【連作】マイ ヒーローズ 4
「こんなに豪華なケーキ見たら、
うちの坊やどうなっちゃうかしらね」
ママが微笑んで言いました。
「ケーキだけじゃないよ、ママ」
パパはそう言うと上着の内ポケットから
封筒を出しました。
「今年はこれまでで
一番のクリスマスになるんだよ」
と言ってママにその封筒を渡しました。
ママは封筒の中身を見て、
びっくりした目をしました。
「どうしたの?このお金」
「実はね、来月から新聞のコラムの仕事をやらせてもらえるようになってね、無理言って1か月先に貰えたんだ」
「でも何のために先にもらったりしたの」
「我が家のスーパーヒーローのためさ」
パパがそう言うと、二人が歩いてる向こうに
おもちゃ屋さんが見えました。
「まさかヒーロースーツ?」ママが言いました。
「そう、ヒーロースーツ」
「なんてステキなの、パパ」
と言ってママはパパに抱きつきました。
二人はおもちゃ屋さんのウインドウの
前に立つと、今日もウインドウの中では
スーパーヒーローのスーツが煌びやかに
輝いていました。
「ママ、あれがうちの坊やが欲しがっていた
ヒーロースーツだね。ゴーグルまであって、
僕でも欲しくなるくらいカッコいいね」
「あれを着て、世界の可哀そうな
子供たちを助けるんだって」
「偉いことを言うもんだね。こんな素敵なケーキもあるんだし、ケーキに負けないくらい素敵なプレゼントもないとね」
パパがそう言うと二人しておもちゃ屋さんに
入っていきました。
しばらくすると、パパとママはとても残念そうに肩を落として店から出てきました。
ヒーロースーツはもうウインドウに飾ってあるのが最後の1着で、その1着も買い手がついてお店を閉めた後に届ける事になっていたのでした。
「もう1か月早くにコラムの仕事に
ありついていたらなぁ」
パパはとても深いため息をつきました。
その時でした、
おもちゃ屋さんの脇の路地から
おじさんが歩いてきました。
「クリスマスイブの夜だというのに、
そんな沈んだ顔してどうなされた」
おじさんはパパに向かって言いました。
「家の坊やに買おうとしたプレゼント
が売り切れでして…」
「そのプレゼントって、
もしかしてあのヒーロースーツじゃないのかな」
「そうなんです。あのヒーロースーツなんです」
パパはウインドウの中のスーツを
見ながら言いました。
「わしはね、
あなたとよく似た目の男の子を知っているよ」
おじさんは目を細めてパパを見て言いました。
「その子はな、このヒーロースーツがサンタさんのプレゼントで欲しくて毎日ここで願い事をしていたんだよ」
それを聞いたママがパパの耳元で言いました。
「きっと坊やが言っていたおじさんだわ」
するとパパは、
「その子って、12月だというのに半ズボンで薄着の男の子じゃないですか」
「そうじゃそうじゃ、この寒いのになぁ。マフラーはママが編んでくれたと言っていたなぁ」
「それは家の坊やに違いありません」
「おたくさんが、あの坊やのパパということは、
、、、なんてこったい、目の前にあるというのにあの坊やは今年も願いが叶わずじまいなのかい」
おじさんはとっても残念そうに言いました。
パパはそれを聞いて口をきつく結んで
悔しそうに頷きました。
「残念じゃったのう。
私の祈りも力にならんかったなぁ」
「仕方ありません。それよりもうちの坊やの話を聞けば、おもちゃ屋さんの近くに、とっても楽しいおじさんがいて仲良くなったと聞いていましたけど、それがあなただと分かって嬉しい限りです。うちの坊やに付き合って頂きありがとうございます」
「何を言うかい、ありがとうはこちらさ。いつぶりにお願い事をする楽しさを教えてもらって、感謝してるのはわしの方だよ」
パパはそこでママの事を見てから頷きました。
「もしも今晩の予定が無ければ、夕食をご一緒にいかがですか?
今年のクリスマスはケーキ屋さんから頂いた大層なホールケーキもあるんですよ」
とパパが言って、ケーキの入った手提げを持ち上げました。
「わしみたいなのが、
家族の団らんの邪魔をしちゃいかんよ」
「でも今日はクリスマスイブなんです」
とパパが言うと
「うちの坊やも喜びます」
ママも言いました。
(またつづく…長いよね💦)