シネマクティフ東京支部の2019年上半期ふりかえり(座談会書き起こし・その2)
2019年上半期 忘れがたいワンシーン・ワンカット
ronpe 「次のお題はまるゆさんからの 忘れがたいワンシーン・ワンカット です」
まる 「はい」
ronpe 「では僕からいきます。作品的には新作じゃないんですけど」
まる 「いいですよ」
ronpe 「作品は今泉力哉監督作『知らない、ふたり』です」
まる 「おー」
ronpe 「これをキネカ大森さんの今泉力哉監督レトロスペクティブで観ました」
けん 「馴染み深い!(笑)」
ronpe 「2016年の作品ですけど、僕は今回の上映ではじめて観ました。簡単に内容を説明すると、片思いが連鎖するような恋愛群像劇です。
基本的には若い登場人物が多いのですが、そこから少し外れたように登場する二人の人物がいて、
演じているのが木南晴夏さんと芹澤興人さん。芹澤さんはよく今泉監督の作品にも出てくる名バイプレーヤーですね。
映画の後半で、この二人が会話するとてもシリアスなシーンがあるんですけど」
まる 「うん」
ronpe 「そこのシーンがですね、演技なのか演出なのか脚本なのかわからないですけど、とにかく会話のうまさというのが映画でしか表現できないものだったと思います。
もし今泉監督に質問できる機会があれば聞いてみたいぐらいですが、どこまでが脚本なのかわからない。
たとえば会話の中で「じゃあ」という言葉が出るんですけど、その「じゃあ」の部分をつかまえて「じゃあ?」って聞き返したりする。
本当にどこまでが脚本の段階で用意しているのかわからないですけどとても良くて、映画全体的に面白かったんですけど、あのシーンで作品の評価がぐっとあがるようなシーンでした。
なので今年上半期に観た映画のワンシーンで思いだす、という意味でこの作品のこのシーンを挙げました。以上です」
けん 「次は僕ですが、『バーニング 劇場版』のマジックアワーの中でヒロインが踊るシーン」
ronpe 「後ろ姿でね」
けん 「あそこ本当に印象に残ってて。『バーニング』で一番最初に思い出すのもあのシーン。でもあのシーンって物語の中でどんな意味があるのかって、とても言語化しにくいシーンだと思うんですよ。何を表現しているのか。直接的に何かを語るシーンじゃないし。
あの映画のテーマとして、「虚実」というものを皆さん感じると思うんですけど、それを非言語的に感じることができるし、映画のミッドポイントでもあるし。
とても豊かな瞬間だし、イ・チャンドンの作品には理屈じゃない部分も感じるし、どこまで考えて作ってるんだろうって、思うぐらい。
緻密さもあるし、そこで起きていることをいかしてる感じもあるし」
ronpe 「そういう意味では撮影がそうとう凄いと思うよね」
けん 「まぁあれは何回もできる場面じゃないですし」
まる 「ないない」
けん 「『バーニング』はどのシーンもキレてる思うけど、あのシーンはちょっと方向性も違うし、なんか凄いなぁって。印象に残ってるのでこのシーンを選びました」
ronpe 「では次はmatsuさん」
matsu 「僕はこのお題が一番難しくて…」
まる 「ははは」
matsu 「ぜんぜん思いつかなくて。最初思いついたのが『バーニング』の同じシーンだったんですけど。。でもそれをやめまして」
まる 「おー良かった良かった(笑)」
matsu 「あとはー『女王陛下のお気に入り』でおっぱい出てくるとこあるじゃないですか」
まる 「あ。エマ・ストーンが」
matsu 「はい。あそこも思いついたんですけど。。ちょっと。。」
けんす 「恥ずかしいから(笑)」
ronpe 「書き起こしますけどね、ここ」
一同 「ガハハハ」
matsu 「で、言語化できるかどうかわからないですけど選んだのが『家(うち)へ帰ろう』なんですけど、観ました?」
まる 「観ました」
けん 「観ました」
ronpe 「僕は観てないですね」
matsu 「あーそうですか。ある老人がアルゼンチンから祖国ポーランドへ行く話なんですけど」
まる 「ドイツを通らずにね」
けん 「陸路でね」
