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「効果的なふりかえりは仮説設定が9割」というLTの報告と補足事項

この記事で伝えたいこと

findyさんで行われたLT Nightにて「効果的なふりかえりは仮説設定が9割」というタイトルでLTをやってきました。

この記事では、LTの内容を解説しつつLTでは触れなかった部分にも触れながら仮説の大事さと作り方、チェックリストなんかを紹介します。


LTで使った資料

仮説とは何か

Wikipediaによると

仮説(かせつ、英: hypothesis)とは、真偽はともかくとして、何らかの現象や法則性を説明するのに役立つ命題のこと。仮に設けられた説として仮設とも書く。仮説はその正否を実験的に検証しうるような、具体的に明確な内容を持つものであり、その仮説に反するような新しい実験事実が出てきても、その仮説を工夫してのらりくらりと変えて、いつまでたっても誤りを認めないような説は仮説ではなくドグマである。

Wikipedia

と記載されています。
ビジネスにおいて、私の考える仮説の定義は

事業成長や目標達成、課題解決のために導き出した、最も正解に近いと思われる答えであり、検証可能(定量/定性データで実証できるくらい「具体性」がある)な仮の結論。
不確実な状況において意思決定を導くための出発点となるもの。

であると考えます。
特に重要なのは不確実性への対応という点で、検証により新たな情報を得て将来の方向性の指針となることができるので良い仮説を作ることは大きな意味を持つと言えます。

なぜ仮説が大事なのか

これはLTの中でも触れていますが、一言でいうと仮説はプロダクトの改善プロセスほぼ全てに関係するからです。

「効果的なふりかえりは仮説設定が9割」LT資料より

現状把握

現状把握はすでにある定量・定性のデータを参照しながら行うと思いますが、仮説をもって取り組むことでキャッチアップを早めることができます。

例えば「ユーザー離脱率が高いのは登録フローが複雑だからではないか」という仮説を立てることで、すでにあるデータの参照や分析の焦点が絞られ、定量・定性データの収集が効果的に進められるようになります。

また、データだけでは「なぜそうなっているのか?」が不明確なことが多いため仮説を立てることでその背後にある情報を補完することもできるでしょう。

課題設定

大前提として、プロダクトの改善は表面的な問題ではなく本質的な課題を特定することが重要です。

課題設定時に仮説を活用するのは「何故この問題が発生しているのか?」を明確にし、適切な解決策を見出すためです。
現在見えている問題が本当に解決すべき課題とは限りません。
ここで仮説が役立つのは表面的な問題の奥にある根本的な原因を明らかにするための思考の道具として機能するからです。

ここでの仮説の役割は、「この問題の本当の原因は何か?」を複数の視点から整理し、より深い理解につなげることです。
例えば

  • 仮説1:登録フォームの入力項目が多すぎて離脱している

  • 仮説2:流入したユーザーの意図と提供価値がズレており、そもそも登録の必要性を感じていない

  • 仮説3:無料プランの内容が十分に伝わっておらず、登録のインセンティブが弱い

というように課題設定の段階で仮説を持つことで、思い込みや先入観による表面的な問題解決を避け、より本質的な課題に近づくアプローチができるようになります。

施策の検討

課題が特定できたらそれを解決する施策を検討します。
この段階での仮説の使い方は課題設定の段階とほぼ近しいですが「どの施策が最も効果的か?」を見極めるために仮説を活用することになります。

例えば先ほどの仮説1「登録フォームの入力項目が多すぎる」に対する施策として単に「入力項目を減らす」だけではなく、「画面を分けてステップ形式にする」「SNS連携によるプロフィール登録を追加する」「入力補助を入れる」など複数の選択肢が考えられます。
ここで各施策の仮説を明確にすることで、工数と効果のバランスを見たり実際に行う施策の優先順位を決めやすくなります。
具体的には

  1. 「プロフィール登録の負担を減らすべくSNS連携を追加すれば、登録完了率が20%向上する」

  2. 「1画面の入力数を減らしステップ形式にすれば、負担が少なく見えて離脱率が30%低下する」

といった仮説を立て、それぞれの期待効果に対する実装コストが比較できるようになるでしょう。

さらにいうと施策を分割しスモールステップで検証できる形にすることも大切です。例えばまずはA/Bテストで「現在のフォーム vs SNS連携あり」の登録率を比較し効果を測定してから次の施策を考えます。これにより施策が上手くいかなかった場合に生じる無駄な工数を減らすこともできるでしょう。

