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ジョニーベア【14最終回】2300文字

【14 最終回】楽園森 後編
 
冬の終わりが近づいてきた夜、
白く凍った森の中を、
ズンズンと雪を踏み分けながら
ジョニーベアは歩き続けていました。
冬の間中、七つ星を目指して歩き続けましたが、
七つ星はいつになっても遥か彼方に冷たく光っているばかりでした。
ここ十日ばかりは、食べ物もろくに口にすることができず、
一歩一歩進む足取りも、重くなっていきました。
それでも、
「楽園森、楽園森、
七つ星の元に広がる夢の楽園。
楽園森、楽園森、
七つ星の元に広がる夢の楽園」
楽園森の歌をおまじないのように口ずさみながら、
力を振り絞ってひたむきに歩いていると、
いつしか夜空が見渡せる大きな広場に出ました。
白銀世界が広がる大地に
夜空には無数の星が瞬いていました。
ジョニーベアは息を飲んで見上げると、
夜空の中に吸い込まれてしまいそうでした。
 
するとどうでしょう。
夜空のむこうに
星のようにきらめく川のような光が
空から広場に舞い降りてきました。
そして、夢にまで見たママベアの声が
どこからか聞こえてきたのです。
「ジョニー坊や、頑張ったわね。
冬のあいだずうっと歩き続けたのね」
ジョニーベアは驚いて辺りを見回しましたが、
どこにもママベアは見当たりませんでした。
ふと夜空を見上げてみると、
遥か彼方にあった七つ星がぐっと近くで輝いていました。
そして辺りの星達に比べて、七つ星はひときわ明るく輝いていました。
ジョニーベアはやっとママベアの七つ星の元に
来られたんだと思いました。
 
夜空の七つ星から聞こえてくるママベアに向かって
ジョニーベアは話しかけました。
「僕は立派なクマになれたかな、ママ。
それに楽園森まであとどれくらい
歩けばいいのかな?」
七つ星のママベアはきらめきながら
ジョニーベアにこたえました。
「ジョニー坊や、
あなたはママ自慢の立派なクマだわ。
立派なクマだからこそ、
楽園森に辿り着けたのですよ」
「えっ、ここが楽園森なの」
「そうよ、ここが楽園森の入口よ。
もうこれからはどこかに逃げることもないし、喧嘩することもないわ。
それに大好きな木の実でお腹一杯になれるわよ」
「僕はとうとうやったんだね。
楽園森にたどり着いたんだね」
ジョニーベアはうれしさのあまり、
小躍りしながら言いました。
「ありがとうね、ジョニー坊や。
ママがいなくても頑張ってくれてありがとうね」
ママベアは泣いているように、
震えた声でした。
「ねぇ坊や、
向こうの空から広場に流れている川のように
きらめく光りが見えるでしょ。
あの光りはねオーロラっていうのよ。
もうここまで来れば充分よ、ジョニー坊や。
あのオーロラに乗って
お空に昇っておいでなさい」
「あのオーロラを昇っていけば、楽園森に行かれるんだね。
もう一息頑張るよ、ママ。迎えにて来てくれてありがとう」
ジョニーベアはそう言って、
オーロラに向かって歩いていくと、
歩いて行くほどに重かった足取りは軽くなり、
ついには大地からふわりと浮いたかと思うと、
空に昇ってジョニーベアは歩いていました。
凍てつく寒さも感じなくなり、
春の日差しに包まれているように、
お腹の底からポカポカした温もりがひろがっていきました。
そして辺りを見回してみると、
ジョニーベアは夜空に煌めく星達に
囲まれていました。
そこはいつか夢で見たような、
ママベアの七つ星の景色の中を
ジョニーベアは歩いていたのです。
 
星々が奏でるきらびやかな音楽に
心も体もはずみました。
雪の中を歩いていた重い足取りが
ウソだったように、軽くステップを踏んで
楽園森の歌を声高らかに歌いながら、
ジョニーベアはオーロラを昇っていきました。
その時、辺りの星たちがまぶしいくらいに
パッと輝いたかと思うと、
夜空の幾万もの星の光が、
ジョニーベアの体の中に飛び込み、
ジョニーベアは金色に輝いていました。
ジョニーベアは光そのものでした。
体は熱くほとばしり、
心は静かに穏やかでした。
そして透き通った瞳は
果てしない宇宙の彼方まで飛んで行きました。
その時、ジョニーベアは見たのでした。
「ここだ。ここだよ。ハックル聞いておくれよ、
僕一人で来てしまって、ゴメンね。
今ここにようやく見つけたよ。
ここが楽園森だよ。
何も欲しい物など無いよ。
何も奪われる物もないよ。
皆が一つに繋がっているよ。
皆が一つに輝いているよ。
光が一つだよ。
僕も光だ」
ジョニーベアは溢れる光りの渦の中心にいました。
「ハックルよ、ハックルよ、
僕の大切な唯一の友達よ。
君もここに居てほしかったよ。
本当は君も一緒に居てほしかったんだよ。
でもどうか僕を許しておくれ。
先に行く僕をどうか許しておくれ
君にまた会えると信じているよ。

