1シャンテンは何種類か?
みなさん、こんにちは。
今年もまた麻雀noteの時期がやってきました。
今回は「1シャンテンや2シャンテンの形は何種類あるのか」を考えたいと思います。
1シャンテン形は何種類か
では、さっそくですが、1シャンテンの形は何種類あるのでしょうか。
結論から言うと、手牌構成で分類すれば原則として3種類です。
ここでは1シャンテンを「テンパイの一手前の手牌の状態」としておきます。要は、あと1枚有効牌が来ればテンパイする手牌13枚のことです。
対して、テンパイ形とは、そこにさらに1枚有効牌が来れば和了できる形です(形式テンパイ除く)。
誰しも麻雀というゲームを最初に教わるとき、「麻雀は一番最初に4メンツ1雀頭をそろえるゲーム」と教わることでしょう。
七対子や国士無双、流し満貫と言った変則的な和了形を除けば、原則として和了形はこの1種類しかありません。
では、テンパイの形は何種類あるのでしょうか。
テンパイ形は2種類です。
和了形は「4メンツ1雀頭」を作るものでした。そして、テンパイ形とはその一手前の状態でした。
ということは、テンパイ形は「メンツが4つない(3つしかない)か、雀頭がないか」どちらかの形をしているはずです。
これを「雀頭の有無」という観点から分類すると、前者は雀頭があってメンツが足りてない形で、後者は雀頭がない形です。
テンパイ形はこのどちらかの形をしています。
最初に戻って、1シャンテン形はテンパイ形よりもさらに一手前の状態なので、「雀頭がないか、3メンツない(メンツが2つしかない)か、メンツの素となるターツが足りないか」の3種類になります(ターツオーバーまで数えれば4種類)。
以下この問題について考えます。
シャンテン数とは何か
そもそも任意の手牌13枚を前にして、この手牌は「~シャンテン」であると判断するにはどうすればよいでしょうか。
この問題に関しては「シャンテン数を数えるための公式」があります。詳しくは以前、「シャンテン数の数え方」というnoteに書きましたので、それを引用します。
これを式として表現すれば、
です。
ブロック数の最大が5であるというのは、6ブロックあっても5ブロックまでしか数えないという意味です。
「メンツとターツの合計」が4つまでというのは、たとえ5ブロックあっても、雀頭候補となりうるトイツが0個ならブロック数は4までしか数えられないというルールです。
麻雀は4メンツ1雀頭を揃えるゲームなので、5ブロックの内訳としてメンツ枠が4つ、雀頭枠は1つだからです。なので、2個目以降のトイツは刻子の種としてターツとしてカウントします。
以上述べましたが、「~シャンテン」というのは要するにこの「8から引く数」がいくつなのかで決まります。
この「8から引く数の合計」が7ならその手牌は1シャンテン(8-7=1)ですし、6なら2シャンテン(8-6=2)です。
以下、この「8から引く数の合計」を~シャンテンの定義とします。
手牌の表し方について
まず手牌の構成を
のように表記します。
・和了形
・140型
例えば、和了形は4メンツ1雀頭でターツが0個です。
なので、1:4:0(1雀頭:4メンツ:0ターツ)となります。「:」を省略して140型と書きます。
ただ、和了形は他のイーシャンテン形などと違い14枚形です。和了形以外の~シャンテン形は全て13枚形なのです。ここが和了形の特殊な点です。
この点、テンパイ形と和了形との違いはどこにあるかというと、テンパイ形はツモってきた14枚目が不要牌であるのに対して、和了形は和了牌であるというのが違うだけで、ツモる前の形(13枚形)には差がありません。
ですので、14枚形である和了形を「-1シャンテン」として特別に扱う理由は一貫性を欠くのではないかと思うようになりました。
これに関して、私は以前、和了形を「8から引く数の合計」が9になる手牌としたため「-1シャンテン」であると理解していましたが、現在ではこの言い方は正確ではなかったと思っています。
・テンパイ形(0シャンテン形)
次にテンパイ形です(以下は画像の14枚から中を切った時のシャンテン数を指しています)。
