mid90s ミッドナインティーズ (2020.9.4.公開)
今回は
『mid90s ミッドナインティーズ』です。
ジョナ・ヒルの初監督作。
1990年代のロサンゼルス
13歳のスティーヴィーは
スケートボードショップで年上の少年たちと知り合い
彼らに憧れ近づいていく。
撮影や美術を含めた空気感が素晴らしい。
はじめての経験
背伸びする感覚。
これはスケボーという文化だけではなく
他のものにもあるものだと思うけど
近い雰囲気の作品を思い出してみると『スケート・キッチン』だったりして
スケボー独特の何かがあるのかもしれない。
家庭にないものを求め
自由を求め
成長していきつつも
もちろん危うさもある少年時代。
どう終わるのかを楽しみに観ていましたが
本当に素晴らしいラストが待っていました。
あのラストで
タイトながらもとても優れた作品になっていると思います。
最高!
新宿ピカデリーで行われた先行上映前には
ジョナ・ヒル監督と入江悠監督のオンライントークがありました。
入江監督
「ジョナ・ヒルさんは俳優としてもとても人気があり、今日来ているお客さんの中にもファンの方がたくさんいると思うのですが、今回かなりHIPHOPの要素が深く映画の中にあり、びっくりする方もいるのではないかと思います。どういうHIPHOP文化を浴びてきたのでしょうか?」
ジョナ・ヒル監督
「こうして世界の反対側の土地で、皆さんが映画を観にきてくれるということが、本当にクールで最高だと思います。質問の答えですが、僕はHIPHOPのみを聴いて育ちました。他のタイプの音楽にハマったのは16才か17才ぐらいで、それまでは本当にHIPHOPだけでした。映画と同じように自分には兄がいるのですが、兄はHIPHOPの趣味が良くて、自分は運よく小さい頃からそういう音楽にふれることができました。ちなみにこれは自伝的な映画ではなく・・・。あ、そうか、皆さんはまだ映画を観てないんですね(笑)。映画を観てもらうとオープニングの場面で、兄がいない間に兄の部屋に入って主人公がCDを聴きあさるというシーンがあります。自分もそんな感じでした。やはりア・トライブ・コールド・クエスト、トライブが自分にとってのビートルズなんです。そういう感覚をこの映画で切り取りたかったんです」
入江監督
「音楽が本当に豪華で、音楽を聴いてるだけであっという間に時間がたってしまう感じもします。お兄さんの話が出たのでその話を聞きたいのですが、僕がこの映画で心を打たれたもののひとつが兄弟の描写です。僕自身が兄弟の「兄」なので自分の昔を思い出して、弟にけっこう悪いことをしたな、と(笑)。自伝的な話ではない、ということでしたが、ジョナ・ヒルさんにとって「兄弟」というものは特別な意味があったのでしょうか?」
ジョナ・ヒル監督
「嬉しいです。というのはこの映画を観終わったあとに、「弟」の立場の人がたくさん僕のところにきて、本当にあんな感じでした!と云うんです。そして「兄」の立場の人は、弟に悪いことをした、という感情から思わず弟に電話してしまった、という方もいて。とくに今回は男兄弟の自然な関係性というものを見せたいと思っていました。僕自身は兄がいて、そして妹もいて、それぞれに少し関係性が違いました。やはり男兄弟だと複雑な力学がはたらき、弟の立場からすると兄のことを好きなんだけど、なかなかその気持ちを表現できなかったり。そんな気持ちを持ちながら、兄のようになりたいという気持ちもあったと思います。入江監督の弟さんもきっとそうだったんじゃないでしょうか」
入江監督
「この映画は「家族」というコミュニティとは別に、「公園」のコミュニティも描かれています。日本ではこの公園という存在は失われていきつつある公共の場所で、誰でも入れて、それこそホームレスの人もいたり、家出した若者が時間を潰せるような場所だったと思います。今回の映画は、この「公園」のコミュニティを描いている点が素晴らしくて、ここまでこの要素を描いた作品って過去にないんじゃないかと思っています。公園とかそういう空間に思い入れがあったんでしょうか?」
ジョナ・ヒル監督
「入江監督にそう云ってもらえたことは、僕にとって大きな意味があります。あまり観た方が気づいてくれない部分だったりします。そしてこの部分はこの映画を作りたかった大きな理由でもあります。90年代、ホームレスの人たちも僕らスケーターも、社会のはみ出し者として扱われていました。これから観てもらう映画の中にもありますが、僕らはホームレスの方とふれあっていました。この映画の中で大好きな場面が、メインのキャラクター二人がホームレスの男とパークで語りあっているところです。ここでスケーターのキッズたちはホームレスの男の話をただ聞いているだけです。ここは僕がすごく好きな場面です。僕が若かったころのすごく美しい瞬間だと思うし、映画の中で観たことがなかったからこそ描きたいと思っていました」
