如として予約販売を開始した。しかし、これまでの問題のせいでファンの怒りは収まらない。
しかも、
おまけをつけると言っていたのにやめる
価格は据え置き(実質値上げ)
当然、さらに批判が殺到。そして、売上は期待には全く届かず、初速の悪さを理由に1日も経たずに予約販売を中止、返金することになった。
SNSは荒れに荒れ、内部の人間は「もう疲れた」と言うばかり。カオスな状況に陥った。
中国の合理性とは?
こうした経験を通じて、中国ビジネスの本質を改めて感じた。彼らは徹底的に「得か損か?」で動いている。
常識の斜め上から条件要求 → ライセンス側に販売ノルマを要求
盛り上がるなら詐欺ギリギリラインでもOK → 勝手にデザインを発表
炎上したら謝って、コメントを削除する → ファンの怒りが増す
この合理的すぎる姿勢がトラブルの要因になることも多い。だが、だからこそ中国市場は面白い。そしてファンの皆さんはそこを監視する機能も担ってくれている。ファンの皆さんは彼らの合理性に従って熱狂的に動いてくれている。そしてその熱狂的なファンを味方につけられれば、爆発的な売上を生むことも可能だ。
これからの挑戦
明日、弁護士との面談を控えている。私の仕事はイラストレーターを守りながら、彼らの作品を中国市場でしっかり広めること。中国の熱狂的なファンたちにもっと知ってもらうこと。
合理性を追求する市場だからこそ、適切に戦略を立て、うまく立ち回れば大きな成功をつかむことができる。簡単ではないが、この挑戦を楽しみながら、しっかり前に進めていこうと思う。
やはり中国ビジネスは難しい。
でも、それ以上に面白い。