ちなみにシャンテン数というのは「テンパイまでにあと何枚有効牌と不要牌を入れ替えなければならないか」という数字なので、テンパイが0シャンテンになります。
先ほど申し上げた、「8から引く数の合計」が8になる手牌を指します。
このテンパイ形は和了形からみて、雀頭かメンツのどちらかが足りてない形です。ゆえに、雀頭の有無で040型と131型のどちらかになります。
これを先ほどの公式に当てはめて検算すれば、
・040型
040型は、4メンツが出来ていて雀頭のない形です。要するに単騎待ちのテンパイです。
・131型
131型は、雀頭と3メンツが出来ていてターツが残っている形です。このターツがメンツになれば和了となります。
ちなみに雀頭を作る単騎待ちの方が、ターツからメンツを作る形よりも圧倒的に広くなります。
・1シャンテン形
では、1シャンテン形はどのようになるでしょうか。
1シャンテン形はテンパイ形からみて一手遅れた形です。先ほどの式で言うと、「8から引く数の合計」が7になる手牌です。
これは雀頭かメンツかターツのどれかが一手足りない形になるので、031型か122型か130型の3種類になります。それぞれ、「ヘッドレス」「2面子形」「くっつき」と呼ばれています。
以下、これらも検算して確認しておきます。
・031型(ヘッドレス形)
031型は、雀頭となりうるトイツのないイーシャンテン形です。このため「ヘッドレス形」と呼ばれています。
・032型(031型のターツオーバー形)
032型もヘッドレス形ですが、各ブロックの合計が031型よりも1だけ多くなる(のでシャンテンが進む)ように見えます。
しかし、「メンツとターツの合計を4までしか数えない」というルールがあるため、032型は031型とシャンテン数は変わらず、032型は031型のターツオーバーの派生形となります。
・122型(2メンツ形)
122型は「2メンツ形」と呼ばれている形です。3メンツがない1シャンテン形です。
・130型(くっつき形)
130型は俗に「くっつきテンパイ」と呼ばれている形です。
「テンパイ」という名前はついていますが実体はイーシャンテンです。これはターツが足りていないので、ターツができればテンパイする形です。
「くっつき」というのは、孤立牌に有効牌がくっついてターツができることを指しています。
ターツというのはトイツやメンツよりも作りやすいため、このテンパイの受け入れがもっとも広くなります。
孤立牌に有効牌がくっついて聴牌する前提として、雀頭候補になるトイツが1つ以上あることが必要です。トイツが2つある場合にもくっつきと呼びうる形にはなります。その場合、2メンツ形にも取れる形となります。
くっつき形は広さ以外にも例えば、「リーチ宣言牌がくっつき形を否定するなら関連牌濃厚になる」などの特徴があります。
一般的に、雀頭、メンツ、ターツの構成要素は、ターツ、雀頭、メンツの順にできやすいため、テンパイのし易さはそのまま「くっつき>ヘッドレス>2メンツ形」となります。
・2シャンテン形
さらに、2シャンテン形がどのようになるかも考えてみます。
2シャンテン形は、「8から引く数の合計」が6になる手牌です。
これは、030型か022型(023型)か121型か113型(114型)の4種類、()のターツオーバー形を含めれば6種類です。
「8から引く数の合計」は6でなければならないので、メンツが3なら、雀頭やターツは0にしかなりません(0+3×2+0)。
ターツオーバー形をどのように扱うかは置いておいて、これ以外の形がありえないのを示せるのがこの分類法の意義です。
とりあえず雀頭の有無で分岐して、雀頭のない形であれば3メンツならターツは0ですし、2メンツならターツは2です(023型はターツオーバーです)。1メンツ形では2シャンテンにはなりえません(「8から引く数の合計」が6にならない)。
対して、雀頭のある形だと、この「8から引く数の合計」の6から雀頭分の1を引いた残りの5をどのように配分するかで、2メンツならターツは1ですし(1+2×2+1)、1メンツならターツは3まで行けます(1+1×2+3)。1メンツでターツが4だと「メンツ+ターツ=4」に抵触するのでこれはターツオーバーになります。
