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開成学園卒業所感 関係性について①

僕は、少し変わった人が好きです。

その人がその場に現れた途端コロコロと振動する空気、に敏感なのでしょう。その人にしか持ちえない特有のイントネーション、口癖、昆虫的な繊細さを伴う身振り、相槌、…浅短な自分には分析しきれない無数の異物に魅了されやすい性格なようです。

つまり、その人がその人である、という最も簡潔で、僕にとっては何よりも自然な理由で、気づくとその人の背中を追いかけているのでした。

僕の、この傾向が一番強かったのは、恐らく中学生の頃だったと思われます。
 
開成学園には天文気象部という素晴らしい部活がありました。

その合宿は一週間ほど星が見える(東京からすれば)僻地に宿泊し、気合で昼夜逆転、夜の8時ごろから朝の5時頃まで永遠に夜空を眺めるというもの。

ただ眺めるといっても、カメラで写真を撮ったり望遠鏡で天体を入れたり色々するのですが、僕にとって最も魅力的だったのは、部に所属するたくさんの”変”な先輩達と、同じ空間に存在する権利が与えられることでした。

心惹かれる他者とただ同じ時空を共有するだけ、という、たっとい人の営みに、未だフィット感のある言葉がアテられていないこと、人類は何しているん?と思わざるを得ませんが、きっとこういえば伝わるはずの、要は素敵な体験ができたのです。”雑談”という言葉では荷が重い、時間の繊細な経過と弾けるような言葉の往来を、夜の空気と星空が演出してくれたのでした。

合宿で部が文字通り“団結”すると、そのまま文化祭準備に突入します。文化祭が終わると高2が引退、しばらくして中一が入ってきて、またそこで合宿をやって、団結して…の繰り返し。

僕は中学時代、終始、先輩達が大好きでした。でも、今振り返ると、その人がその人である、ということ以外、実は何も知らなかったような気もします。部室にその人が入って来た、ただそれだけの理由で胸が沸き立った当時の自分には、あまり知るということの必要がなかったのかもしれません。
 
先輩達は、トトロみたいです。
小学校卒業したての自分にとって、高校生はヒドく大きく、粗い存在だったというのもありますが、サツキやメイとトトロの関係が、僕と先輩達の関係、少なくとも僕の視点から、とあまり大きく変わらないように思われるのです。メイは、彼らがトトロ(と後に分かる”変”ないきもの)だというだけの理由で、彼らを追いかけ、大トトロを発見します。トトロ達と彼女らは、お互いを深く知ることなしに、雨降るバス停で傘を差し、蒔いた種の芽を空まで伸ばして、不思議な時空間を共有する、最後サツキはトトロの力を借りてメイを救出し、物語を終えます。僕にとって開成中学校での記憶は、人間世界に存在するファンタジーで、物語そのものだったように思われるのです。物語であることが、フィクションであることを意味しない世界、イコール虚しいことにならない時空間、サツキやメイに負けない子供時代を過ごせました。
 
さて本題です。
ここで、大切な思い出をクールに評価できる、学園を卒業した大人な僕が問います。
 
あの頃の僕とトトロとの関係は、果たして未完成でしたか。
 

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