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トノサマガエルのメスはセクハラを防ぐために鳴く

個人的に新しい試みとして自分の書いた論文の一般向け解説をnoteで書いてみようと思います。(表現に多少過不足あるのはご容赦ください)

論文の本文はこちら

さてこの論文の内容を簡単に言うとトノサマガエルのメスの鳴き声の意味を調べたという論文なのですが、おもしろポイントは以下の3つです。

  1. カエルのメスが意味を持って鳴いている

  2. メスが鳴き声によってオスを追い払う

  3. それが見つかったのがトノサマガエルという超有名カエル

以下それぞれ詳しく解説していきます。

1.カエルのメスが意味を持って鳴いている

一般のひとたちの感覚からはメスが鳴いていることの何がすごいのかよくわからないと思いますが、カエルって基本的にオスしか鳴かないんです。
これはカエルに限らず、昆虫など鳴き声を出している多くの小型生物に当てはまることが多いです。
というのも、これら小型生物は鳴き声を主に求愛にのみ利用しているため、メスに対して求愛をするオスしか鳴かないことが多いです。
例えばセミやコオロギなどであれば、鳴き声を出す器官そのものがオスにしかないので、物理的にオスしか鳴き声を出せません。

カエルも大きな鳴き声を出すために鳴嚢と呼ばれる器官をもつ種類が多いのですが、これはオスにしかありません。

喉で膨らんでいるのが鳴嚢

なのでカエルに関してもオスしか鳴かないのが常識であり、そんなカエルでメスが頻繁に鳴き声を出しているということが分かった点がまずおもしろい!ということでした。
世界的に見ればメスが鳴くカエルもちらほらいるのですが、日本のカエルでは鳴くこと自体が初めての発見でした。

2.メスが鳴き声によってオスを追い払う

この論文の肝の部分はメスの鳴き声の機能です。
タイトルにもある通り、メスの鳴き声はオスの接近を防ぐ=セクハラを防ぐ機能をもっていることが分かりました。
メスは鳴き声でオスを威嚇して近寄らせないということをしているわけです。

一般的にカエルのオスはメスを見つけるとメスにとびかかり、背中に乗ってメスを後ろからホールドする「抱接」と呼ばれる体勢を取ります。
カエルは体外受精といってメスが卵を産み、そこにオスが精子をかけることで受精させるため、オスは気に入ったメスの背中にしがみつき、メスが卵を産むのを待ち構えています。

抱接するトノサマガエル

この抱接ですが、メス側から解除することはできず、産卵が終わるなどオスの気が済めば解放されます。
これは逆に言うと、オスの気が済まなければずーーーーっと抱接され続けるわけです。
長いものでは数日抱接したままという観察もあるくらい。
メスにとってはもんのすごい邪魔ですね。

普通のメスにとっては産卵が終われば抱接も終わるんですが、一度産卵が終わってしまったメスにとっては大問題。
トノサマガエルは1年に1回だけの産卵しかしないため、そういったメスは卵を産むこともできずオスの気が済むまでずーーーっと待ち続けないといけません。
その間、移動は遅いしエサは取りにくいし目立つから敵に狙われやすくなるしで散々なわけです。

こういった問題を回避するために、その年の産卵を終えたトノサマガエルのメスは鳴き声を用いてオスが近づいてくるのを防いでいるのでした。
オスからの抱接というセクハラを未然に防ぐ鳴き声というわけです。

この結果のとてもおもしろいポイントは、実はオスが素直に引き下がっているところなんです。
というのも、カエルのオスはとてもアグレッシブにメスにアタックすることで知られていて、目の前で動くメスっぽいものをみかけたらすぐに抱接しようととびかかるという性質を持っています。
そのため、オスじゃなくてメスに対してアタックしたり、別の種類のカエルに抱接したり、果ては生物ではないものにも抱接したりと見境がないです。

そんな本来アグレッシブなはずのオスが、メスに鳴き声で威嚇されただけで縮こまり、すごすごと去っていく・・・
その後ろ姿には哀愁が漂うほど。
一般的な常識とは大きく異なる行動をとっていたことがこの研究で明らかになりました。
とてもおもしろい。

3.それが見つかったのがトノサマガエルという超有名カエル

そして最後にこれ!
トノサマガエルという一般的にもある程度知名度の高いカエルで今回のことが見つかったのがおもしろい!
トノサマガエルなんて研究者に限らずたくさんの人が飼育したこともあるだろうし、観察や研究もしていただろうに、いままで誰一人としてメスが鳴いているのに気づいてなかったという点。
これはなんというかロマンですよね。
俺・・・とんでもないことに気づいちゃった・・・というやつです

まぁ今まで気づかれなかったのにもいくつか理由があります。
・オスしか鳴かないという先入観
・オスとは異なりかなり小さい音量で鳴くので野外で聞くことは不可能
・ほかの個体に対して鳴くので誰が鳴いたかを特定しにくい

今回僕は実験室において雌雄1匹ずつの条件で水槽に入れた状態をカメラで撮影していたため、鳴き声をどちらの個体が出したのかを明確に確認できたというのが大きいです。
さすがにカメラで撮っていないと、僕も気のせいかと流してしまっていたでしょう。

このように、その辺にいる動物ですらわかってないことが山のようにあるのが生物学。
そこには宇宙に負けないくらいのロマンが詰まっているな、と僕は思っています。
これまで世界で誰にも見つかっていないことが、ふとしたきっかけで明らかになるなんて、なんと夢のある事か。
トノサマガエルにおいて「メスが鳴くかどうか」なんていう超初歩的なことが2023年になってようやっと分かったということは、まだまだほかの動物でもこれまで知られていなかった面白い不思議な行動や生態が隠されている、ということを分かりやすく示していると思います。

この話を聞いて生き物の研究に興味を持ってくれるひとがひとりでも増えてくれたら、研究者の端くれとしてとてもうれしいです。
これからもいろいろと書いていくつもりなので今後ともよろしくお願いします。
研究内容について質問があればコメントしてもらえれば返信で解説できるので、気になったことがあったひとはお気軽にコメントしていってくださいね。

ではまた~

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