地テシ:233 「狐晴明」の基礎知識! 悪党と蘆屋道満篇
さあ! いよいよ劇団☆新感線「始皇帝も愛したモフモフの極み」いや「狐晴明九尾狩」の大阪公演が始まりましたよ! 私にとっては一年半ぶりの旅公演、二年ぶりの大阪公演、八年半ぶりのオリックス劇場なんです。気合いも入ろうというもんじゃないですか。
今春の劇団☆新感線「月影花之丞大逆転」は、ここオリックス劇場にて無念の途中脱線を致しました。今度こそ完走したい! そりゃもう心配事はたくさんありますが、色々と気をつけながら最後までの無事完走を目指しますよ!
さて、意外と長く続いてしまっている「始皇帝も愛したモフモフの極み」いや「狐晴明九尾狩」の基礎知識講座も残り少なくなってきました。今回は悪党と蘆屋道満篇です。
「悪党」という言葉があります。現在では《極悪非道な振る舞いをする悪者たち》といったような意味に使われますが、元々は平安〜鎌倉時代頃に発生した《その地の支配者に従わぬ者たち》を指していたようです。
荘園や公領、あるいは幕府による支配に反発して妨害行為を行う者たちでして、今でいうところのレジスタンス的な意味合いも含まれていたようです。鎌倉幕府打倒から建武の新政、南北朝時代へと繋がる騒乱の時期に活躍した楠木正成なども悪党と称されていたとか。
要するに、悪党というのは単なる極悪人という存在ではなく、支配階級に対抗する新興勢力といった意味合いがあったのです。
今作に登場する虹川悪平太率いる虹川党も、そういった意味では悪党というコトになるのかもしれません。「京の都を裏から護る、恐れ知らずの兵(つわもの)だ」と自称する野武士の集団です。民に寄り添い、腐敗した支配者たちに反発して町の秩序を護る、やや自意識過剰な自警団のような人たちです。
ちなみに構成メンバーは、YAZAWAチックなリーダーの虹川悪平太(にじかわあくへいた)=竜星涼さん、大きな斧とネイティブな出で立ちの出殻段八(だしがらだんぱち)=吉田メタルくん、フーディーなボウガン使いの洛外藤次(らくがいとうじ)=武田浩二さん、天狗の盾が印象的な女武者の信楽丸(しがらきまる)=保坂エマくんの四名様。
どういう経緯で仲間になったのかは判りませんが、仲が良いんだか悪いんだか。なんだかワイワイ騒ぎながら京の都を護っていますよ。
しかし、新感線には○○党とか○○隊とかがよく出てきますよね。単に登場人物を増やしたいというのもありますが、徒党を組むことによって複雑な人間関係が出てきたり、厚みが出てきたり、単に賑やかだったり、あとは誰かが死ぬことで仲間の結束が高まったり。まあ人数は多いに越したことはないんですよ。
演劇というのは映画と違って実際に舞台の上で人間が演じるので、人数が多いってコトはそれだけ圧力が出るのです。物理的な迫力です。この迫力こそが演劇の面白さの一つなのかもしれません。
さて、続いては謎に包まれた陰陽師である蘆屋道満について。道摩法師とも呼ばれたり、いや道摩法師とは別人だという説もあり、そもそも実在していたのかもよく判らないという、要するに謎だらけな人物です。謎だらけなのに千葉哲也さんに演じて頂くと、なんだかイメージ通りなのが不思議ではあります。
陰陽師ということにはなっていますが、以前にも書いたように律令時代の陰陽師は行政機構に組み込まれておりましたので、いわば国家公務員です。官僚です。ですので、蘆屋道満が元々は正式な陰陽師だったものが引退して野に降ったのか、あるいは独学で修行して民間陰陽師を名乗ったのか、何しろ記載されている文献が少ないのでよく判らないんですよ。
蘆屋道満の出身地であると言われている播磨国(現在の兵庫県南部)には渡来人の末裔である民間陰陽師の集落があったという説もあり、その人々のエピソードが統合されて「蘆屋道満」という人物としてまとめられたのかもしれません。
ですが、江戸時代に作られた浄瑠璃や歌舞伎ではたいてい悪者として描かれておりまして、その影響で現在では陰陽師が出てくる小説やゲーム、映画やアニメなどでもだいたい悪役として登場してきます。しかもなにやら邪悪な技を使う、いやらしい悪役として。
大概は安倍晴明のライバルとして登場しますが、いつも晴明の勝利で終わります。ヒーローである晴明がよりカッコよく、よりスタイリッシュになればなるほど、ヴィランとしての道満はより泥臭く、より卑劣に誇張されていったのかもしれません。
要するに晴明が《正義の陰陽師》として有名になるほど、道満が《悪の陰陽師》として確立されていったのでしょう。
ですが、今作に於ける蘆屋道満は意外といい人です。在野の法師陰陽師として登場し、藻葛前を元方院に取り憑かせてご馳走を食べさせたりするような悪戯はしても、別段には極悪な所行は行いません。妖かしたちとも山の民とも仲が良く、日の本の裏を知り尽くした存在です。物語の終盤には晴明たちとも共闘し、卓越した陰陽師としての技で協力します。顔は怖いけど、優しい心根の持ち主なのです。そしてモフモフ好きです。
実は千葉さんには蘆屋道満とは別に「道摩法師」も演じて頂いています。顔は《迫力があって都合が良い》という理由で蘆屋道満にそっくりですが、こちらは晴明の式神です。式神のくせに結界を破ったり闘ったりもできるほどに強力なのがスゴイ。一人二役ではありますが、衣裳もほとんど同じなのでちょっとややこしいかもしれません。
よいこのみんなには、ここで大事な秘密を教えちゃおう。これは秘密だからみんなにはナイショだよ。その秘密というのは、この道摩法師と蘆屋道満の見分け方です。違いは二点。
まず一点目。蘆屋道満の左肩には妖かしの「ハコちゃん」が乗っています。ハコちゃんについては以前にもご紹介いたしましたこちらをご参照下さい。
そして二点目。蘆屋道満はなにやらモフモフした茶色い筒を首から提げています。多分、多分なのですが、手を温めるためのモノだと思います。作ったインディ高橋くんによるとロシア語で「モフ」という名前のモノだそうですが、多分ウソだと思います。
どうだい、タメになっただろう。これで蘆屋道満と道摩法師が簡単に見分けられるようになったね。これはナイショだから人に教えちゃいけないよ!
そんなこんなの悪党と蘆屋道満。二つまとめてお送りいたしました。ついでにもう一つ、私が演じている藤原近頼の秘密もお教えしておきましょう。
近頼には二種類の衣裳があり、前半はオレンジ系で後半は黒系です。衣裳はハッキリと色味が変わるので判りやすいと思いますが、実は冠も変わっているのですよ! 前半は《濃いネイビー》で後半は《黒》! 判りにくい! ほとんど同じ色だ!
被っている私も迷いますが、被せてくれる床山さんも迷うほどです。ちょっと光に翳してみたりしないと色の区別ができないんですよ。皆さんは判りましたか?
ちなみに、実はメガネも変わっています。前半の丸メガネよりも後半の丸メガネの方が、丸の大きさが小さくなっています。これも判りにくい。メイクも変えていますので、これからご覧になる方は注意して見てみて下さいね。
では、また来週!