【BL二次小説】 彼氏にするなら①終
部の管理室。
東堂は机に向かい、日誌を書いている。
ガチャ。
「オゥ。お疲れ」
管理室のドアが開き、荒北が入って来た。
指先に引っ掛けた鍵をクルクル回し、鍵棚に手を掛ける。
「倉庫の鍵、返すぜ」
「うむ。ご苦労」
東堂は顔を上げた。
「荒北」
「ン?」
「彼氏にするなら誰がいい?」
「ハァ?」
おもむろにヘンテコな事を尋ねる東堂。
「やっぱり頭おかしかったンだなオメ。以前からそうじゃねェかと……」
「今巷で流行っているジョークなのだよ。日誌書いていて思い出した」
「どんな日誌だ」
東堂は荒北を指差し、ニヤリと笑う。
「貴様が彼氏に選ぶとしたら相手はやはり……フクか」
「!」
ドスっ。
荒北は東堂の向かいの椅子に乱暴に座り、足を組んだ。
「いや、違うな」
「フクではないのか?」
東堂は意外だという顔をした。
「オレにとって福ちゃんは……」
荒北は語り出す。
(彼氏……?)
その時、管理室に入ろうとしていた新開。
開けっぱなしのドアから中の二人の会話が丸聞こえで、思わず足を止めた。
「福ちゃんは尊敬する上司みてェなもんだ。彼氏って感じじゃねェ。彼氏ってのァもっと……」
「もっと?」
東堂は前のめりになる。
「色気を感じさせてくれねェとな」
「ほう!色気!」
(色気……)
廊下で聞き耳を立てている新開。
「わはは!確かにフクに色気の要素は皆無だな!その点、巻ちゃんは色気ムンムンでオレの彼氏にふさわしい!」
「巻島に色気あンのかどうかオレにァ全くわかんねェけどヨ」
荒北は天井を見上げて言った。
「オレが色気を感じるのァ……新開だナ」
(……!!)
荒北の口から思いがけず自分の名前が出てきて、新開は驚く。
(靖友……!靖友がオレを……彼氏に!)
ドクンドクン。
鼓動が早くなる新開。
「ぬ?隼人だと?貴様オレが色気で隼人に負けていると言うのか!」
「だからなんでテメーはすぐ新開と張り合うンだ」
カラーン。
「!」
「!」
(!)
その時、新開がサングラスを床に落としてしまい、その音で二人は廊下に注目した。
「隼人!」
「……!」
「や、やあ」
新開はサングラスを拾い上げながら、照れ臭さそうに笑う。
「聞いていたのか」
「ああ。ははっ」
「……」
荒北は椅子から立ち上がったまま固まっている。
「丁度良い。荒北が貴様を彼氏にしたいそうだ。まあジョークだがな。わはは」
「!!」
「!!」
東堂にそう言われ、飛び上がる新開と荒北。
「ウ……」
荒北の顔がみるみる赤くなっていく。
「靖友……」
新開もはにかんでいる。
「おい荒北。わかっているのか?ここで赤くなってはシャレにならんのだぞ」
荒北の様子を見て突っ込む東堂。
「ウウ……」
新開と目が合い、耳まで真っ赤になっている。
「……」
新開も同様に頬を赤く染めている。
「荒北。貴様……」
東堂が声を掛けると、荒北は急に叫び声をあげた。
「ゥワアアァァーーーッ!!」
バタバタバタバタ!
荒北は叫びながら駆け出し、新開の脇をすり抜け、廊下を走って行った。
「靖友!」
走り去る荒北の背中を見つめる新開。
「ど、どうしよう。オレ、どうしたらいい?尽八」
オロオロしている新開に東堂は言った。
「うむ。とりあえず抱いてこい」
「わかった!」
「というのは勿論ジョークだが……隼人!おい!」
新開は全速力で荒北の後を追いかけて行った。
「……まあ、いいか」
行ってしまった二人を目で追う東堂。
そのまま机に戻り、座る。
そして何事も無かったかのように再び日誌の続きを書き始めた。