入江監督
「東京だと公園は減ってきていて、渋谷の宮下公園のように商業施設に変わってしまうことも多いんですけど、アメリカはどうなんですか?」
ジョナ・ヒル監督
「映画の中に出てくるCourthouseと呼ばれているスポットがあるのですが、元々は裁判所があった場所なんですね。当時、裁判所が機能していたころからスケートボートをやっていたのですが、それは違法だったんです。その後、裁判所がクローズし、5、6年前にスケートボーダーたちが市にかけあって、ここをスケートボードのパークとしてくれ!とお願いしたところ、その要望がかない、今は法的にスケートボードをできるスポットになっているんです。素晴らしいことだと思います。また最近、僕が住んでいるLAでは公園がコロナ感染者が一時的に宿泊できる施設になっていることに気づきました。これは僕らが持つシステムをうまく利用しているなぁと思いました」
(ここでジョナ・ヒル監督のモニターが突然消え、しばらくして復帰)
ジョナ・ヒル監督
「申し訳ない!観客の皆さんにもお伝えしたいんですが、誰かが僕の家の玄関のベルを鳴らし、一瞬どうしようか慌ててしまいました!失敗しました。玄関に「日本のプレミア上映中だからベルの鳴らすな!」と書いておけばよかった(笑)」
入江監督
「たしかにプレミア上映のトーク中だとは思ってないでしょうね(笑)。あとこれは映画監督として聞いておきたかったのですが、本作はこれだけ豊かなテーマにもかかわらず上映時間が90分を切っています。これは脚本の段階で想定したのでしょうか?それとも演出しながらタイトにしていったのでしょうか?どういう魔法を使ったんでしょう?」
ジョナ・ヒル監督
「それもクールなコメントで嬉しいです。ただ映画というのはその作品自体が尺を決める、という部分があると思っています。自然とその作品を伝える時間というのが決まっていって、今回はたまたま短い尺の中で詰め込むことができたという感じです。ただ僕自身も短い尺の映画は好きです。その短い尺の中でインパクトのある作品。短い尺で表現できないような内容を無理矢理短くするようなことはできない。今、僕が笑顔でいられるのは短い尺の中でインパクトのあるものを作ることができたからだと思います」
入江監督
「僕はこの作品をロックダウン状態になったときに見ました。公園で人が集まり、何をするわけでもないが話したり、遊んだり、スケボーをしてる間に友情が生まれたり、文化的な何かが発生したりする。やはり直接的に人が集まることにより起こるんだなぁと思ったんですね。映画館もいまはオープンしていますが、一時は休館をしなくてはならなかった。ジョナ・ヒルさんにお願いなのですが、スクリーンを通して今これを観ている日本のお客さんと、映画館スタッフの皆さんに何かコメントをいただけたら嬉しいです」
ジョナ・ヒル監督
「まず質問に答える前に入江監督のTシャツ(Save our local cinemas Tシャツ)最高ですよね!そして観客の皆さん、このコロナ禍の中で映画を観にきてくれたこと、本当に感動を超える感動を感じています。なのでありがとう、と云わせてください。また映画館のスタッフの方々、映画館で映画を観るという活動を推進しているのは皆さんの力によるものだと思います。映画館で映画を観るという体験は、僕の人生の中で大切な瞬間を与えてくれました。また自分はこういう風に生きたいんだ、という方向を見つけさせてくれました。映画が携わる僕らはひとつです。それぞれにやるべきことを果たさなければならない。映画がこれからも映画館で観れるように。僕は映画が大好きです。ストーリーテリングも大好きです。僕のPCから生まれたこの作品がこうして世界の反対側で観られていることも最高に嬉しいです」
入江監督
「ありがとうございます。本当に素晴らしい作品だと思います。今日、この作品を観たお客さんがこの作品の熱を広めてくれると思っています。そろそろ時間がきてしまいましたが、今日はありがとうございました」
ジョナ・ヒル監督
「本当に皆さんが来てくれたことで嬉しさいっぱいです。ありがとうと心から云いたいです。本当に楽しんでください。いろいろと難しい状況の中でフィルメーカーたる僕たちが一番嬉しいこと、それは自分たちの作品が皆さんに楽しい時間を提供できることです。楽しんでいただけたら嬉しいです」
text by ronpe