以下、これらも検算して確認しておきます。
・030型
この3メンツが確定したヘッドレス形2シャンテンは、以前、天鳳TLの一部で「せせらぎリャンシャンテン」と呼ばれていました。
・022型(023型)
こちらもターツオーバー型として023型があります。
・121型
・113型(114型)
結論
追記:2024.7.19
これに関して、雀頭候補になりうるトイツの数でイーシャテン形を分類する考え方があります。
例えば、井出・小林『麻雀技術の教科書』p99~p101では雀頭候補の数で分類を試みています(この分類は麻雀連合の須藤浩さんという方の発案と書かれてました)。
イーシャンテン形を、シャンテン数公式の「8から引く数が7になる手牌の集まり」と定義すれば、トイツの数は0~2にしかならないため、旧来のヘッドレス、くっつき、2メンツという分類よりは根拠の曖昧さがなくなりすっきりはします。
旧来の分類の曖昧な点は、トイツ0個はヘッドレス形、トイツ2個で2メンツ形までは雀頭候補の分類と同じですが、トイツが2つでも「くっつき形」と呼びうる形が存在した点です。
例えば、3345m123678p677sみたいな亜両面+両面トイツの牌姿です。
3mを雀頭とみなせば(122型の1だとみなせば)、33m+45m123678p677sで2メンツ形だし、7sを雀頭とみなせば345m123678p77s+3m+6sの130型でくっつき形にも取れる形です。
しかし実戦では、「この手はくっつきに受けるか」と考慮することも有用であり、2雀頭候補形に2メンツ形とくっつき形と2つの型がある(雀頭候補で分類しても分類しきれない)のは変わらないので、本書では旧来の分類をある程度踏襲しました。
twitterでの議論の経過
ターツオーバー型の分類について
発端はこのツイートでした。
1シャンテン形を、完全形を別に扱う4種類とする考え方への異論です。
この4種で分類する際の問題意識は、1シャンテン形の強弱の比較のためで、それ自体には合理性があると思いますが、定説というものがあるのかないのかもわからないため、手牌の構成によって分類する考えをまとめておこうと思いました。
これまで私は、ターツオーバーをどう処理するかでブレはあるものの、和了形から手牌の構成による分類を行ってきました。2014年時点で以下のようなツイートがありました。
こちらは『勝つための現代麻雀技術論(旧現麻)』(2014年4月)を読んで私が理解した2シャンテン形の分類です。
2シャンテン形を雀頭の有無で分けて、ターツが足りているか、充分か、多いかで6つに分けています。
その後、色川木通(いろかわあけび)さんという方から疑問をいただいたので少し考え直し足りしました。
一点目の疑問は「14枚形でのシャンテン数とは何なのか」という問いです。
私の認識では、和了形とは「8から引く数」が9になる手牌なので、和了形を-1シャンテンと言って言えないこともないのかも知れませんが、シャンテン数というのは、14枚形からAを切れば1シャンテン、Bを切れば2シャンテンというように、基準はあくまでも13枚形にあるので、和了形14枚を「-1シャンテン」という言い方はおかしいというのもその通りではと思い至りました。
二つ目は、ターツオーバー形の分類に関してです。
「1シャンテン形で032型を独立させていない(031型の派生としか見ていない)のに、2シャンテン形で114型は独立させているのは筋が通らないのではないか」という疑問をいただき、この疑問ももっともだと思いました。
これらの問いによって、「欠-充-多」としていたターツの分類を、「ターツが足りているかー多いか」の二つに分け直しました。
その結果、私も以下の結論を取ることにしました。
現実的には、何切る問題等で031型と032型が分かれてなくて困る事態にはならないと思うので、032型は派生形で良いと思っています。対して114型はたびたび問題になる牌姿です。
要は、人間の都合で分かれているだけじゃないかと思いましたが、戦術というのは一面、人間のためのものなので、それで良いのではと思ってます。
