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地テシ:390 「ばさら」ってばさら!

 「バサラオ」大阪千秋楽にてライブビューイング&ライブ配信が実施されるのは以前にも書きましたが、なんと! 海外でもライブ配信されることが発表されましたね!

 なんとアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、シンガポールの五カ国での配信なんですって! 台湾でのライブビューイング上映と共に、バサラの宴が国境を越えましたよ。嬉しいですねぇ。
 しかし需要はあるのか? 勝算はあるのか? 取りあえず、海外にお知り合いのいらっしゃる方は是非ともプッシュしておいて下さいませ。

 そんな大阪公演もなんとか無事に進んで、福岡・東京と併せて90バサを終えました。いよいよ一週間を切りまして残り7バサではあるのですが、何ともスケジュールがタイトです。混み混みです。大渋滞です。比較的楽な私はいいとしましても、皆さんの体力が心配です。最後まで無事に宴が続くことをどうぞお祈りくださいませ。


 さて、先日は「バサラオ」の基礎知識などを書いておりましたが、実はもう一つだけ書いておきたいテーマがあったのです。それがね、バサラ。そう、「ばさら」についてなのです。今作の最大のテーマと言っても過言では無い概念ではあるのですが、ちょっと説明しにくい言葉でもあります。
 しかも私がバサラについて書いたりすると、ヒュウガに「お前がバサラを語るな!」と怒られそうなので渋っていたのですが、一応ザックリとだけでも触れておいた方がいいかもとか思ったり思わなかったり人それぞれ。
 あ、ちなみに今回もネタバレっぽいのでお気を付けて。残り5日だけどね。




 「ばさら」とは婆娑羅、伐折羅、跋折羅、縛日羅などとも表記される言葉で、古代インドのサンスクリット語では「金剛石(ダイヤモンド)」を表すとされています。ただまあ、鎌倉〜室町頃の「ばさら」の語源としては諸説ありまして、既成概念をダイヤモンドで打ち砕くさまだとか、雅楽での伝統的な奏法ではない新規な奏法とか、舞での衣裳が翻るさまを著す《婆娑》に《ら》が付いたモノだとか、まあ色々と言われていて要するによく判りません。
 そもそも「ばさら」の定義だってよく判らないんですよ。まあ一般的には「既成の権力にこびへつらうこと無く独自の生き方を貫く」とか「殊更に派手で奇抜な装いをする」とか「傍若無人」とかいうコトになっておりますが、それもどうもハッキリとしない。
 劇中でサキドという登場人物の行動様式や美学を称して「サキド好み」と呼んでいますが、この「サキド好み」はかなり「ばさら」に近いかもしれません。
 まあ捉え方は人それぞれ。バサラについてはこの舞台をご覧頂いて、それぞれに感じて頂くしかありません。「ばさら」は貴方の思う「バサラ」です。


 今回、資料として南北朝辺りを描いた歴史書や小説をいくつか読んだのですが、その中で一番面白かったのが北方謙三さんの「道誉なり」という小説です。

 鎌倉末から室町序盤に活躍した「ばさら大名」として有名な佐々木道誉(ササキドウヨ)と、初代室町将軍である足利尊氏との関係を中心に、波瀾万丈な戦乱の世を描いた作品です。
 小説ですのでかなりフィクションというか北方さんなりの解釈も多く含まれるのでしょうが、起こっている出来事は史実そのままです。南北朝について色々調べた後で読んでみると、それぞれの出来事が何故そうなったのか、それぞれの心情の変化はどうなのか、もうこの解釈が正解ってコトでいいんじゃないかと思うくらい気持ちよく展開していきます。いや、もちろんフィクションなんですけどね。
 武勇に優れ、知略に富み、豪快にして、ばさら。佐々木道誉の魅力的な人物像に溢れ、《ややこしいだけでつまらない》と言われた南北朝時代をダイナミックで趣のある物語にしています。同時に、なんだか不思議な人間である足利尊氏の意外な側面も描かれていて、戦乱の時代を鮮やかに彩っています。