matsu 「そう。ロードムービー的な感じなんですけど、どうしてもドイツを通らなくてはいけなくなりまして」
けん 「第二次大戦を経験してて、ドイツは敵国なんですよ。なので陸路で通り過ぎるのも嫌だっていう」
matsu 「主人公はアウシュヴィッツにいた人で」
ronpe 「あー。「ホロコーストを生き抜いた」ってあらすじに書いてありますね」
matsu 「そう。でもドイツに着いちゃって。乗り換えなくちゃいけないんですよ」
まる 「あー」
matsu 「そこのシーンなんですけど。そこでどうしてもドイツの地を踏みたくない!ってことで、自分の持っているものを地面に置いていくんですよ」
ronpe 「あー。それはありなんだ」
matsu 「それはいいのか、てのはあるんすけど(笑)」
けん 「直接的に触れなければいいっていう」
まる 「せめてもの!てことでしょうね」
けん 「そういうのは本人の気持ちだから」
ronpe 「あー」
matsu 「そこでドイツ人の女性がけっこう助けてくれるんですけど、主人公はドイツ人だから、という理由で嫌っていて。
僕はホロコースト系の映画をよく観てるんですけど、現在生きている人がどう思っているのか、という作品があまりない気がしていて」
まる 「うんうん」
matsu 「今でもすごい恨んでいるんだなぁというのがわかって。そういう描写はあまり見たことがなかったので、それがすごい印象に残りました」
まる 「はい。いやぁ観てる作品だと楽しいですね。わかるから」
けん 「当たり前じゃないですか」
一同 「ガハハハ」
まる 「そうなんだけど、今回のは全部観てたからー」
matsu 「あー」
まる 「すごい楽しかった」
けん 「mastuさんは『エンドゲーム』のシーンだと思ってましたけど」
matsu 「いや、他のお題で挙げたやつはやめようと思ってて」
けん 「偉いな」
まる 「じゃあ私ですけど、私はこれしかない、このことを話したくてこのお題にしたんですけど」
matsu 「だろうなって思ってましたけど」
まる 「とゆうことで、『アベンジャーズ/エンドゲーム』のドクター・ストレンジのシーンでーす」
けん 「あー」
matsu 「たしかに記憶に残るワンカット」
まる 「ね。ワンカットって云ったでしょ」
ronpe 「うーん、でもワンカットじゃないんじゃないかな」
matsu 「アハハハ」
まる 「えー。ワンカットだよ」
ronpe 「次のカットも含めてじゃないかな」
まる 「あ。もちろんそうだよ」
matsu 「うんうん」
まる 「もちろんそうなんだけど」
ronpe 「さらに云うと前のカットも含めて、3カットじゃないかな」
matsu 「アハハハ」
けん 「ワンシーンじゃないですかやっぱ」
まる 「そうなんだけど!今から話しますからそれを。ronpeさんが企画したECTTのときにも話したんですけど、ベネディクト・カンバーバッチ演じるドクター・ストレンジが指一本で表現する、そのワンカットなんですよ。これだけでも泣けてくるんですけど、このカットのすごいところは、ファンの多くが複数回観ることを考えているような感じで。
2回目の鑑賞以降、ドクター・ストレンジと同じ気持ちを共有できるじゃないですか。」
ronpe 「うん」
まる 「みんな揺さぶられる感じがあそこのワンカットに集約されてる感じがするってことなんですよ。
私の映画体験史上、忘れられない特別なワンカット」
ronpe 「これに関しては『IW』からですかね」
まる 「もちろんもちろん」
ronpe 「『IW』の終盤も違って見えてくるという、ってのがすごいですよね」
まる 「そう。このカットだけじゃない、という…」
けん 「やっぱこのカットだけじゃないじゃないですか!」
一同 「ガハハハ」
【ラロッカさんの2019年上半期 忘れがたいワンシーン・ワンカット】
ラロ 「『運び屋』の「何故だか分からないけど、来てくれて嬉しい」と云った主人公の奥さんのシーン。
オールタイムベストに近いくらい「何故だか分からないけど」僕の心に響いた台詞でした」
text by ronpe