これに関して、ネマタはまた少し違う分類を試みているようです。
どう分類すべきか私にも自信はありません。
ただ、『令和版 現代麻雀技術論』p74では2シャンテン形を9種類に分類していますが、孤立牌が浮き牌かどうかでの区別は不要ではないかと思っています。
また、以下の分類の方が興味深いのですが、私はこれをまだ理解できていません。
完全1シャンテンについて
※1シャンテン形の122型のところで書きましたが、完全1シャンテンに関してはネマタから以下のリプライをもらいました。
彼曰く、
だそうです。
また
とのことです。
思うに、「完全」の定義が
「①余剰牌がない」
という意味と、
「②良形が確定している」
という意味と2つあるように思われます。
先の浅見了さんの「ポンチー」のページにあった沼崎定石の例は愚形含みでした。
私見では、「完全形」という場合、この①と②の要素は両方必要です。
なので、完全1シャンテンは2メンツ形とヘッドレス形にしか存在せず、くっつき形にはないのだと思います。
なぜならば、孤立牌にくっついてターツを作るくっつき形は、良形が確定しないために②の条件を満たさないからです。
ですので、原理的にはあくまで1シャンテンは3種類であり(うに丸本では4種とされている。p8)、2メンツ形とヘッドレス形には「完全形」が存在し、くっつきには存在しない(ネマタ曰く「黄金」はあるのかもとのこと)というのが私の理解です。
これに関しては今後の検討課題だと思います。
また、①に関してうに丸さんの本ではp9で「すべての牌が受け入れに機能している」という表現を用いていますが、「機能」とは何かがわかったようでわからないので、端的に「余剰牌がない」とした方がわかりやすいと思い、こっちの表現にしました。
おそらく「受け入れに関係している」と表現してしまうと111m23p23sの1mは受け入れには関係ありません。ただ、14p14s引きからの打1mなら良形に取れる「関係」がないわけでもないので、「機能」を使ったのではないかと理解してます。
ただ、じゃあ111m23p23789sとかだったときの789sはどう機能しているのか(切らないことでシャンテン数が維持されるという機能なのか)と考えると、機能が指している範囲がよくわかりませんでした。
「完全形」の定義については下の記事がとても良く整理されていたので貼っておきます。
まとめると、私の完全形の理解は
と現在は考えています。
追記 2024.7.12
安藤もゆりさんが「暗刻+5連形+5連形」を挙げてくれました。
ヘッドレス形の完全1シャンテンを13枚に拡張したこの形はとても強いのを見落としていました。
評価値で言えば46/46⇒46で、中膨れ三面トイツ+純正の三面単騎の45/52⇒≒39より上です。
ネマタがすでに触れていたようです。
34567777m34567p
この形は11134567m34567pと比べて、7mの縦受けが3枚減りますが、最終形に五面張が残る可能性は高くなるのでその分、強くなっているらしいですが(私もそれはそう思います)、どのように最終形の評価値を補正すべきかを示せていないので、現時点ではなんとも言えない形です。
受け入れ、打点、最終形の三すくみをどう考えるかは4枚形の受け入れ(四連形)、打点(中ぶくれ)、最終形(亜両面)のところでも出てきましたが、大変興味深い問題だと思います。
テンパイの速さと和了までの速さ
受け入れ枚数の多い手牌イコール速くあがれる手牌ではないことは経験的に知られている事実だと思います。
例えば、名著『牌賊オカルティ』2巻15話で、スピードキングの異名を持つ些渡(さわたり)はこう言っています。
これは本当にその通りだと思うのですが、長い間私には、1シャンテンの段階でこれをどのように評価するのか、その方法がわかりませんでした。
余談ですが、以前、古書の戦術書を漁った時に知りましたが、昭和一桁台の頃はテンパイの速さ=和了への速さという認識だったようです(役なしであがれるし、リーチもない時代なので、認識が違うのかもしれません)。
