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【九州旅行記1】華金は旅の始まり
終業のチャイムと同時にPCを閉じて、足早に帰宅した。
「気をつけて行ってきてね」と言う温かい言葉は追い風となった。
半年温めた旅がいよいよ始まった。
金曜の夜に出発する旅の高揚感で、横須賀までの道のりはあっという間だった。
途中で済ませる予定だった夕飯もとり忘れ、地元より賑やかな街並みである横須賀に入る。
いつもと違う景色の金曜日、夜。気分の高まりがおさまらない。
予定より1時間も早く到着し、駐車場にて係員の指示に従い停車する。
これから21時間の船旅を前に、お世話になる船を一目見るためにターミナルへ足を運んだ。
船の存在感はより一層旅への期待を膨らませた。
1人だからはしゃげないが、顔はふにゃふにゃに綻んでいただろう。
ターミナル内で待つ人は、意外にも高齢な方が多かった。
やけに明るい屋内に、皆静まりその時を待つ。
特殊な場末感が、体験したことのない旅をより想像させる。
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ターミナル内で夕飯を済まして車に戻る。
続々と駐車場に集まる車に、存在しない仲間意識を覚える。
それぞれ目的が違うだろうが、一つの船で同じ目的地を目指す他人がいることに嬉しく思った。
自作した旅のしおりを眺めて暇を潰していると、いよいよ乗船の時が来た。
ゆっくりと、船に車で乗り込む特別感を味わう。
ジェットコースターが登っていくような角度で上がっているマイカー。
きっとそう何回もできない経験だ。
乗船後、そんな特別感が薄れるように忙しなさに襲われた。
皆手際よく船内へと向かっていく。
カプセルホテルのような個人スペースに荷物を置く頃には出港しており、貴重な瞬間を見逃した。
離れゆく本州を眺め、明日の昼飯に目星をつけ、船内を一周して気持ちを落ち着かせる。
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すでに混んでいた船内のお風呂でシャワーだけ浴びて、眠りについた。
明日起きたら何をしようか。やりたいことは山ほどある。
上がりきったテンションでも1週間の疲れが、眠りへと簡単に誘った。
夢にまでみた船旅は、ここから21時間。
船で眠る事も、旅先に寝ながら向かうことも初めての体験。
私の初めてばかりの九州旅は、華やかな金曜と共にはじまった。