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地テシ:387 知っていても知らなくてもいい「バサラオ」用語

 ところで、夜な夜な、腐った魚のはらわたを煮詰めているカイリの姿を想像するとちょっと面白いよね。どうも、粟根まことです。皆様夜な夜な、いかがお過ごしでしょうか。

 長い長いと思っていた「バサラオ」明治座公演も、気が付いたら残り5ステージとなりました。いや、確かに長い長いだったんですけどね。終わる時には終わるモノです。いや! まだ終わってない! 残り僅かでも油断してはいけません。こういう時が危ないのです。気をつけていきましょう。

 そういえば、どうやら明日9月22日(日)の夜21時からの保坂エマさんによる「エマとクドウの恐悦至極にございます。」ゲスト出演することになりました。音声のみのポッドキャストみたいなモノです。stand.fmにてお楽しみ頂けますよ。聞くだけなら登録も料金も要りませんのでご安心を。


 さて、今日は「バサラオ」基礎知識の最終回です。前回までは《「バサラオ」がもうちょっと面白くなるかもしれない運転》として、南北朝近辺「ジャパッシュ」という、「バサラオ」のインスパイア元について書いてきました。
 確かにどちらも「バサラオ」のベースとなった歴史や漫画ではありますが、物語に直接は関係ありませんのでネタバレという程ではありませんでした。

 しかし! 今回は割とネタバレです。何しろ台本に出てくる単語やセリフを解説していこうというのですから。そもそも出だしでカイリのネタバレしてるし。
 まあ、もちろんできる限りぼやかして書くつもりではあるのですが、セリフの一部を切り取ってはいるのでネタバレっちゃあネタバレです。
 ですので、そういうのを気になさる方は今回は見送ってくださいませ。いいですね! ちゃんと書きましたよ!






 まずは前回までのまとめとも一部重複しますが、歴史に関する単語の解説です。高校までのどこかで習ったような習っていないような言葉たちです。

執権(しっけん)…

 どうやら単に政治の実権を握る人のことのようですが、鎌倉時代ではお飾りの将軍の下で幕政の実権を握る役職のコトになり、北条氏が代々世襲していきました。
 実は「バサラオ」には将軍が出てきません。言葉としては出てきますが、人物としては出てこないのです。鎌倉幕府末代将軍守邦親王も、室町幕府初代将軍足利尊氏も出てきません。あ、いや違うな。これらの人物をモデルとしたキャラクターが出てこないという意味です。
 なので、幕府の実権を握る執権であるキタタカが鎌倉幕府代表として出てくるんですね。

京都守護(きょうとしゅご)…

 この《守護》は歴史の授業で習う「守護・地頭」の守護ではないと思います。もしそうならば「山城守護」になるはずなので。
 ここでいう京都守護というのは鎌倉時代初期に置かれていた役職で、京都の治安維持や朝廷との交渉をする部署です。後に六波羅探題が設置されたために消滅しました。どうやらキタタカは京都守護の役職を復活させようとしていたようですね。
 ちなみに、初代の京都守護は北条時政。北条義時や北条政子の父親です。さらにちなみに、2021年に同じ明治座で上演されました「明治座で逆風に帆を張・る!!」という作品で、私は北条時政を演じました。そして今は明治座でその子孫である北条高時っぽい役を演じているというのも面白いですね。

ミカドの皇子(みこ)は多いから…

 後醍醐天皇は子だくさんで、30人以上もいたと言われています。

火薬玉(かやくだま)…

 作中では「元寇の時には蒙古軍が使っていたとも」と説明されています。中国の元が日本に攻めてきた元寇では「てつはう」と呼ばれる火薬兵器が使われました。陶器の中に黒色火薬と鉄片などを詰めた物で、大きな音と炎や光を放ちながら爆発したそうです。
 どうやらカイリはいつの間にやらその製法を会得していたようですな。


 続いて、特に難しい単語ではないのですが、ちょっと解説しておいた方が判りやすそうな言葉も挙げておきましょう。

犬(いぬ)…

 本作に何度か出てくる単語ですが、他にも「間者(かんじゃ)」という単語も出てきます。いわゆる諜報員のことですが、後にいうところの忍者みたいなモノだと思って下さい。

海から安房(あわ)に渡る…

 今回、ある出演者から「これって四国の徳島に逃げるってことですよね」と聞かれました。発音が「あわ」となる旧国名は「阿波」と「安房」の二つがあるのでややこしい。
 阿波は今の徳島県で、安房は今の千葉県最南部。房総半島の先っちょでして、房総半島の「房」の由来でもあります。チーバくんでいえば両足あたりの割と小さなエリアです。
 つまり、このセリフは「鎌倉から海路でチーバくんの足に逃げる」という意味です。鎌倉辺りから船で逃げる時には安房や上総に行くのが一般的でして、源頼朝が鎌倉幕府を立てる直前、挙兵した後に負けた時にも似たようなコースで逃げています。

