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【BL二次小説】 お出掛け③
日曜日。
新開は△△駅前の噴水の脇に座っている。
改札口の正面に位置しているので、すぐわかる筈だ。
荒北は、まだ来ていない。
それもそのはず。
まだ、9時なのだ。
「……1時間も早く着いちまった」
待ちきれなかった。
寮に居てもソワソワして落ち着かない。
誰かに捕まる前に、と早めに寮を出たのだ。
初めての……デート。
荒北は、来てくれるだろうか。
よくよく思い返して、不自然な点が多いことに警戒し、ドタキャンされたりしないだろうか。
色々な事が頭の中を巡る。
不安になる。
しかし、この……想い人を待っているという、この時間。
なんと、心地好いのだろう。
新開は、こんな気持ちになるのは初めてだった。
たとえ警戒されたとしても、荒北は約束を破るような人間ではない。
きっと来てくれることは確かだ。
箱学方面からの電車が到着する度、ドキドキして改札口を凝視する。
出てくる降客達を眺め、荒北の姿を探す。
降客の流れが途切れるまで、息が止まる。
荒北が居ないとわかると、再び呼吸を始める。
この、高揚感。
胸の高鳴りが止まらない。
きっと自分は、このまま何時間でも何日でも、荒北を待っていられるだろう。
全く苦に感じないだろう。
これが……恋……。
恋、なのだ。
新開は、実感する。
今まで誰にもこんな感情を抱かなかった。
靖友……オレの、特別な、ヒト……。
そう考えるだけで、胸が熱くなる。
今の自分は、地球上の誰に対してでも優しくなれそうだ。
「新開?」
「!」
急に後方から名前を呼ばれ、驚いて一瞬腰が浮いた。
振り向くとそこに……。
「靖友!?」
荒北が立っていた。
「え?え?靖友?……おめさん、どっから来た?」
わけがわからない。
ずっと改札口はチェックしていた筈だ。
いつの間にすり抜けたのだろう。
新開は立ち上がった。
荒北は首の後ろをポリポリ掻きながら、照れ臭そうに言う。
「……いやオレ、8時半に着いちまってヨ。その辺ブラブラしてたン……」
「8時半て……」
驚く新開。
「早過ぎだよ!」
「オメーだってまだ9時10分じゃねーか!」
「……」
「……」
予想外の展開に調子が狂う二人。
「……なんでそんなに早く?」
もしかして荒北も、二人で会うってことでドキドキして、落ち着かなくて早く寮を出たのだろうか。
もし、そう答えてくれたら、嬉しい。
そう思って尋ねる新開。
「エ?ア……その、電車、ラッシュ、そう、ラッシュに巻き込まれたら嫌だなァ、って思って、早目に……」
我ながら巧く誤魔化せた。
と荒北は思った。
本当は緊張してゆうべ一睡もしていない。
日曜の箱学寮はみんな朝ゆっくり寝ている。
しかし誰かが起きてくる前に寮を出てきたかったのだ。
「ラッシュて……」
日曜日の朝にラッシュがある筈ないだろう。
そう突っ込もうとしたが、新開は飲み込んだ。
荒北は、きっと、照れ隠しにそう言ったのだ。
そうに違いない。
きっと、荒北も自分と同じ気持ちだ。
そう、だよな?靖友。
オレ、期待して、いいよな?
だが、断定は出来ない。
決め付けるのは早計だ。
ついつい自分に都合の良いように解釈してしまうのは、危険だ。
慎重にいかねば、と決心したではないか。
新開はブンブンと頭を左右に振って、気を引き締めた。
「まだ……早えェしヨ。茶ァ、すっか」
荒北は後方を指差しながら言った。
さっき駅周辺をブラブラしていた時、営業しているコーヒーショップがいくつかあったのだ。
スポーツ用品店の開店時間は10時。
まだ半端に時間がある。
「……そうだな。じゃ、そうしようか」
二人は並んで歩き始めた。
デートは、始まったばかり。