「発車オーライ」

きょうも　絶望と少しの希望を
人間という容器に詰めて
電車は　それらを載せてゆく

それぞれの器は
形や大きさは　さまざまだが
どこもこれもが
朝の込み合う車内に
スキマなく押し込まれている
時に
その器が倒れたり
フタが開いて　モノが飛び出したりする
すると　混雑した車内から　器は押し出される

今朝も　ぼくは見た
駅のホームに若い女が男に抱えられて
押し出されてきた

男は女を両脇に抱え
ぐったりした女を引きずるように
ホームに寝かせ　口からマスクを外す
駅員　警備員が何人も飛んできた

女は目を開けていたが
意識があるのか　ないのか　生きているのか
首元から胸にかけて　マッサージをされているように見えた
ほんの２分ほどで救急隊員がやってきた
驚くほどの速さだ

女は助かったのか　無事だったのか
どうなったのかを見届けることもなく
ぼくもひとつの容器となって
電車の中に押し込まれた

きょうもさまざまな容器を載せ
東京の電車は定時運行し続ける