「駆けていった女」
閉じかけた エレベーターの扉
当然のように 手を差し込んで開き
カゴの中に入った
と
そこにいた女 慌てて 外に飛び出した
あ
今の時世 他人と乗り合わせたくない…
イヤなんだ この女
あ すいません どうぞ どーぞ
今度は僕 カゴから飛び出た
確かに
この女 閉まる扉に 手を差し入れたとき
「閉」ボタンを懸命に押していた ような…
ふつう 乗ろうとする人影あれば
「開」ボタンを押す
女
いえ いーーーんです
と
言って 駆けだす 逃げだす
こっちは バイキン扱いか 不愉快千万
それを 後ろで見ていたふうの男
入れ替わるように カゴの中へ
女がいなくなった以上 僕も乗り込む
バツの悪さいっぱい
見知らぬ男に
いまの 見てたでしょ
と
苦笑い 向けた
男 きょとん キョトン
見てなかったか
いや 男の両耳にはイヤホン
両耳に 栓した男
そんな男相手に
言ったとて これ以上 詮なき話