君もいつかこの楽園森にたどり着くと願っている。
それまでどうか僕を許しておくれ。
ハックル、ハックル、僕の親友よ」
光の渦の中でジョニーベアは、
自分を見失ってしまいそうなくらいに
高まる気持ちに押されていました。
それでもハックルとここにいない事が気がかりで、
何度も謝らずにはいられませんでした。

しばらくして、体の内からとめどなく溢れていた光は静まり、
ジョニーベアはふわりと夜空に浮かんでいました。
するとオーロラの向こうの七つ星の中から
ママベアが現れ、ジョニーベアの方に向かってきたのです。
ジョニーベアは涙が溢れて、ただただ目を見張るばかりでした。
ママベアはジョニーベアのところまで来ると、
やさしい笑顔で両腕を広げました。
「さぁ坊や、ここで一緒に星となって、
地上を見守りましょう。
いつしかこの地上にも楽園森が訪れる日が来ることを願って、
夜空の彼方から見守りましょう」
ジョニーベアは腕を伸ばして、
ママベアの胸の中に吸い込まれていくと、
金色の流れ星が地上から夜空に向かって
天高く駆けめぐっていきました。
 
ジョニーベアが星になった夜でした。

―――おしまい―――


✏️✏️✏️あとがき✏️✏️✏️
 
このジョニーベアの物語は、OSO18というヒグマのドキュメンタリーを観たことから着想を得ました。このOSO18というのは、飼い牛を何十頭も襲いながらも、人の仕掛ける罠やハンターの猟銃から逃れていましたが、遂には駆除された北海道のヒグマです。
 
可愛そう という感傷的な理由がその着想ではなく、
圧倒的な 違和感 からの着想でした。
 
きっかけとなったNHKのドキュメンタリーの冒頭が
OSO18駆除を追いかけたハンター達の壮行会シーンだったのですが、
それが 焼き肉 だったんです。
このドキュメンタリーディレクターさんの意図したカットなのかは分かりかねますが、そこから色んな考えが入り混じって、この違和感が頭の中で膨らんでいきました。
 
素朴な疑問
人は牛を食べているのに、クマは牛を食べてはいけない。
 
人から見れば、
牛は人が飼っている所有物だから、クマはそれを盗む行為なのでしょう。そんな事を熊は知ったこっちゃ無いけれど、人とクマの生活圏の問題が絡んでくる。
人の住む里があり、クマの住む山がある
そして両者の生活があやふやな非干渉地帯の里山がある。
この里山が人によって大きく侵食された故の悲劇なのかもしれない。
 

そんな事を考えていたら、
んんん、待てよ。
そんな事って、人とクマだけに限った話しじゃないな。
 
あんまり、こっちに近づいてくるなよ。
ここいらは俺達の場所なんだぜ。
おめぇ~らは向こう行けや、と威張り腐ったり。
威張り腐るだけならまだいいけど、
銃をつきつけて、何十万人という人の命を失ってでも、
縄張りを広げようとしたり、維持しようとする人の行い。
そんな事が今の人の世界でも起こっている。
縄張を守るためなら、殺す という手段が正当化される行為。
この景色はこの世の地獄です。
 
そういうことだったのか。
これは我ら人間の問題だ!
楽園森を探さなくては!
 
そこで、ジョニーベア君に託して楽園森を探す旅をしてもらいました。
中々厳しい旅にも関わらず、
ジョニーベア君は楽園森を見つけたようですが、
残念ながら、ジョニーベア君が行き着いた所まで、
僕らは共に旅することはできませんでした。
しかしながら、
 
「そこは皆が一つにつながっている」
 
とジョニーベア君はメッセージを言い残してくれました。
このジョニーベア君の言葉を頼りに、
我ら人間も大いに創造力をかき立てて、
この地上にも楽園森がいつの日か実現出来ることを切に願います。
 
ジョニーベア君も夜空の彼方の楽園森で見守ってくれている事でしょう。
 
それではまた会いましょう!