地テシ:401 物流と細野と本の森の冬
ええと、ちらほらと情報が出てきておりますが、来年2月に大阪だけで上演される大阪国際文化芸術プロジェクト「FOLKER」の稽古が始まっております。
https://x.com/kusumic/status/1869258620426440819
(↑うまく埋め込めていないけど、共演者である楠見薫さんのXの投稿ね)
約二ヶ月のオフ、何もしないオフ、いや色々と仕事はしておりましたが演劇はしていないオフ、散歩だけはしていたオフを過ごした後にガンガンにフォークダンスを踊るのはキツイですって。そりゃ汗もかきますよ。
本番はまだまだ先の話ですので、まだまだ詳細は書きませんよ。徐々に出していきたいと思います。25年ぶりの再演となる「FOLKER」をどうぞお楽しみに!
さて、この二ヶ月のオフではホントに色んな所に散歩に行きまして、その一部はこちらでもご紹介いたしました。他にも色々とご紹介したいのではありますがまあだいたい古道だとか古いアパートだとかのマニアックなトコロばかりでして、その面白さを判りやすく説明するのが難しいのよ。だもんですから今回はその中からごく最近に行った、割と判りやすくキャッチーな三つだけをまとめてみましょう。
まずは品川の「物流博物館」。ゲーム友達から「鉄道古写真展ー鈴木直利氏コレクションからー」というのをやっていると教えて頂いたので、気になって行ってみました。鉄道と古写真ならば私の好物じゃないですか。そりゃ行くでしょ。
品川駅の高輪口を出てほぼ正面ちょっと右側にある柘榴坂を登り、突き当たりを左に曲がったところにあるのが日本で唯一の物流を扱った博物館である物流博物館です。元々は日本通運社内の資料室だったものが移転して物流全般に関する博物館となったようです。
今回の企画展「鉄道古写真展」は一階の展示室。小さめの部屋をパーテーションで区切って数多くの写真と簡易的な地図(と当時の浮世絵風の版画)がパネル化されて展示されていました。鈴木直利さんは鉄道関係資料のコレクターですが、そのコレクションの中から関東近郊とその周辺の鉄道古写真が100点ほど選ばれています。
館内での写真撮影はOKだったのですが、SNSなどでの公開は禁止されておりましたので、ココではお見せすることができないのが残念です。
鉄道古写真といっても、そこはやはり物流博物館。鉄道車両の写真は少なくて、中心となっているのは駅、線路、橋梁などの物流に関するモノが多く、貨物目線の資料となっていました。いやいや、車両よりも路線が好きな私にとってはむしろ大好物です。解説も丁寧にされており、今回初めて知った情報なども多くて大変興味深かったのです。
貨物目線での解説というのは、例えば中央本線の辰野駅(辰野町。諏訪市よりも南にあります)に関する記述。養蚕が盛んなこの地区では、中央本線が開通する前には生糸を京浜地区へ運ぶためにわざわざ荷車で和田峠を越えて信越本線の田中駅(東御市)まで移送していましたが、もっと和田峠に近い駅開設を陳情して、日本初の請願駅と言われる大屋駅(上田市)ができたのだそうです。ですので、中央本線が延伸して辰野駅ができてようやく直送することができるようになることは地元民の悲願だったのです。こういった物流目線での解説が面白かったのですね。これ、地図を見ながら読むとかなり面白いですよ。
他にも、吉祥寺駅を開設するために地元民たちが株式会社を組織してまで出資を募ったり近隣の寺院と交渉して土地を確保したりした話だとか、原宿駅の皇室専用の宮廷ホームは農産物の貨物輸送用の貨物駅を転用したモノだったとか、様々な物流目線の情報が書かれていました。
それと、三枚に渡って撮影された神奈川築堤の写真が圧巻でしたね。神奈川築堤というのは当時の神奈川駅から当時の横浜駅までを海上の築堤で繋いだ部分でして、現在では周辺も含めてガッツリと陸地になっていますが当時は海の上だったのですよ。もちろん近年発掘されて話題となった高輪築堤の写真もありましたよ。
全体としましては、鉄道ファン向けというよりは物流ファン向けのような印象を受けました。明治期の関東の駅舎や鉄道の歴史などに興味のある方ならば楽しめると思います。特に橋梁の写真が多いようにも思いましたね。
ちなみに物流博物館の入場料は高校生以上は200円ですが中学生以下は無料でして、企画展示はもちろん、常設展も見られます。地下には陸海空の物流ターミナル大型ジオラマがありまして、動いたり光ったりしながら物流を説明してくれます。他にも映像・ゲーム・クイズなどで様々な物流が学べるようになっています。
二階では人力による物流が紹介されており、様々な運び方が実物や写真によって体験できるようになっています。時期によっては映像展示室になったり、事前に問い合わせをすれば図書コーナーも利用できるようです。
全体的にはこぢんまりとした博物館ではあるのですが、他の博物館ではあまり扱わないような物流というテーマに特化しているところにニッチな魅力があるのだと思います。
次は渋谷PARCOで開催されている「55th HOSONO HARUOMI POP-UP SHOP」。細野晴臣さんのデビュー55周年を記念したポップアップストアです。
