【特集】未来をデザインする。量から質へ、アップサイクルで広がるプラスチックの可能性 | 昌和プラスチック工業 内川毅
町プロタウンのBiz.会員のみなさんにお話をお伺いして、事業活動を通して実現したい想いにスポットライトをあてていく特集記事をお届けします。
今回舞台に登場していただいたのは、昌和プラスチック工業株式会社・代表取締役の内川毅さんです。
昌和プラスチック工業株式会社は、千葉県茂原市に工場を構えるプラスチック成形工場。射出成形専業で日用品から工業用品まで幅広い実績があり、量産メーカーならではの視点で「アイデアから設計、試作、金型までをワンストップで」サポートしてくれる頼もしい会社です。
工作好きな幼少期を経て家電デザイナーとしてキャリアを積んだ「デザインもできるプラスチック屋さん」、内川さんの物語の扉を開いてみましょう。
プロフィール
内川毅(うちかわ たけし)|昌和プラスチック工業株式会社 代表取締役
千葉県茂原市生まれ。幼少期は自称「工作王」で、家業のプラスチック工場内で工作に励む。東北工業大学に進学し工業デザインを学んだあと、三洋電機株式会社(現・ パナソニック株式会社)に就職。テレビ、ビデオ、ビデオカメラなどのオーディオビジュアル製品のスタイリングデザイン、開発デザインを担当。1997年、33歳で家業を継ぐ。プラスチック成形、加工事業の経営に邁進中。
▶グッドデザイン賞受賞歴2回
▶「房総ものづくりネットMOVA」事務局 https://mova.chiba.jp/
コーポレートサイト:https://showaplastics.jp/
Instagram:@showaplastics
「工作王」だった幼少期から、デザイン三昧の日々へ
「物を作る楽しさを全身で感じていましたね。工場にある素材や工具を自由に使わせてもらっていて、図工の授業じゃ物足りなかったです」
昌和プラスチック工業株式会社・代表取締役の内川毅さんは、自分の幼少期を振り返って懐かしそうに笑う。家業のプラスチック成形工場は朝昼晩と常に機械が動き、素材が溢れていた。
内川さんの幼少期は自称「工作王」。とにかく手を動かして遊ぶのが大好きで、ブリキや段ボールを削ってロボットを作り、ぴかぴか光る豆電球を仕込んで目を光らせるなど、家の工場に入りびたっては創作意欲を爆発させていた。
そんな内川さんの興味は必然的に「自分で考えて作る仕事」へと向かい、大学では工業デザインの道へと進んでいく。選択した東北にある大学は工芸職人との地方創生に取り組んでいて、秋田の曲げわっぱや木の器など、地域の伝統工芸にデザイナーの手を加えるという、民学共創の場が広がっていた。
この環境ながら、家電デザイナーを目指していた内川さんが卒業制作で作ったのは、宇宙船のようなサウナ用リラクゼーションカプセル。
「教授には『現実的じゃない』って渋い顔をされましたが、未来的なデザインに挑戦することが楽しかったんですよ」
卒業後は念願だった家電デザイナーとして三洋電機株式会社(現・ パナソニック株式会社)に入社した。「すぐに家電のデザインをしたい」と思っていた内川さんだったが、最初に配属されたのは開発部門。製品化に至らないものを開発し続けることにもどかしさを感じることが多い日々だったが、5年後、ついにビデオカメラを担当する部署に異動となる。
海外旅行ブームが盛り上がり、同業他社がパスポートサイズのビデオカメラを発売していた同じ時期、『双眼鏡型』というユニークな形状のカメラが内川さんの所属するチームから誕生。このカメラは1991年のグッドデザイン賞を受賞することになる。
「自分が描いたスケッチを部長がすごく気に入ってくれて、『横型で行こう!』みたいになったんです」と、内川さんは当時を振り返る。
家業に戻る道、デザインで挑む大量生産
家電デザイナーとして充実した日々を送っていた内川さんだったが、33歳の時に方向転換は突然やってきた。父親が病気になり、母親から「帰ってきてほしい」と頼まれたのだ。考えていた時期よりも10年ぐらい早い世代交代。それでも、「いずれは継ぐことになるだろう」と漠然と考えていたこともあり、家業のプラスチック成形工場に戻ることを決意する。
プラスチック製品で外観形状の重要なものはほとんど、「射出成形」という工法で作られている。原料であるプラスチック樹脂を溶かし、金型に流し込み、固めて成形するのだ。
家業に戻った内川さんを待っていたのは、お客さんから金型を預かり、注文された数量に成形する仕事。デザインの余地はほとんどなく、単調な流れ作業が続くばかり。
「当時は従来のやりかたを踏襲していれば、経営は成り立っていました。だからこそ、大きく変えることは難しかったんです」と振り返る。工業デザインの経験を活かして新しいモノづくりを模索していたものの、そうしたニーズを持つクライアントは当時ほとんどいなかった。
