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地テシ:313 純情オセロ 劇団員女子大活躍の巻!

さあ! 長らく上演して参りました「ミナト町純情オセロ」も、いよいよ残り2ステージとなりました! なってしまいましたよ!
こうなったら、もう何としてでも千穐楽まで無事に上演できますようにミナト町を駆け抜けて、瀬戸中海を渡りきりたいと思いますぜ!

でね、12年ぶりの再演とかいいながら、かなり設定が変わってしまって新作のようになっている本作。これまでにも初演と再演の違いについて色々と書いて参りました。
キャストが変われば同じ台本でも違うモノになるのは「髑髏城の七人」のツキドクロを見ても判りますが、今作ではキャストの変更に応じて台本の段階から大きく変わりました。ていうか、人物設定からして変わっておりますので、そりゃ違うモノになるでしょう。

ええとね、あと2ステージで終わりってコトでね、ちょっとネタバレに近いカンジの話も書いちゃおうかな。いや、ネタバレって程でもないんですけど、公式HPの粗筋では触れられていないキャラクターについて書いておきたいのです。

ネタバレを気になさる方はどうぞお気を付け下さい。



先週にはシェイクスピアでのイアゴーに当たる、高田聖子さん演じるアイ子の設定が最大の変更点だと書きました。普通は男性が演じるイアゴーの役回りを、女性が、しかもオセローよりも立場の強い人物として演じるワケですから、そりゃあ随分と変わるでしょうよ。
ですが私としましては、アイ子と同じくらいのインパクトのある変更が《劇団員女子の活躍》だと思っているのです。

皆様もお気づきかと思われますが、今回はいつもよりもゲストに来て頂いている方々が少ないのです。オセロ役の三宅健さんモナ役の松井玲奈さん汐見役の寺西拓人さんのお三方のみが今回のゲストです。
12年前の初演でいいますところの、松本まりかさんに演じて頂いたエミ役と、大東駿介さん(当時は大東介)に演じて頂いた沖元准役にはゲストをお招きしておりません。

ゲストが少ないと言うことは、必然的に劇団員の比率がちょっと高くなります。とはいってもね、まあ男どもは初演と同じようなカンジです。ほとんどが前回と同じ役だし、いつものようなアプローチでいつも通りに演じております。
しかし、劇団員女子たちの役回りは随分と変わりました。いや、役柄は初演と似たようなものなのですが、物語の中での存在というか重みが変わっているのです。


シェイクスピアの原作にはエミリアというイアゴーの妻が登場します。エミリアは様々な形でストーリーに絡んでくる重要な役でして、オセローがデズデモーナに結婚の証としてプレゼントしたハンカチを、デズデモーナが不注意で落としてしまった時に拾って、それをイアゴーに渡してしまったりします。これが大騒動の元になるんですけどね。
実を言いますと、初演に於けるまりかさんのエミと大東くんの沖元准の姉弟というのは、このエミリアという役柄を膨らませて分割したものだったのです。そして、今回ではエミリアの役割を膨らませて別の方向に分解して、山本カナコさん演じるチエと、中谷さとみさん演じるエミとに振り分けられているのです。
強いて言えばエミリアの気丈な部分がカナコさんのチエであり、エミリアの優しい部分がさとみさんのエミなのかもしれません。まあ、強いて言えば、なんですけれども。
ちなみに、チエの元夫である布引(演じているのは川原正嗣さん)には、イアゴーの男の部分が投影されているようにも感じられます。なんていうか、力強さの部分とか、エミリアの夫である部分とかさ。


前述した通り、エミリアは大変重要な役回りです。ですので、カナコさんのチエとさとみさんのエミも重要な役割を担っているのです。ご覧頂いた方々にはお判りかと思いますが。
最近の劇団☆新感線ではたくさんのゲストをお迎えすることが多く、結果として劇団員たちはオモシロ要員だったり、何人かでまとまった一団のメンバーだったりすることが多く、物語の本筋に絡むことが少なかったりしました。
しかし今回は、劇団員女子たちに重要な役柄を与えて実力を振るってもらうコトも目的の一つでした。場数を踏んでスキルも身につけた劇団員女子たちに、地に足の付いた演技で物語を支えてもらおう。そうしましょう。そしてその目論見は見事に当たり、今作は大変好評を頂いているようです。

カナコさんとさとみさんだけではありません。劇団最年長女優である村木よし子さん(実は聖子さんよりもよし子さんの方が年上なんです)には、赤穂の大親分の妻と、助っ人である紋田典良の妻の二役を演じてもらっております。このような様々な形の夫婦を示してもらうコトによって、オセロとモナ夫婦との対比を表しているように思います。特に赤穂樹里絵が見せる奇妙な愛の深さと冷酷さは印象深いのではないでしょうか。最年長よし子姐さんならではの粘りけと重みです。

あとね、意外と気付かれていないのが保坂エマさんの演じるユキ。確かに12年前の初演と同じ役ですし、セリフも役回りもあまり変わっていません。
それでも、積み重ねた年月とか獲得したスキルとかを感じさせる様な進化を遂げております。結構テクニカルなコトをやっているんですよね。爆笑ではありませんがマニアックな笑いだったり、細かい心情変化なども紡いでいるのです。


ことほどかように今作では劇団員女子たちが活躍しているのですよ。そして、その実力を信じて任せているいのうえさんの演出もまた、今作での変化の一つです。
二幕中盤でモナを中心に数人が集まって、身の上話やそれぞれの旦那の話をするシーンがありまして、大きな展開がないまま会話だけが続きます。やはりいのうえ演出ですから、稽古中には人々を大きく移動させたり音楽をたくさん掛けたりしていたのですが、最終的には最小限度の動きや音楽で構成されたゆったり感のある会話シーンに仕上がりました。この辺りにも今回の演出上の特徴が出ていると思います。
私も通し稽古を見た時に、新感線にしては珍しく落ち着きのあるしっとりしたシーンに驚きました。紅茶を淹れて飲んだりタバコを吸ったりといった些細ながらも効果的な動きとか、会話の交錯具合とかを新鮮に感じましたし、物語に引き込まれもしました。
こういった丁寧な人物描写や繊細な心理描写がドラマをクッキリとさせ、ストーリーに求心力を持たせているのだと思います。


同じ作家の書いた同じ作品でも、書き直しともなれば色々と変わってきます。キャストの変更とか演出家の意向とか、様々な理由によって戯曲としても変わってくるのです。そして演出手法まで変わってくるとなれば、もはや別の作品です。
どの演劇作品でも、そのキャストでしか、そのカンパニーでしか、その時代でしか出会えない一期一会の作品が出来上がっているのです。そして、今回の「ミナト町純情オセロ」もまた、今しかできない作品になったと思います。

劇場でお楽しみ頂けましたらば幸いです。まあ、残り2ステージとなってしまいましたけどね。じゃあ、最後まで気をつけていきましょうそうしましょう。