 鎌倉末期から室町初期に掛けて、戦乱続く混乱した時代の中で生まれた「ばさら」という生き方。ばさら大名としては佐々木道誉を始めとして高師直、土岐頼遠などが有名ですが、いずれも奔放に生き、しかもべらぼうに強くて頼りになる命知らずの武将でした。土岐頼遠に至ってはしたたか酒に酔って、時の上皇の輿に矢を射かけて死罪になっています。
 室町幕府が定めた施政方針である「建武式目」では「ばさらの禁止」が明記されていますし、「太平記」でもばさらの横行を否定的に描いています。しかし、わざわざ取り上げて禁止されているってコトは、それほどまでに「ばさら」は流行したというコトだし、大変インパクトがあったであろうコトは間違いありません。

 「太平記」に記された佐々木道誉のばさらエピソードは多く、紅葉狩りのいざこざから白川妙法院を焼き討ちにし、その罰として遠流される時には殊更に派手な行列を組み、比叡山の神獣である猿の皮を尻にしていたという話が有名です。
 でも私が好きなのは、政敵が御所での花見を企画した時に、同じ日に別の場所で、京都中の芸能者を集めて超豪華な宴を開いたという話です。豪快ではありますが、いやらしいところも面白い。
 他にも、北朝側の何度目かの都落ちの時には、きっと有力な者が占拠するであろう自宅を丁寧に飾り立て、書画や花瓶、貴重な書物などを揃え、酒まで置いて退去したというエピソードも好きですね。ただ戦に強いだけでなく、深い教養と粋な心が感じられます。

 実際に道誉は文化人でもあり、連歌や茶道、香道を好み、多くの猿楽師をバックアップし、華道(立花)の手引き書である「立花口伝大事」を著して華道の源流を作ったとも言われていたりと、様々な文化の発展に寄与したそうです。

 ばさらを気取るためには度胸だけではなく、確固たる美意識、深い教養や粋なセンス、時を読む感覚、そして何よりも命を捨てる覚悟など、様々な要素を兼ね備えていなければ形だけの薄いモノになってしまうようです。そう、ばさらな生き方にはヒュウガやサキドのような覚悟がなければなりません。
 室町幕府がもたらした平和と共に「ばさら」の気風は絶えていきますが、室町末期の戦国の乱世になると今度は「傾奇者(かぶきもの)」と呼ばれる派手で奇異な気風が興ることになります。戦乱の世が孕む死の熱気から醸し出されるのが「ばさら」や「傾奇」なのかもしれません。


 あ、それから、以前の基礎知識篇でいくつか書き忘れていた小ネタがありますので、ここに書いておきましょう。

●上にも書いた佐々木道誉ですが、近江を領する佐々木氏としては庶流です。本家の佐々木氏は「六角氏」、庶流の道誉は「京極氏」と通称されていました。
 足利尊氏と弟の直義が争った時、佐々木本家の六角佐々木氏頼はどちらにも付きかねて出家遁世したため、その弟である(山内)五郎左衛門尉定詮ゴロウザエモンノジョウサダアキ)が氏頼後継の千手丸を扶持して直義側に付いたと「太平記」に記されています。五郎左は後に近江守護になったとも言われている、六角佐々木氏の重要人物です。きっと強かったのでしょうね。
 ただまあ、五郎左衛門という名前の人は多いからよく判んないけどさ。

●南北朝時代近辺に活躍した文筆家に兼好法師ケンコウホウシ)がいます。そう、あの日本三大随筆のひとつである「徒然草」の作者ですよ。
 元々は卜部兼好(うらべかねよし)という官人だったようですが、後に出家して兼好(ケンコウ)と名乗りました。京都郊外に遁世して「徒然草」を著したコトは有名ですが、若い頃には鎌倉にも住んでいたようです。
 以前にも書いた高師直が塩冶髙貞の妻に横恋慕した時、兼好法師がそのラブレターの代筆をしたと太平記には書かれておりまして、俗世にも通じた小粋な僧侶というイメージもありますが、本当なのやらどうなのやら。ひょっとしたら酒好き女好きの生臭坊主だったのかもしれませんね。

