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地テシ:386 「バサラオ」の基礎知識 「ジャパッシュ」篇

「秋」実装遅延のお詫び

 9月上旬より実装予定でしたシーズンアップデート「秋」ですが、諸々の事情により延期されることになりました。先週にはβテストまで行いましたが、より完全で洗練されたシーズン体験を提供するために早期の実装を諦める事態となりました。
 シーズン「秋」を楽しみにされていたユーザーの皆様におかれましては大変ご迷惑をお掛けすることを深くお詫びいたします。
 そのため、引き続きシーズン「夏」をお楽しみ頂くために「残暑」パッチを無料にて配布しております。このパッチは強制的にインストールされます。
 なお、シーズン「秋」の実装は9月21日(土)前後を予定しております。今しばらくお待ちいただきますようお願い致します。


 ええと、ありがちなネタで誤魔化しつつ《「バサラオ」が更に面白くなるかもしれない運転》の第四回を始めますよ。勝手に始めますよ。まあ始めたらいいでしょうよ。
 前回までは南北朝近辺の日本史を太平記を中心にまとめましたね。さっき改めて読み直してみたのですが、なんかあんまり面白くないよね。ただ歴史を羅列しているだけだもんなあ。もう少し面白く書けなかったものかと反省しております。
 まあ、元になった太平記だって割とダラダラと書き綴っているのですけどもね。ただ、躍動感溢れる軍記物語でありながらも大変貴重な歴史書でもあるのは事実です。


 さて、「バサラオ」作者の中島かずきさんは、公式HPやパンフレットなどでも今作のインスパイア元について南北朝時代を挙げています。ですので、それについての基礎知識を書いてきたわけです。
 しかし、実はもう一つのインスパイア元として望月三起也先生の漫画「ジャパッシュ」も挙げていましたよね。もう50年以上も前の漫画なのですが、かずきさんが少年時代に読んだ時の衝撃が忘れられず、その《美貌と策謀だけで人々を魅了しながらのし上がっていき最後には世界征服を目論む》というプロットを南北朝の世界で展開することによって今作が出来上がりました。

 ですので、この「ジャパッシュ」に関してもご説明したいと思うのです。いや、ご説明したいのはやまやまですが、なにしろ現在でも販売されている著作物ですのでなかなかに難しい。ですので粗筋とかモヤッとしか書けませんが、どうかご容赦下さいませ。


 「ジャパッシュ」の主人公は日向光(ヒュウガヒカル)。類い稀なる美貌の持ち主の少年で、世の女性は同世代からお母さん世代まで全て心を掴んでしまいます。しかも天才的な《人たらし》でして、日向を押さえつけようとする番長たちやチンピラたちを言葉巧みに言いくるめ、いつの間にやら日向に心酔するようにしてしまいます。
 さらに長期的な展望を見据える戦略眼も持っており、数多くの大人たちを手玉に取り、やがては世論をも動かして日本を手中に収め、世界征服まで企むという壮大な話になっていきます。
 日向の悪魔的で魅力的な造形、人の心を手玉に取る手際、そして成功を疑わない自信によって幸運をたぐり寄せる度胸など、実に強烈で刺激的な主人公です。

 ライバル的な立ち位置にいるのが石狩五郎(イシカリゴロウ)。日向の幼なじみで子供の頃には仲良く遊んでいたりしますが、ある事件によって顔に傷を負い、日向を心から憎むことになります。
 やがて公安警察の手先(刑事なのかどうなのか、なんだかよく判らない存在)となって日向を付け狙い、ことあるごとに日向を阻止しようとしますが全て失敗に終わります。いつの間にやら自衛隊員になっていたりするし、なんだか今ひとつピリッとしないライバルです。

 「ジャパッシュ」が少年ジャンプに連載されたのは1971年。安保闘争や全共闘などの学生運動が激しい頃でしたし、三島由紀夫が市ヶ谷駐屯地で自決した1970年の翌年でもあります。
 三島の「楯の会」やナチスを思わせる狂信的集団、警察権力と自衛隊との相剋関係、ロックンロールや歌謡曲、瓶コカコーラに裾の広いパンタロンなど、全体的に60年代後半から70年代初頭という時代感を漂わせている作品でもあります。

 50年の間に何度も単行本は刊行されておりますが、現在では紙の本を手に入れるのは難しいかもしれません。ですが、電子書籍ならば数多くのプラットフォームで販売されております。私も電子書籍で入手しました。いや、連載時にもコミックスでも読んだことはなかったのよ。
 望月三起也先生と言えば、私の世代ならば漫画版「ワイルド7」とドラマ版「ワイルド7」原作の方が印象深いと思います。私も「ワイルド7」しか知りませんでした。でも、強弱の強い躍動感のあるペンタッチやカッコいい構図などは強烈に記憶に残っております。
 今回、久しぶりに望月先生の漫画を読んでみると、さすがに時代は感じますが迫力のある画風やコマ割りからは懐かしさと共に現代へと繋がる勢いも感じられます。

 ところで、文楽や歌舞伎で有名な「仮名手本忠臣蔵」はもちろん赤穂浪士の討ち入りを題材とした作品ですが、事件の直後だったこともあってそのまま書くのが憚られたため、太平記を基にした室町時代の話というテイになっています。
 作中では《高師直の侮辱に耐えきれずに塩冶高貞が殿中にて切りつけた》という話になっているのです。どちらも室町初期に実在した武将でして、太平記にも高師直が塩冶高貞の妻に横恋慕した果てに讒言して高貞を自害に追い込むという逸話が書かれていますが、真実かどうかは判りません。
 このように、江戸時代の文楽や歌舞伎では、世間で最近話題になった事件を題材として、しかし時代を変えた創作として発表されたモノが多くあります。それで言えば、今回の「バサラオ」だって中島かずきさんによる《「ジャパッシュ」を南北朝時代に仮託した文楽アプローチ》と見ることもできるかもしれません。できないかもしれません。もちろん私の勝手なこじつけなんですけどね。


 そんなこんなの「ジャパッシュ」のザックリとした話。「バサラオ」ご観劇の前に絶対読んでおかねば! とかでは全然ありません。「顔のいい男がその美貌を武器にこの世を支配しようとする」。そういう漫画があったんだね〜程度で構いません。
 そもそも、南北朝や太平記だって知らなくたって大丈夫なんですよ。まあね、それを言っちゃったら元も子もないんですけども。ところで「元も子も」って「も」が多いよね。


 あ、最後に、もう一つだけ。「ジャパッシュ」には石狩五郎の愛する女性が出てきて重要な役割を果たすのですが、その女性の名前は「マリ」ですよ。