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『ソクラテス・カフェにようこそ』 クリストファー・フィリップス

カフェに入ると話しがはずみ、時がたつのを忘れてしまう。パリの文学者はカフェで議論に熱中し、ビートニクはコーヒーハウスにたむろして音楽やアートについて語った。
それを一歩すすめた「哲学カフェ」が世界中でブームになっている。実際に、議論好きの集う「ソクラテス・カフェ」を米国で主催する著者が、これまでの体験と発見をドキュメンタリー・タッチでつづったのが本書である。

知らないもの同士がカフェにつどい、2時間ほど語りあう。「みんなに開かれた哲学的なディスカッションの集まり」だから、進行役はいるがルールはない。
テーマも参加者の提案で決まり、「精神の異常とは何か」「やりがいのある仕事と何か」「沈黙とは何か」など多岐にわたる。
議論が白熱すると、精神病者が独白をはじめたり、教授と学生がけんか腰でやりあったりもする。子どもの何気ないひと言が議論を決着し、拍手がわきあがったりするのもおもしろい。

本書によれば、2500年も前にソクラテスがアテネの街をぶらつき、人をつかまえては「無知とはなんぞや」と議論をふっかけていたのが哲学のはじまりであり、ぶ厚い本を読み、専門用語を駆使するような哲学は後世の邪道である。
カフェで人生について語りあうだけで、「哲学を元あった場所に返す」というムーブメントに参画できるのだから、こんな痛快な話もない。


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