少なくとも昭和を経た現代麻雀の認識は「テンパイの速さ≒和了までの速さ」であると思います。問題なのは任意の手牌を前にしたときに、これをどう評価するかです。
一人麻雀練習機やpystyleさんのシミュレーター、今はなきツモアガリ確率計算機等には「和了率」が表示されます。これは受け入れ枚数にある程度連動しているように見えます。
しかし、受け入れ枚数と和了までの速さはイコールで無いと言うのです。かといって良形率がすべてというわけでもありません。
「良形受け入/全体の受け入れ」だとして、30/58の手牌と28/32、16/16の手牌だったらどの手牌が一番速い、あるいは価値が高いと言えるのでしょう。
絶対的な良形の受け入れ枚数で順位をつけるなら30/58が一番多いし、良形率で言えば16/16です。しかし、私の眼には28/32が一番魅力的に映っています。
この問題をどう解決したらよいのか長らくわかっていませんでしたが、この度、
と閃きました。
例えば上の問題だったら、
受け入れ58枚中30枚が良形の手の評価値は、30*(30/58)なので約15.517です。
以下、28/32⇒24.5、16/16⇒16です。
ですので順位をつけるなら上から28/32、16/16、30/58となります。
これは、受け入れ全体の中でどのくらい良形になる受け入れがあるかという良形率と違って、受け入れ枚数の多寡に加え、受け入れた結果が良形になる割合を示す、いわば良形効率のようなものです。
この良形効率が高い手牌は、テンパイしやすく和了もしやすくなるのではないか、前述のテンパイの速さではなくアガリまでの速さを表せるのではないかと思いましたので、ここで一石を投じておきます。
ただ、手牌価値といった場合さらに打点を考慮しないといけないのでこれをそのままは使えないとは思います(打点に関しては、満貫の受け入れ枚数×満貫和了率みたいな、満貫効率みたいな指標がいるのかもしれない)。追記 2024.7.12
追記2024.10.8
現行の「完全イーシャンテン」の定義について考えてみました。
諸々の変遷を経て現在の完全イーシャンテンは以下の3つの要素で理解されていると思います。
①良形が確定していること
②余剰がないこと
③シャボ受けがあること
①だけ、つまり完全イーシャンテンを「必ず良形になる」と説明するのは間違いで12356m23p45688s北のような形と区別できません。
②だけでも不十分で、12356m135p45688sとの区別があります。
③を「シャボ受け」ではなくて「縦受け」だと思いましたが、「縦受け」だと111m23p23sが区別されませんので「シャボ受け」で良いと思います。これは「ポンできる」と表現してもいいのかもしれません。
沼崎定石かつ良形という理解でOKだと思いました。
問題はこの形を特定したうえで、それを論じるだけの価値がある形かどうかなのかもしれません。
「完全イーシャンテン」はいうほど強くもないので。ただ、牌理の道のりで最終地点として目指すべき目標のような形としての意義は十分にあるんじゃないかと思います(111m23p23sのような形は一般的ではないので)。
あとがき
菅野容夫『一しやん聴』
知っている人はそこまでいないと思いますが、菅野容夫(すがのやすお)さんという方の『一しやん聴』という麻雀戦術書があります。
本書の出版は昭和6年(1931年)の5月です。この年の9月18日に満州事変が起きますのでそれよりも前です。まだリーチ麻雀など全くない時代の話です。
1シャンテンの形を4枚形、7枚形、10枚形、13枚形というように、確定メンツ数を除いた部分で構成して分類し、天鳳の牌理機能のように受け入れ枚数をひたすら数えている本です。1シャンテンの受け入れ表が牌姿とともに1000以上載せられています。はっきり言ってしまえば奇書です。
私は本書の存在を全く知りませんでしたが、麻雀研究の大家である浅見了さんのサイト(麻雀祭都)をつらつらと眺めていて教わりました。
「へえ、そんな本があるのか」と思い、すぐにAmazonで検索してみましたがひっかかりませんでした。