細野晴臣さんと聞いても誰だか判らない方もいらっしゃるかもしれませんが、まとめて言うと音楽プロデューサーです。日本語ロックに大きな影響を与えたバンド「はっぴいえんど」や、スタジオミュージシャンの集合体である「ティン・パン・アレー」、テクノミュージックの元祖のような「イエロー・マジック・オーケストラ」のリーダーとして日本のロックシーンを牽引し、同時にソロ作品もリリース。さらには数多くのアーティストをプロデュースしたり、若手の発掘・育成に努めたりと、まあとにかく日本の音楽シーンには欠かせない人なのです。
そんな細野さんが1973年に発売したソロアルバム「HOSONO HOUSE」(これは個人的に大好きな名盤)を色々な人がカバーしたアルバム「HOSONO HOUSE COVERS」のアルバムアートや、細野セレクトによる架空のビデオショップ「HOSONO VIDEO HOUSE」などをキーにしたアパレルやグッズが展示販売されていました。
細野さんはミュージシャンとしてだけでなく、ソングライター、プロデューサー、ディレクター、ボーカリスト、俳優、ナレーター、エッセイストなどなど、とにかく数多くの側面をお持ちなのですが、私にとっての細野晴臣さんというのはやはりベーシストなのですよ。恐るべきタイム感と天才的なフレージング、楽譜を無視した直感的なプレイ。とにかくベースプレイのセンスの良さが大好きなのです。
今回のポップアップストアではグッズ、アパレルに加えてはっぴいえんどやYMOのCDやビニール盤も売っています。もちろんそういった作品はだいたい持っているので、今回買ったのは細野さん特集の雑誌「pen 1月号」だけでしたが、これまた随分と濃い内容でしたよ。
77歳にしてなお若い人たちからもリスペクトを集めるアーティストとして、渋谷PARCOに出店されているのは大きな意味があるような気がします。ただ、このショップがある三階はストリート系のオシャレなお店が多いので、どうにも気恥ずかしかったのだけは予想外でしたけどね。12/25まですよ。
最後は八丁堀駅あたりにある中央区の複合施設「本の森ちゅうおう」。この中には京橋図書館と中央区立郷土資料館が入っており、カフェや多目的ホールなどもあります。
2022年12月に開館したばかりのこの施設がなにやら凄いらしい、という噂は以前から聞いていて気になっていたのですが、絵本作家の「こた」さんがお勧めしていたこともあって行ってみました。
立地としては八丁堀駅のすぐそばなのですが、敷地は江戸時代に八丁堀と呼ばれていた運河跡です。それが故に敷地が細長く、さらに敷地の北辺が暗渠となっているために建物が建てられません。ですので北側は庭や通路になっています。
その替わり、図書館らしからぬ大きな窓が北側に開いている(しかも紫外線を通さないガラスなんですって)ために本の焼けが少なくて済むのだそうです。
図書館と言えば四角四面で窓が少なく天井が低く、なんとなく薄暗いイメージがあるのですが、この本の森は窓が大きく明るくて天井も高く、複雑な構造をしていてとにかく楽しめる場所なのです。
自由に出られるテラスも多くて、暖かい館内から外に出るとキリッとした冬の空気が爽快で頭を冷やしてくれます。館内は森のイメージで統一されており、天井の灯りの配置はボロノイ図という葉脈などで見られる自然界の模様を象っています。
館内には書架だけでなく数多くの椅子や机、ソファーなども用意されており、気に入ったところで本が読めるようになっています。さらにグループ学習室や一般学習室、対面朗読室などもあり、読書だけでなく学習や調べ物もしやすくなっています。
まあとにかく、図書館として理想的な場が構築されており、さすがは最新鋭なのだなとか感心いたしましたよ。本の貸し出しも返却もセルフで機械処理が可能なんですって。
併設されている郷土資料館では企画展「受け継がれていく近代建築物〜中央区近代建築物調査から〜」が開かれており、小さい展示エリアに中央区の様々な歴史建築が写真と共に解説されておりました。以前にもご紹介した人形町の「うぶけや」さんの写真もありましたよ。
古建築が好きな私としてはとても楽しめたのですが、やはり写真パネルだけというのは寂しかったですね。でも無料で頂けるパンフレットには地図も付いていましたので、住所を調べて現物を見に行くきっかけを頂きました。中央区も色々と見て回ってはいたのですが、まだまだ知らない古建築というのはあるのですね。
京橋図書館も郷土資料館も、まあとにかく明るく開放的で綺麗なので、中央区民でなくても楽しめる施設です。ただ、楽しみにしていた屋上庭園と屋上展望台が閉鎖されていたのは残念でした。それと、展示替えのために郷土資料館の常設展示室に入れなかったことも残念です。こちらもかなりハイテクな展示らしくて楽しみにしていたんですけどね。ただ、12/26から2/19までは「中央区にナウマンゾウがいたころ」という企画展が開かれるようです。なにそれ、こっちも気になりますね。
そんなこんなの最近の散歩。稽古が始まりましたので気軽には散歩ができなくなりましたが、稽古休みとか年末年始とかの隙を狙ってまだまだ歩いてみたいと思いますよ。