施策の実施

施策を実施している際には大きく仮説が影響するわけではありませんが、事前に立てた「この施策がどのような結果を生むか?」という仮説を意識することで特に長めの時間が必要となる施策において方向性がぶれないように、ぶれたり思ったようにいかないのであれば中止して早めに軌道修正し、違う施策に取り組むことができるようになるでしょう。

効果測定・振り返り

施策を実施した後の効果測定では、「施策の結果がどうだったか?」を確認するだけでなく、「なぜその結果になったのか?」を深掘りすることが重要です。ここでも仮説が役立ちます。

例: Googleアカウント連携を導入したものの、登録率が思ったほど改善しなかったとします。このとき、「なぜ期待した効果が出なかったのか?」 を考え、仮説を立て直します。例えば、「Google連携を選択するユーザーがそもそも少ないのでは?」という仮説を検証するために、ログデータを分析します。もし、Google連携を利用するユーザーは多いのに登録完了率が低い場合、「連携後の次のステップに課題がある」可能性が浮かびます。

また、施策が成功した場合でも、「なぜ効果が出たのか?」を明確にすることが重要です。単に「登録率が上がった」だけで終わらせず、「どのユーザー層で特に効果があったのか?」「どの改善要素が影響したのか?」を深掘りすることで、次の改善施策に活かせる学びが得られます。

振り返りの際には、「当初の仮説と結果のズレ」を洗い出し、新たな仮説を生み出すことが大切です。仮説と結果を突き合わせることで、学びの精度が向上し、次の改善に向けたより良い意思決定ができるようになります。

良い仮説の特徴

ここはLTで力を入れて話したところになるので資料をそのまま貼りつつ、補足事項を追加します。
私がこれまでの経験から重要だと思う良い特徴を3つに絞って挙げました。

「効果的なふりかえりは仮説設定が9割」LT資料より
  1. 解決すべき「本質的な課題」に繋がっていて検証可能であること
    目の前の問題を解決するだけでなく、目指すべき姿(プロダクトビジョン)に向けて「解決すべき課題は何か?」を考え定量・定性データで検証可能であることが重要です。

  2. 「言い切りの形」で表現されていること
    「言い切りの形」ということは正誤がはっきりしているということです。正誤がはっきりしていることで仮説の検証結果から明確な学びを得ることができます。

  3. 検証結果に基づく「次の意思決定が明確」であること
    仮説はただ試すためのものではなく「次に何をすべきか?」の意思決定を加速するためのものです。
    仮説が正解だった場合、誤っていた場合、それぞれ次はどのような行動が取れるか?あるいはどのような仮説が成り立つか?まで見据えられていることが良い仮説であると言えます。

仮説構築のステップ

ステップ1. 現状を正しく観察する

まず、「何が問題なのか?」 を明確にしましょう。ここで重要なのは、データや事実に基づいて観察することです。

現状把握でやることの例
・ユーザーの行動データを参照する
・レビューやサポート問い合わせの内容などユーザーの声を集める
・競合サービスと比較して違いを探る

ステップ2. 可能性を考え、仮説を立てる

次に観察したデータから「この問題が起こる理由は何か?」を考えます。
1つではなく複数の仮説を立てるのがポイントです。
具体的な仮説の立て方については後述の3つのポイントをご覧ください。

ステップ3. 仮説を検証できる形にする

ここでは仮説が本当に正しいのかを確かめる方法を考えます。

検証のポイント
・データで確認できるか?
・実験で確かめられるか?
・ユーザーの声を集められるか?

