手から手へ。想いを結び・包み・繋げながら、アトツギの新しい形を目指す | 松浦産業株式会社 松浦英樹
町プロタウンのBiz.会員のみなさんにお話をお伺いして、事業活動を通して実現したい想いにスポットライトをあてていく特集記事をお届けします。
今回舞台に登場していただいたのは、松浦産業株式会社・取締役副社長の松浦英樹さんです。
香川県善通寺市に本社を置く松浦産業株式会社は、紙袋・ケースなどの把手やテープなどの包装資材の製造・販売メーカー。1932年に農業資材のわら縄ロープ生産からスタートし、92年の間に複数の事業を展開。現在、国内産の紙袋の把手のシェア率60%を占めます。
進化を続け、常に新たなビジネスの可能性に挑戦し続ける副社長・松浦さんの物語の扉を開いてみましょう。
プロフィール
松浦 英樹 (松浦産業株式会社・取締役副社長)
1972年 うどん県善通寺市生まれ 52歳 立教大学卒 出光興産で修行後
松浦産業に入社、2013年 取締役副社長に就任。~私たちは幸せを運んでいる~を経営理念に、荷造り紐、紙袋の把手、成型品、企業販促、広告宣伝業など商品ラインナップを広げる。「とって」屋さんが作った「とって」おきのうどん鉢で初のクラウドファンディングに挑戦し、500万円を超える応援購入を頂く。SNS(Facebook)での #とっておきのうどん鉢 の投稿は430回を超える。「松浦産業、松浦産業の商品も知られてないのはないのと同じ」という考えからPRtimesでのプレスリリースは、19回目となる。
▶娘2人の父親 ニックネームは、「うどん腹副社長」
▶趣味:全国のうどん店巡り 資格の取得(今年は、漢字検定2級 ユニバーサルマナー2級取得)
コーポレートサイト
https://www.matsuura-sangyo.co.jp/
曾祖父、祖父、父から脈々と受け継がれるもの
「松浦家には『思いついたらすぐ動く、聞きに行く』というDNAが代々受け継がれているんだと思います」
松浦産業株式会社・取締役副社長の松浦英樹さんは、穏やかな顔に笑みを浮かべた。
松浦産業は2024年で創業92年。松浦さんの曾祖父が田んぼを耕す鉄の「松浦産業式すき」を発明して販売し、祖父はわらを集めてわら縄の生産を始めた。農業資材の製造から紐やテープといった包装資材に、時流を読んで主力事業を変化させ、現在は荷造り紐、紙袋用把手、プラスチック成形と幅広い事業を展開している。
事業を支えているのは、従来あるものを改良してより良いものにして販売する、という松浦家のスピリッツだ。
松浦さんが「僕が尊敬する人」というお祖父さんが大切にしていたのは、「積小為大(せきしょういだい)」という二宮尊徳の言葉と、「信用の蓄積、人材の蓄積、顧客の蓄積」。「積小為大」は「少しずつ積み重ねていくと大きなことを成し遂げられる」という意味を持つ。地域と人を大事にしていたお祖父さんは、騙されたり失敗したりしながらも、周囲の人に慕われ、8回の倒産危機を乗り越えて松浦産業の基盤を作った。
松浦さんの父が大事にしていたのはスピードと人脈。好奇心の塊でいろいろなところに行っていろいろな人に会っていた父親は、高松空港から小型ジェットのYS11型機に乗り隔週で東京に行っては、ゴルフを通じて人との繋がりを深めていった。
松浦さんには忘れられないエピソードがある。幼少の頃、父親の車に一緒に乗っていた時のことだ。自動車電話で話していた父が、「このお客様の電話番号を覚えろ」と言った。松浦さんの父は電話番号を1000個くらい記憶している人だったので、松浦さんにもできると思ったのだろう。ただ、「一度で覚えろ」と言われても、松浦さんにはできなかった。運転しながらの父にひどく怒られた情景は、今でも鮮明に思い出せる。父が商売人として、いかに人を大事にしていたか、が表れている記憶の一コマだ。
祖父や父の背中を見てきた松浦さんは確信をもってこう話す。
「中小企業の強みはスピードでしかない。いかに意思決定を早くし、新規事業をスピーディに進めるか。僕も父と同じように、好奇心の赴くままにとにかくすぐ動き、次は何をしようかと常に考えています。だから落ち着きがない。きょろきょろといつも視線を動かしているから、妻には『あなたといると酔う』って言われますね 笑」
弱者の戦略で父を超える
松浦さんには、父親には勝てないと劣等感を抱いていた時期があった。
創意工夫で独自商品を開発し続ける父親は、松浦さん曰く「スーパーマンみたいな人」。カリスマ性があるだけではなく、社長にしておくのはもったいないくらい料理の腕前もプロ級なのだそうだ。
「父親を超えたい、そのためにはどうしたらいいか」。ずっと心の隅で考え続けていたある時、「弱者の戦略」を使えば父親に勝てるかもしれないと気がついた。
松浦さんの強みは「好奇心が強く誰とでもすぐ仲良くなれる」こと。自分単体で父親と張り合うのではなく、仲良くなった周囲の人と協力する。自分ができないことがあったとしても、できる人が側にいてくれたらいいんじゃないか。この方法だったら「おやじに勝てる!」と考えたそうだ。
