遍歴の騎士の靴をはいて
10、9、8……とカウントダウンをして、日付が1月1日にかわる。
その瞬間を外で過ごしたことが、今までで一度だけある。
もう10年以上も前、私は京都で年越しをした。
仲良しだった先輩が、有名な神社に連れて行ってくれたのだ。
京都の駅で落ち合うなり、先輩は私の足元を指差した。
「その靴じゃ歩けないよ。物凄い人だし、傷がついちゃう」
京都で過ごす、特別な大晦日。
張り切った私が履いて来たのは、一番お気に入りのハイヒールだった。
熱気あふれる人混みの中で境内を歩く過酷さを、全く知らなかったのだから仕方がない。
先輩の言葉に恐れ慄き、営業していた大型ディスカウントストアに駆け込むと、私は慌てて靴を買った。
覚悟を決めて乗り込んだ神社は、確かに驚くほどたくさんの人たちで賑わっていた。
みんな、新しい年がやってくる高揚感に顔を輝かせて、寒さに震えながら1分1分が過ぎていくのをうずうずと待っていた。
それまで私が知らなかった世界が、そこにあった。
我が家の年越しといえば、テレビを見ながらお蕎麦を食べ、時計の針が12時を過ぎると静かに挨拶を交わす……という感じ。
宝塚に入って、初めて両親と離れて年越しをした時は、少しの心細さに加えて、ぐっと大人になったような誇らしさを感じたものだった。
それが一気に、文字通り外に連れ出されたのだ。
大袈裟に聞こえるだろうが、京都の神社で新年を迎えた体験は、私にとってカルチャーショックだった。
大型ディスカウントストアで買ったのがどんな靴であったか、もうすっかり忘れてしまった。
結局、履かなかったのかも知れない。
ただ、初めて経験する年越しスタイルに挑みかかるような気持ちでお店に入ったことを思い出す。
きりりと冷えた夜、晴れやかな気分で集い、大勢で新年をお祝いする。
心が沸き立つような楽しさを知った私は、「それでもね」と思った。
やっぱり私には、いつもの部屋の中でぬくぬくとテレビを眺めながら、のんきにカウントダウンをするのが似合うなあ。
皆さま、明けましておめでとうございます。
皆さまのあたたかい応援に支えて頂いた1年が過ぎ、2022年が始まりました。
「マイペースに」と言いつつ、この大好きな場所で書けることを大切に、これからもしっかりと頑張ります。
本年も、どうぞ宜しくお願い致します!!
皆さまにとって、わくわくが止まらない年となりますように。