ステップ4. 仮説を実際に行うことで何が得られるかを考える

仮説で重要なのは正しいかどうかではなく「なぜこの結果になったのか?」を学ぶことです。

フォームの入力項目を減らしてA/Bテストした結果、登録率は少し上がったが、まだ低いままだった
🔍 学び:「入力項目が問題ではなく、他に原因がある可能性が高い」
→ 新たに「無料プランの説明不足」という仮説を立て、登録前にメリットを強調するページを追加する施策を考える

良い仮説を作る3つのポイント

  1. 複数の仮説を立て、仮説構造を明確にする

  2. 仮説を小さく分割し、実行速度を速める

  3. 「表面的な指標」ではなく「根本的な指標」を追う

1. 複数の仮説を立て、仮説構造を明確にする

「効果的なふりかえりは仮説設定が9割」LT資料より

並列に考えるためには様々な立場に立って考えることが必要です。
わかりやすい例は職種(エンジニア・デザイナー・PM・Biz・営業・CS・バックオフィス)だったり、年齢(10代・20代、30代・40代)、性別等が挙げられます。
付け加えるならばターゲット層だけに絞って考えるのではなく、それ以外の層からはどう見えているのか?対象外にしているターゲット層からはどう見えているのか?という形で視野を広げてみることも重要です。

2. 仮説を小さく分割し、実行速度を速める

せっかく良い仮説ができても着手するまでに半年かかる、仮説検証完了に1年かかるようでは学びを得るのが遅くなります。
その仮説に基づいた学びを得るために分割することを考えましょう。
分割する際には5W(When、Who、Where、What、Why)を言語化してみたり、敢えて制約を設けてみると良いでしょう。
注意すべき事項としては3つ目に書いたように小さくすることが目的になって必要な情報が得られなくならないように気をつけてください。

3. 「表面的な指標」ではなく「根本的な指標」を追う

根本的な指標とはすなわちプロダクトビジョンを示す指標です。
もしその指標がイメージできていなければ(あまつさえプロダクトビジョンがなかったら)真っ先にここの着手に取り組んで欲しいと思います。

良い仮説を作るために不要なこと

挙げようと思えばいくらでも挙げられるんですが、特に気をつけて欲しいところを3つ紹介します。

「効果的なふりかえりは仮説設定が9割」LT資料より

良い仮説作りのチェックリスト

1. 課題の本質を突いているか?

  • 解決したい課題に直結しているか?(施策ありきになっていないか?)

  • 目指すKGI・KPIに貢献するか?

  • 表面的なKPI改善ではなく、根本的な問題にアプローチしているか?

2. 検証可能で、学びが得られるか?

  • この仮説が正しいかどうか、定量または定性で明確に検証できるか?

  • 1つの仮説に依存せず、複数の仮説を持ち学びを最大化できるか?

  • この仮説の正誤に関わらず意味のある学びが得られるか?

3. 事業戦略に影響を与える仮説になっているか?

  • 施策と成果の因果関係が説明できるか?

  • この仮説が成り立った場合、事業戦略を変えるべきか?まで考えたか?

  • 複数の仮説を組み合わせ戦略を語れるストーリーとなっているか?

4. 仮説の精度を高めるために考えたか?

  • 「もしこの仮説が間違っていたら?」の視点を持っているか?

  • 既知の情報に基づいているか?

  • リスクを最小化しつつ、最も効率よく検証できる方法を考えたか?

仮説構築力を上げるために今からできること

1. 思考の幅を大胆に広げること

仮説を複数出すためには思考の幅を広げる必要があります。
今まで想定していなかったターゲット層や利用シーンなどをゼロベースで考えてみると良いでしょう。

2. 「小さく分解する」ことを意識する

起きている事象を一括りにするのではなく細かい要素に分解してみましょう。
例えば「今日は雨が降っているから憂鬱だ」という文章は
・今日:時間
・雨:天候
・降っている:動作
・憂鬱:感情・気分
に分解できます。
これらの中身を入れ替えることで様々な文章が作れますが、こういったことを日頃から意識していると分解する力がつくようになります。

3. So What?(だから何?)や「なぜ?→だから」を繰り返し考える

意味、目的、影響、結果を考え続けることで物事の真の原因を見出し、打ち手を考えるようになります。
・○○という状況になっている→だから何だ?🤔→つまりXXということか
・○○という状況になっている→なぜ?🤔→だから次にXXをやる
というように自問自答することで思考力を上げることができるでしょう。

最後に

参考資料

私が仮説に拘るようになり、仮説作りを学んだ資料を共有します。


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