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マゴムスメ・ライブラリー 今
「ばあば、どんな日だったか覚えてる?」
「うん。」
「どこにいたの?」
「疎開先の、山の方の町よ。家族と、そこにいたの。」
「あの放送を聞いた?」
「玉音放送ね。聞いたわよ。」
「ばあばも正座して?」
「そう。皆で顔を見合わせて、ぽろぽろ泣いてね。ほーっとしたのと、くやしいのと。」
「どっちの気持ちの方が大きかった?」
「うーん。どっちもだけど、やっと安心したの。
もう、焼夷弾は落ちてこないんだって。本当にほっとしたの。」
「晩御飯の時に、ばあばは家族みんなとどんなこと話したの? 喜んだ?」
「なんにも。なんにも話さなかったの。戦争が終わったっていうことに、誰も一言も触れなかったの。ただ、しずかーに、御飯を食べたの。」
「その夜は、灯火管制も終わったの?」
「そう。灯りの覆いを外して窓を開けてね。周りの家も。」
「いっせいに、灯りがついたんだ。」
「皆、窓を開けだして、隣近所のひとと顔を合わせるでしょ。そこの方言でね、『よござんしたね。』『よござんした。』って言い合ったの。」
「騒いだり、大喜びしたりしなかったの?」
「みんな、思いが違うのよ。だから、何も言わなかったの。」
「喜んでるひとも、誰かを失くして喜べないひとも、いた。」
「そうよ。色んな思いのひとがいたから。だからね、ただ、『よござんしたね。』って、小さい声で、それだけ。」
「ばあば、あの日、空を見た?」
「見なかったわ。」
75年後の今日、私と祖母は一緒に空を見上げる。
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