朗読:娘。

親という物は、いつの世も、子を心配します。
でも当の本人、子供は知ったことではありません。

いつの頃かわかりませんが、あるところに、父一人、娘一人の仲の良い親子がいました。
父親は、産後の肥立ちが悪く亡くなった妻の分まで、娘をかわいがっていました。
でも年頃の娘はそんな父親を少し、うっとおしく思っていました。
ある日、気まぐれに娘は、クラスメイトと繁華街に遊びに行きました。
そして、ネオンの煌びやかさに心奪われ、夜遊びをするようになりました。

娘は、金髪ソバージュになりました。不良のほとんどが通る道です。
挙句の果てにレディース・チームに入り、バイクを転がし出します。
娘は風を切る度、叫びます。
「きゃー!楽しいー!全部どうでもイイー!」
学校はつまらない教師に、つまらない授業、教科書に書いてある事だけを言う教師は、何のためにいるのか分かりません。
家に帰れば父親の小言、
「格好が派手。」
「夕飯は一緒に食え。」
「いつまで遊んでいるんだ。」
何もかも嫌になり、家に全く帰らなくなりました。

しばらく経ったある日、全く帰らない娘は、ようやく家に帰りました。
でも、それは“帰らない”も同然の帰宅でした。

その日は大雨でした。
娘は増水した川を見て「うわぁ、すご。」と適当に面白がっていました。
でも、よく見ると猫の親子が、増水した川の中洲に取り残されていました。
「かわいそうにね。」と思いましたが、何を考え直したのか川の中に入っていきました。
そして、そのまま無言の帰宅なったのでした。

娘の枕元で父親は、娘の頬に触れてみました。
気のせいか温かいです。
その時、医師が告げました。
「お別れの時間です。」
思わず父親は声をあげました。
「待って下さい!まだ、娘の体は温かい!」
「でも、丸一日、経っているんですよ?」
「あと、一時間。いや、半時間だけでも。お願いします!」
「…。それで、気が澄むなら。」
「ありがとうございます。」
父親は思わず手を合わせました。

しかし、針は無情にも時を刻みます。
「時間ですね…。」
医師が立ち上がろうとした途端、娘のまぶたが開きました。
そして、発した言葉は、

「パパ…?なんかよく分かんないけど、ただいま。」
「遅い!でも、ようやく帰ってきたな。」
こうして娘は無事に帰り、親子仲良く、末永く暮らしましたとサ。


読了感謝。

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