香川県から大学進学を機に上京した時も、役に立ったのはこの「弱者の戦略思考」。田舎から出てきた松浦さんの周囲には地方出身者が多く集まり、夜ひとりで寂しい時は近くに住んでる仲間たちと一緒に過ごした。お酒がコミュニケーションツールになって、先輩とも後輩とも良い関係が築けた。大学時代の人との繋がり方や付き合い方が、今の松浦さんの原点になっているという。
相手がどんな人でも、拒絶するのではなく一旦受け入れて、その人から教えてもらえることや、勉強になることがあるといいなと思いながら話をする。屈託なく相手の懐に入り込み、なんでも根掘り葉掘り聞いてしまう松浦さんだからこその「弱者の戦略」だ。
アトツギとして既存事業の認知を変えていく
近年松浦さんは「松浦産業の事業の軸足を変える」ために頭をひねり、実行に移している。
松浦産業は「紙袋の把手屋さん」のイメージが強い。国内シェアの60%を占め、売り上げも大きい事業だから当然と言えば当然だ。業界四重苦(コロナ、脱プラ、紙ぶくろ有料化、資源の値上げ)のなかでも、コロナ収束後は紙袋が売れ始めて売上は増加。東京出張に出かけて、駅で自社の把手がついた紙袋を持っている方々を見ると嬉しくなるという。
それでも。
「アトツギとして自分の代で挑戦したいこと」のために、松浦さんは立ち止まらずに行動し続ける。
目指す会社の将来像は、新展開しているプラスチックのインジェクション成形事業や販売促進を行う企画会社だと認知してもらうこと。そのために、展示会や催事で積極的に店頭に立ったり、Facebookで毎日発信をしたりしている。松浦さんが動く姿を見せることで「松浦産業は新しいこと、おもしろいことをやってますよね」と周囲から声をかけてもらえる機会が増えてきた。
そして最近「横の進化から縦の進化へ」という発想の転換を形にしようという新しい視点が生まれた。
松浦産業の従来の事業作りは横展開。ひもから紙袋の把手、プラスチックの成形品という具合に進化してきた。しかし今後は、全く新しいことをするのではく、ひもからひもへ、把手から把手へと、アイテムは変えずに深く化けさせる縦展開の進化を目指したいという。
この縦展開の考えから生まれたのが「来るなら濃いピンクテープ」。畑や木を荒らす害獣対策に、害獣が嫌がるといわれるピンク色が鮮やかに持続するよう開発したテープだ。
事業変革を推し進める頼もしいパートナーは、松浦さんの弟さんだ。
弟さんはお酒は飲まず、人と話すよりも開発に没頭したいタイプ。三次元を理解し、一発目の金型トライアルでも失敗なくこなすという。営業が天職であり、お酒を飲みながら人と話すことが大好きな松浦さんは、弟さんと二人でお互いの強みを活かしあっている。まさに、「自分ができないことがあったとしても、できる人が側にいてくれたらいい」なのだ。
尖った仲間と共に繋がりの先が生まれる町にしたい
「経営者は孤独っていうじゃないですか。申し訳ないけど、僕はそう思ったことがないんですよ。しんどかったらしんどいって言う相手がいるし、周りには腹を割って話せる人たちが多いから。経営者の勉強会で出会った同じような経営者仲間もいます。経営者の悩みって大体みんな同じ。人が採れないとか、社員の給料をあげなきゃいけないとか。やっぱり仕事でもプライベートでも、人脈がすべてだと思うんですよね」
お祖父さんの代からそうであったように、松浦さんは人との繋がりの根底にある、見えない価値を大切にしている。
「ひと昔前は、同業者なんかつぶしてしまえ、という物騒な考え方もあったと思いますが、僕は同業者こそ協業する時代だと思っています。ライバル会社の社長にも電話して会いに行きたいくらいです!」
一人ではできないことでも、いろいろな人と連携するとできる場合がある。たとえ同業者だとしても、足りないところを補って協業すればいいのだ。
松浦さんが町プロタウンというコミュニティに入ろうと決めたのも、連携を作れる場、人と出会い繋がる場を求めたから。
松浦さんと同じような境遇、アトツギ二代目・三代目でこれからどう現状を打破していくかを考えている尖っているメンバーが多い町プロタウンは、話を聞いていて面白い。「オンラインではなくオフラインの方が絶対にスピード感がある!」という松浦さんにとって、催事に合わせて飲み会が企画され、実際に会って話す場があるのも大きな刺激だという。
「何といってもみなさん熱い!熱っ苦しいほど熱い!この尖っていて熱い方々と何かできないか。それぞれの異なる事業を掛け合わせていけば、コラボレーションできると思う」と、町プロタウンから生まれる化学反応に期待感が膨らむそうだ。
松浦さんが考えるのは、ギフトショーなどの展示会や渋谷ロフトなどのPOP UPに共同出展したその先。町プロタウンでの繋がりを活用して、参加する企業みんなでマネタイズができたら、コミュニティとしての意味や価値もさらに出せるんじゃないか。そのために自分がなにかできないか、と、好奇心と視線がきょろきょろと動く。
「従来あるものを改良してより良いものにする」松浦家のスピリッツは、これからの町プロタウンにどんな変化をもたらすのだろうか。
取材・編集:坂本リサ
執筆:ロマーノ尚美
校正:森真弓(まあち)
最後までお読みいただきありがとうございました!
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