ただ以前、ウォルター・バジョットの『自然科学と政治学』を自分で訳してみたときに、大道安次郎訳の絶版本がどうしても手に入らず、国会図書館のデジタルサイトのサービス(国立国会図書館デジタルコレクション)を利用したのを思い出しました。絶版本をネットで閲覧できるサービスです。
すこし手間はかかりますが、登録すれば家に居ながらにして絶版本を読めるという素晴らしいものです。検索したら割と簡単に見つかりました。
昭和5年という時代
昭和5年と言えば今から93年前です。詳しくはないのですが、ここで麻雀がどのように受容されたのかを振り返ってみます。Wikipediaの「麻雀」の項からまとめます。
記録によると、1909年(明治42年)に清から麻雀牌を持ち帰った名川彦作さんという人が最初で、大正中期(1914年から1918年)以降はルール面において独自の変化を遂げつつ各地に広まったらしいですが、麻雀というものが一般に認知されるようになったのは大正12年(1923年)の関東大震災の後とのことです。今から丁度、百年前くらいですね。
Wikipediaには菊池寛が熱中したとあります。さすが菊池は「ギャンブルは、絶対使っちゃいけない金に手に付けてからが本当の勝負だ」という、大野伴睦の「酒は飲む以上わけがわからなくなるまで飲むべきだ」に匹敵する名言を残してるだけあります。
伝播の波はその後も拡大を続け、1933年~34年頃(昭和8年~9年)には、著名人が常習賭博(理由は花札もらしい)で逮捕されています。
久米正雄、里見弴(さとみ とん)、広津和郎(ひろつ かずお)などの、国語の資料集に載ってるような、いわゆる「鎌倉文士」たちが検挙されています。
以前、豊澤道生(とよさわみちお)さんという方の戦術書の中で、「(ピンフツモという不合理な「鎌倉ルール」を)昭和初期に鎌倉に住んだ文士たちが取り入れ、」云々という記述を目にしたことがありますが、この辺の人たちを指していたのだと思いました。
文士賭博事件
この文士たちが芋づる式に検挙された事件を「文士賭博事件」と言うそうで、第一次と第二次があるようです。「福島民報」に記事がありました。
この時は菊池寛が警察との間をとりなしてますが、結局、菊池も第二次の方で検挙されます。
これについては福地さんの記事も見つかりましたが、下のページが詳しかったです。
ちなみにレートは1000点10円ないし15円くらいだったそうです(ちなみにルールは2000点持ち)。
昭和2年の時点での10円の価値は2012年時点(1ドル約80円)での6000円くらいらしいので、2024年時点(1ドル約160円)だとさらに倍くらいなのかはよくわかりませんが、仮に6000円だとしても1000点10円なのでトビが12000円~です。
1ゲームどのくらいの所要時間だったのかわかりませんが、結構なレートにも見えます。菊池寛のWikipediaの項目には時事新報社の新米記者だった菊池の月給が25円とあります。
プレイしている連中はみんなそれなりに売れっ子なわけですが、1ゲームに新米の月の給料の半分とかだとかなり高額にも思えます。
以上から、昭和5年という年は、麻雀が一般に普及したとされる大震災の年から数えても8年が経過していますので、高度な戦術書が出版されるくらいに機が熟していてもおかしくはかったのだと思われます。
ブームの加熱ぶりからしても、このような奇書が生まれる素地もそれなりにあったのでしょう。
しかし、そんなこととはつゆ知らず、ほとんど100年前の本なので、どれくらい誤ったセオリーやオカルトに満ち満ちているのだろうと逆の期待でページをめくってみましたがひっくり返りしました。その合理性や網羅性、問題意識の現代性からです。
本書の意義と限界
関係ない賭博の話に夢中になってしまいました。
さて、現時点から見た限りでの本書の意義と限界について私見を述べます。
本書の意義については、麻雀を合理的に解明しようとしたその精神と、1シャンテン形の受け入れ枚数を網羅しようとした点にあるでしょう。
牌姿だけで1000以上、1シャンテン形だけで約400ページは圧巻というほかありません。このような本は現代でもありません。
