初めての母の日
赤いカーネーションも、花柄のハンカチも、好みの柄のエプロンも、
子どもの頃、母はどの贈り物もちゃんと喜んでくれた。
でも、ある程度の年齢になってくると、自分の母は花束や鉢植えを喜ぶようなタイプじゃないってことを理解したし、
使う物は割と吟味して好みの物を揃えてるって気がついた。
子どもからの贈りものだから無碍に扱うようなことは無かったけど、やっぱりお気に入りになるにはちょっと違うんだろう。
そうでなくても毎年のことだから、贈り物はどんどんネタ切れになっていたし、
自分が結婚してからのここ何年かは、少しいいお菓子とか、実用小物が定番だ。
今年の分を明日にでも渡しに行こうか、
そんなことを考えながらスーパーで買い物をしているとき、ふとガーナチョコレートが目に入った。
その下には、母の日、の文字がある。
子どものお小遣いでも手が届く、赤いパッケージのチョコレートは、いつの間にか母の日の定番になっていた。
そういえば、と、前に居る夫と、夫の腕におとなしく抱っこされている娘を見た。
去年産んだ、まだ一歳にもならない娘だ。
母の日の贈り物ばかりに気を取られていたけれど、
5月9日は、自分が母になって、はじめて迎える母の日だ。
まだハイハイしたての娘を盾にして「私も「母」だぞ!」なんて主張する気はサラサラないけれど、
自分が母になった年の最初の母の日くらい、自分で覚えていても良いんじゃないだろうか。
それならコレは、母になった自分への、最初の母の日の贈り物だと、ガーナチョコレートを手にとって、カゴにいれた。
なんでも舐めて確かめないと気が済まない娘は、家に帰って早速、ガーナチョコレートを念入りに確認していたし、
カドがヨダレでヨレヨレになったそれを、夫が「はい」と私に手渡してくれた。
娘もそのうち、私みたいに、贈り物に頭を悩ませる日が来るかもしれない。
相手の好みに合ったものを選ぶ難しさと、贈るときのワクワク感を何度も繰り返すのだ。
そして、もし本人が望んで母になれる時がきたら、今の私とおんなじように「はじめての母の日」を迎えるんだろう。
その時は、私から、真っ赤なガーナチョコレートをあげるのも良いかもしれない。