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地テシ:406 昨年末に「写真植字の百年」展に行った話

 「FOLKER」開幕まであと三週間となりまして、ガンガンと稽古しながらドンドンと仕上がってきました。当然ながら劇中ではバンバンとフォークダンスが披露されるのですが、劇中フォークダンスの振り付け動画が公開されております。簡単な振りですので、皆様も一緒に踊ってみてはいかがでしょうか。イスに座っていても踊れるバージョンも楠見薫さんが教えてくれていますよ。


 さて、以前に東京国立近代博物館「ハニワと土偶の近代」行った話を書きましたよね。そして、その後には東京国立博物館で開催されていた特別展「はにわ」にも行くつもりだとも書きましたよね。書いたんですよ。ていうか行くつもりだったんですよ。
 結論から書きましょう。はい、行き損ねました! 行き損ねちゃいました! ってのもね、終了日を間違えて憶えていたんです。年を越えて今年の1月までやっていると思い込んでしまっていたのです。だもんで、二連続埴輪展制覇には失敗してしまいました。まあ、残念っちゃあ残念なんですが、それほど埴輪が好きってワケでも無いので大打撃は受けていませんええ受けていませんとも;;。


 でね、なぜ終了日を間違えて憶えていたのかといいますと、別の展覧会の終了日(1月13日)とゴッチャにしちゃっていたからなのです。その別の展覧会というのが、これからお話しする「写真植字の百年」なのでして、こちらには昨年の12月下旬に行ってきました。

百年は判るとして、写真植字とは何でしょう?

 ん? 写真植字? なんじゃらほい、とお思いのことでしょう。そうでしょうとも。一般の方ならばご存じなくても無理はありません。
 写真植字機、略して写植機とは、手書きで入稿した文章を、指定した書体と大きさと字送り行送りで綺麗にプリントアウトしてくれるような機械のことです。

 今でこそパソコンでカラフルな原稿を作って、それがそのまま印刷されるのは当たり前になっておりますが、かつては写植機が打ち出してくれた文字を切り取って規定の用紙に貼り付け、その上からトレーシングペーパーを重ねて写真やイラストを配置する指定をして、その他の様々な加工を書き込んだ「版下(はんした)」というモノを作って入稿しなくてはならなかったのです。
 私がグラフィックデザインの仕事を始めた40年ほど昔には、そのような手順を踏んで版下を作成していたのです。複雑なカタチに文字を並べたい時には、写植機で綺麗に出力された文字列を一文字ずつバラバラにして貼り付けたりもしましたねえ。
 まあとにかく、コンピュータによるDTP(Desk Top Publishing)に移行するまでは、写植を打ち出してくれる写植屋さんには大変お世話になっていたという思い出です。
 「版下」とその作成手順についてはこちらのサイトが詳しいので、気になる方は見に行ってみて下さいな。


 で、写植機の仕組みはこうです。本体には小さな文字がびっしり詰まっているプレートが数多く並べられています。その文字をレンズで指定の大きさに拡大し、場合によっては細長く変形させたりして、一文字ずつ印画紙に焼き付けていきます。一定の間隔で並べていくのが基本(ベタ組)ですが、場合によっては文字によって詰めたり、あるいは間隔を広く取ってもらうようにも指定できます。行送りも同様です。そして最後にその印画紙を現像すると、綺麗に文字だけが並んだ印画紙が出来上がるというワケです。
 写植屋さんには様々な書体(明朝体とかゴシック体とか、とにかくいっぱい)が用意されており、指定に応じて書体のプレートを入れ替えながら印字していくのです。膨大な数の文字の中から必要な文字を探し出して大量の文字を印字していく。思わず「文字」という文字を連発してモジモジしてしまいましたが、そこには熟練の職人技が必要なのです。

仕組みとか、できることとか、こんな細かく書かれてもねえ
まあ、気になる人だけ拡大してお読み下さい
そしてこれが文字パレット。小さな文字がビッシリと!

 そんな写植機が発明されてから100年(なんと大正14年ですよ)。その百周年を記念して開かれたのがこの「写真植字の百年」なのです。開催されたのが有楽町線江戸川橋駅あたりにある印刷博物館というのがまた良いですよね。印刷大手の凸版印刷(現TOPPANホールディングス)が開いた博物館ですので、印刷に関する常設展も面白く、これまでにも何度か行ったことがあります。

1935年ごろの初期の実用機。これが写植機の初期のカタチです

 普通の会社に勤めて普通の業務をしておられる方でも、企画書を作ったりパワーポイントで資料を作ったりすると少なからずフォント(書体)を選ぶ場面も出てきたりしますよね。数多いフォントのメーカーの中でも写研とかモリサワとかの社名を聞いたことがあるかもしれません。後に写研を設立する石井茂吉さんとモリサワを設立する森澤信夫さんの二人が100年前に作り上げたのが初代の邦文写真植字機なのです。
 写真植字機に関してはこちらの写研さんのサイトが判りやすいと思います。さすがはパイオニア。

 その後、どんどんと改良されて様々な機種が作られていくのですが、私が記憶しているのがこちらの写研のPAVO-KY。

ディスプレイが付いたり色々進化しています。発明されてから60年くらい経っていますからねえ

 大阪にいた頃、近所の写植屋さんに行くとこの機械がいくつも置かれていて、オペレーターの方がカタンカタンと操作されていました。それによって私が原稿用紙に手書きした文字がダイナミックな書体と綺麗な文字で出力されるのには毎回感動していました。それがたとえ「青春はイッパ〜ツ!」とか「チンポコポ〜ン!」とかのバカバカしい言葉であっても、それはそれは綺麗に出力されるのです。オペレーターの方も困惑されたことでしょう。

記念撮影スペースには様々な文字のパーツが用意されてましたが、やはり「点」でしょう


 そんなこんなの印刷博物館と「写真植字の百年」。残念ながらこの企画展はもう終わってしまいましたが、常設展では様々な印刷についての歴史や技術も学べます。印刷に興味がある方ならば必ず楽しめますので、機会がありましたら行ってみて下さい。

こちらが印刷博物館の外観。ていうかTOPPANさんの本社ビルだけど
色んな印刷物のサンプルとして広告やタバコ・お菓子のパッケージなどもありました
多色刷り浮世絵の作られていく過程。北斎の神奈川沖浪裏ですね

 ちなみに印刷博物館は神田川沿いにありますが、所在地は「文京区水道1丁目」でありまして、それはこの辺りに江戸初期の上水道である神田上水が流れていたからですね。印刷博物館のちょっと北にあるウネウネ曲がっている道が神田上水跡です。その北側の台地は小日向台地で、数々の名坂が集まる場所でもあります。坂や上水に興味がある方も楽しめますよ。
 では、また。