戦(いくさ)での名乗り…

 平安から鎌倉頃の合戦では「名乗り」からの「一騎打ち」という作法がありました。名乗りというのはアレですよ。時代劇などでよく出てくる「やあやあ我こそは」とか「遠からん者は音に聞け」のアレですよ。自分の名前や所属、立場、あるいは相手に対する主張などを大音声で宣言しているのです。
 その頃の合戦では名乗ることで自分の所属を明示し、戦功の証拠とすることもあったのです。そして、名乗っている時には周りも手を出さないという不文律もあったってワケです。
 その名残として今でも仮面ライダーや戦隊シリーズでは一々名乗りを上げるし、その間は敵も攻撃を止めてくれるのです。あれって日本の様式美だったんですね。
 今作でも、ある一騎打ちのシーンでは双方がそれぞれの立場を主張してから戦っていますよね。

坂東(ばんどう)の片田舎…

 坂東は今の関東地方とほぼ同じと思って大丈夫です。今でこそ東京が日本の首都で、その周辺の関東は首都圏と呼ばれて一極集中が問題になったりしておりますが、江戸時代の初期までは坂東は田舎でした。少なくとも京の公家にとっては。たとえ鎌倉に幕府があろうとも東国の武士は田舎武者だったのです。「東夷(あずまえびす)」というセリフも出てきますが、こちらも無骨で粗野な東国武士をあざけった言葉です。
 平安時代に高望王が東下してより坂東一円に勢力を広めた桓武平氏を中心に、坂東に根を下ろした武士たちは勇猛果敢さを買われながらも田舎者の扱いを受けていました。
 徳川家康が江戸に幕府を開いて政治の中心になっても、しばらくは文化的には京や大坂の上方に比べれば江戸は遅れていたと言えましょう。上方から運ばれてきた酒や茶、食料品、工芸品などが「下りもの」と呼ばれて珍重されたほどです。そして上方から下って来たモノでない地廻り物は「下らないもの」と呼ばれるようになり、それが転じて「下らない」とは《取るに足らないつまらないモノ》を指すようになったのです。
 江戸時代の文化と言えば元禄文化化政文化が有名ですが、江戸前期の元禄文化は上方中心の文化。ところが江戸後期の化政文化になると江戸の庶民が中心となります。江戸も中期以降は文化や技術が発達し、立派な文化都市となっていたようです。

スタッフ…

 Webからダウンロードできる配役表には全スタッフも記載されているのですが、よーく見ると「ナレーション/生田竜聖(フジテレビアナウンサー)」「六方指導/尾上松也」と書いてあります。生田竜聖さんは生田斗真さんの弟だし、尾上松也さんは生田斗真さんの高校の同級生ですよ。


 それから今作の中には、現代では意味が変わってしまった単語が本来の使われ方をしている部分がいくつかあります。もちろん中島かずきさんも狙ってやっているのだと思いますが、その内の二つを取り上げておきましょう。

檄(げき)を飛ばせ!…

 「檄を飛ばす」は現在では《なんか強い言葉で激励する》ような場合に使われがちですが、元々はそのような意味はありません。本来は《檄文(げきぶん)という文書によって自分の主張を広め、同意を促して人を集める》コトを意味していました。
 今作ではある人がこのセリフを言いますが、まさに《檄文によって自分の主張を広め、同意を促して人を集める》為に使われます。

役職と領地は安堵(あんど)する…

 「安堵」という単語は現代では《なんだか上手く行ってホッとする》ような場合に使われますが、鎌倉から江戸の封建時代には《土地の所有権を確認する》とか《現在所有している土地を認める》ような時に使います。
 鎌倉時代の武士にとって、所領している土地というのは何よりも大事だったのです。今では「一生懸命」と言う言葉も、かつては「一所懸命」と言いまして《賜った土地を命がけで守る》という意味でした。それほどまでに中世の武士にとっては領地は大切な物だったのです。
 ちなみに、このセリフも上と同じ人が言うのですが、この人はよくセリフを間違うからなあ。この通りに言っていない場合もままありますよ。


 ついでに割とどうでも良い言葉もちょっと書いておきますね。

はーっはっはっはっはっ!…

 肩を上下させる新感線伝統の笑い方ですが、やりたいと言い出したのは、あのお二人ですよ。

われこわれこ…

 吉本新喜劇での由利謙さんの往年のギャグ。「これはこれは」という意味。もちろん台本では「これはこれは」です。

そこに愛はあるんか?…

 「そこに愛はあるんですか?」という意味。もちろん台本にはない。


 そんなこんなの「バサラオ」用語集。まあ、用語集ってほどでもないんだけどもさ。とりあえず、5回に渡って続けて参りました「バサラオ」の基礎知識篇もここまでです。こういったコトを知ってから見るともうちょっと面白くなるかもしれない運転というワケです。
 ええと、実はもう一つだけ書いておきたいテーマがあるのですが、それについては大阪公演中に書くか書かないか、まあその時次第にしましょう。


 あ、最後にどうでも良いついでのひとつだけ。二幕のある感動的なシーンで流れる曲を、私は勝手に「おっとうファーザーのテーマ」と呼んでいます。いや、あくまで私だけが勝手に呼んでるだけなんですけどもさ。