本書の途中に出てくる上達法のコラムでも、現代と変わらないようなことを述べています。
また、研究姿勢についても次のように言っています。
牌歴は現在なら雀歴、雀人は雀士ですかね。雀技は何と言うのか。テクニックとか引き出しとかでしょうか。
使われている言葉が現在と違うのも面白いですが、非常に合理的な記述です。
また、なぜ研究の対象を1シャンテンにしたのかというと、早和了をするため(下の画像は「早知り法」となっていますが、「早和り法」の誤植でしょう)だと明快に言っています(ルールは現代のリーチ麻雀と異なりますが)。
この方向も合理的だと思うし、1シャンテンピーク理論にも通じるものがあると思います。
ちなみに文中の「兵牌」とは「手牌」のことです。「雀相」が何を指すのか私にはわかっていません(「捨て牌相」という言葉がありますが、同じように形の特徴くらいの意味なのかもしれません)。
本書の問題点として指摘すべき、一つ目は分類の方法です。
確定メンツを除いて潰していくこの1シャンテンの分類法で漏れやダブりがなかったか、あるいは実戦で使えるような結論が得られたのかという点です(重複が結構あります)。
たとえば、『現代麻雀技術論』で行われているような、1シャンテンを2メンツ形、ヘッドレス形、くっつき形と3種類で分類はされていません。
そもそも「1シャンテンの定義」(本記事で言う「8から引く数の合計」)を考えた形跡がありません。
たしかに1シャンテンを区別するための指標についての記述はありますが、「もう1枚有効牌が来ればテンパイになる状態を1シャンテンと言います」と言っているにすぎません。
とりあえずラベルを張り付けた意味はあるでしょうが、これだけだとほとんど何も言ってないに等しいと思います。
分類の仕方もたくさんあるでしょうが、「シャンテン数に応じた手牌の形は、シャンテン数の公式に応じた手牌の構成で分類されるべきでないか」と私は思います。
その結果、手牌の構成要素として雀頭、メンツ、ターツによる分類となり、例えば、「ターツ>雀頭>メンツ」の順に作りやすいため、それがそのまま「くっつき>ヘッドレス>2メンツ形」との順にテンパイしやすさになる等々と説明されるべきではないかと思います。
少なくとも本書にそのような判断は見当たらず、ただ、牌姿ごとの受け入れ枚数が列挙されているように見えます。
二つ目は記法です。
何事においても思考を明晰に表現できる記法の発見が偉大な一歩であることは論を俟たないと思いますが、菅野さんは何らかの理由で「符号で示すべく工夫」をうまくいかないと判断してしまいました。ここはとても残念です。せめて失敗であるとされた理由や内容は知りたかったです。
この記法がうまくいっていれば、あるいは分類法自体が変わっていた可能性が十分にあったからです。
三つ目は研究対象です。本書で扱われているのはあくまでも1シャンテンの「受け入れ枚数」であって「期待値」ではない点です。
時代の制約というほかありませんが、そのような分類法、記法、対象といったいくつかの限界(だと私が思っているもの)を抱えつつも、本書が戦術史において巨大な足跡を残していることは間違いありません。
結局、私たちが普段何気なく使っている、例えば雀頭、ターツ(リャンター、カンター、ペンター)、トイツ、亜両面、中ぶくれ、四連形、両翼形、2メンツ形、完全1シャンテン、くっつきテンパイ、ヘッドレス、ブロック等々の麻雀用語、言い換えれば概念で物を見ることができるのは、先人たちの工夫や努力の巨大な集積のおかげであるというのがよく分かります。
巨人の肩の上にのる矮人(nani gigantum umeris insidentes)というやつです。
というわけで、本書をちらちらと見て私は大変驚愕したわけですが、その後の麻雀戦術でのオカルトの隆盛などを鑑みるに、本書の合理的な精神がどうして受け継がれなかったのかという疑問を持たざるを得ませんでした。
かくいう私も本書の分類法を咀嚼しきれていないので、これについては引き続き検討課題とします。
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