For sale: baby shoes, never worn
あなたたちは切ない物語に涙する
世の中には秀逸な切ない物語作家で溢れている
物語を語ることこそが人間の最大の能力だと誰かは言う
私は切ない出来事が起こらないようにと布団の中で日々おびえている
たった小さな変化が大きな悲劇の幕開けのように感じてしまう
たった指先の小さな血がこの世の破滅の予兆のように感じ
耳に開けたピアスの穴が地獄とこの世をつなぐ通路の完成のように感じ
十字路の工事は今も続いている
優秀な悲劇作家はありふれているのだから
きっと語られるべき悲劇は語りつくされている
それでも私はペンを取って物語を書く
何でもないことを書く
オレンジが丸いことや
大人しいハマグリのこと
シナモンをかじり続ける女のことを
みなさんはどうでもいい私の話を読んで激怒する
私の時間を返せ、とデモクラシーを起こす
私はみなさんの時間が返せなくて困ってしまう
だから私は自分の本を売る時に
「つまらない話です」
と注意文句を伝える
もう少しそれが慣れると
「眠くなります 注意」
と注意文句を変える
そして私は屋号を「まくら文庫」に決める
ということで、私はどうでもよい、眠くなる物語を書いています。
つまらないですけど、誰も死にませんし、誰も傷つきません。
まくら文庫です。
みなさんの邪魔にならないように文庫サイズの薄い30分ほどで読める本を提供しております。
つまらない物語を語る職業作家はこの世に存在し得ないはずですから、私はそれになるつもりです。