●沖の島(おきのしま)…
 史実では後醍醐天皇が配流されたのは「隠岐の島」ですが、今作のゴノミカドは「沖の島」に流されています。音も同じですが、多分語源も同じでしょう。

●こんなインチキに…
 南北朝と違って今作では東西に朝廷が別れますが、その際に言われるセリフ。実は史実でも南朝・北朝のどちらも割とインチキっぽい手段を使って朝廷を維持しています。だからまあ、史実通りっちゃあ史実通りです。

●いまだにミカドに与(くみ)し…
 「くみする」という言葉には「組みする」と「与する」という漢字が当てはまります。「組みする」だと仲間になるという意味合いが強いのですが、「与する」の場合は仲間になるという意味に加えて、協力するとか力を添えるという意味合いが強くなります。「奉行の与力」の与力だとか、「与しやすい」などの言葉を考えると判りやすいかもしれません。
 と、ここまで書いてから台本を読み返したら「いまだにミカドに組みし」と書いてありました。なんだよ私の読み違いかよ。
(さらに台本を読み返してみたら、ヒュウガのセリフに「そちらに与するのは当然だろう」というのがありました。こちらは「与する」という表記です)

●特に鼻!…
 鼻が特に、という意味。もちろん台本にはない。

●飴ちゃんもくれた…
 大阪のおばちゃんはよく飴ちゃんをくれる。やっぱり台本にはない。

●小さなことからコツコツと…
 参議院議員でもあった西川きよし師匠の名言。当然、台本にはない。

●戦国BASARA…
 そういえば、かつてカプコンが出していた「戦国BASARA」というゲームソフトがありましたね。一騎当千系とか無双系とか呼ばれる、とにかく大量の敵をバッサバッサ斬り倒していく爽快アクションゲームでして、人気が後押ししてシリーズ化されました。
 戦国時代を舞台に個性の強い、いや、強すぎるキャラクターが大量に出てくるのが特徴でした。伊達政宗が6本の刀を同時に使って戦うとか、大谷刑部が空飛ぶ輿に乗っているとか、本多忠勝に至ってはほぼロボットだとか、まあとにかくキャラクターがぶっ飛んでいてハデなのですが、よく考えれば、それは「ばさら」ではないような気もします。

●バサラオ…
 今作は「バサラオ」ですが、かつての作品「薔薇とサムライ」通称「バラサム」に引っ張られて「バラサオ」と思い込んでいる方も多いようです。あなたも一瞬そう思ったのではありませんか? 違いますよ。「バサラオ」ですよ。
 なぜならばテーマの一つが「ばさら」だからです。「ばさら」については上に書きましたね。じゃあさ、そうなると気になるのが「バサラオ」の「オ」って何?ってコトですよ。気になるでしょ。
 もちろん、それはご覧頂きましたお客様それぞれの解釈で構いません。「オ」は貴方の思う「オ」です。ただ、私はやっぱり「王」だと思っていますよ。「婆娑羅王」で「バサラオ」。だってバサラの王が誕生する話ですからね。


 まあ、そんなこんなの「バサラオ」最終盤。残り7バサ。しかし、まだまだ油断はできません。気をつけてバサっていきましょうそうしましょう。なんとか最後まで無事に行きたいなあ。


 あ、それから、予想通り「ゼルダの伝説 知恵のかりもの」が面白いよ。昔の見下ろし型ゼルダの様な見た目だけど、できることは最新の立体ゼルダ。2Dゼルダと3Dゼルダの良いところを併せ持った、新しい感覚のゼルダです。

 そして、今日から発売になった話題のゲーム「エウロパ」の体験版が出ていたのでこちらもプレイしてみました。ジブリっぽい優しいアニメ調の世界を冒険するアドベンチャーゲーム。
 チャージジャンプから滑空できたり、エネルギーを貯めて垂直に飛び上がれたり、全体的に浮遊感というか空を飛ぶことを楽しみながら色んな仕掛けを解いていくアドベンチャーみたいな感じ。個人的にはちょっと「風ノ旅ビト」を思い出しました。
 短めのゲームのようですけど、東京に帰ったら製品版を楽しみたいと思います。Switchをお持ちの方なら体験版をプレイしてみるのも良いのではないでしょうか。