「家業では自分のデザイナーとしての経験は発揮できないかもしれない」と思い悩む日々が続いた。
そして5年後、ようやく内川さんに転機が訪れる。依頼されたハンガーの製造を、デザインから手掛けることになったのだ。このハンガーが2002年のグッドデザイン賞を受賞。内川さんにとって、畑違いで2度目のグッドデザイン賞受賞となる。
「これ、Gマークいけるよな」。内川さんのデザインの良し悪しを見極める直感が働いた瞬間だった。当時、クライアントはグッドデザイン賞について知らなかったというが、内川さんは迷わず「ぜひ応募しましょう!」と提案、申請の手続きもすべて任せてもらい挑んだ賞だった。
「大量生産の中でデザインにこだわるとコストがかかるけれど、やっぱり自分がいいと思えるものを作ることが私にとっては大事なんです。年中工場を稼働させて自分たちが作り続けるものだからこそ、『これだ』と思えるデザインのものを作りたい。もちろん、それで大金を稼げるわけではありません。でも、自分たちが納得できるデザインの製品を作り続ける方が、ずっとハッピーだと思うんです」
アップサイクルで未来を創る、次世代への挑戦
内川さんの祖父が創業した昌和プラスチック工業は、量産を極めることで事業を継続させてきた。24時間工場を稼働させ大量に生産する、だからこそ低価格で製品を提供しても成り立っていた事業構造だったが、2020年のコロナ禍で状況は一変する。
「プラスチック製品は、人が集まったり活動するときに使われることが多いんです。屋外イベントで使われるワイングラスも、漁港から海産物を料亭に納めるトレーも、クリーニング店で使われるハンガーも。コロナ禍で受注が激減してはじめて、今までは大量に受注できていたから成り立っていた経営構造だったということに気づきました」
これをきっかけに、これまでの「量」を追う経営から「質」を重視した新たな可能性に向けて動き出すことになる。
内川さんのもとには、再生ペットボトルや古着をアップサイクルしてハンガーを製作したい、生分解プラスチックを原料に製品を作りたい、といった話がいろいろ舞い込んでくる。試作レベルの段階のものが多いが、事業に占める大量生産の割合は少しずつ縮小しているという。
「今までは量産への対応に追われていましたが、持ち込まれる様々な案件についてアイデアを絞らなきゃいけない局面が多くなってきました。子ども時代に夢中になった工作をこんなに仕事で生かせるとは思っていませんでしたね」
自分の手を動かすことでスケッチからアイデアが膨らんでいき、見えてくることも多いという内川さん。試作や金型の設計においても、そのアプローチは同じだ。
「3Dプリンターが普及した今でも、試作はまず段ボールをカッターで切って作るんですよ。それが意外とうまくいったりする。これって、やっぱり子どもの頃からやっていたことが活きているんだなと感じます。この年になっても同じことをやっているんだ、って思うことがよくありますね」と、内川さんはまるで童心に返ったような笑顔を見せる。
房総サーキュラーエコノミー協議会のメンバーとして、高校生たちとの共創プロジェクトも始まった。地域資源の循環利用やアップサイクル製品開発の取り組みの一環として最初に生まれたのは、ペットボトルの蓋の再生プラスチックを使った「先割れスプーン」だ。
「高校生って思いもしない角度からアイデアが出てくるんです。私たちとは生活スタイルや場所が違う彼らの体験から生み出されるアイデアは、とてもユニークで刺激をもらっています」
内川さんの新しい取り組みは、プラスチック製造の枠を越え、地域や外部の仲間たちとの繋がりへと広がっている。
「工場と、何かを開発したい人をもっと直接繋げていけたらいいですね。例えば試作現場への『立ち合い』。直接来てもらって意見を交わすのが一般的なのですが、リモートでも可能だと思うんです。距離や時間に縛られず意見交換ができる環境を整えれば、もっと新しい試みができるんじゃないかなと思っています」
普段は内川さんがお客さんの要望を代弁して社員に伝える場面が多いが、いろいろな繋がりを増やすことは、外部の人と接する機会が少ない現場の社員たちの刺激にもなると内川さんは考える。
「お客さんが何を求めているかって、やっぱり直接聞いてみないとわからないんですよね。現場に来てお互いに情報交換をして、試作がうまくいったらみんなでわーって喜んで、拍手をしたりして。試作の場がドラマチックになったらすごくいい。成功したという一区切りの達成感も共有できると思います」
内川さんは「町プロタウンのBiz.会員(法人会員)やFans会員(個人会員)の仲間たちとも成功を一緒に作り上げる機会を作りたい」とにこやかにほほ笑んだ。
それぞれが固有の技術や経験を持っている町工場と、彼らが生み出した製品を愛するファンが直接会い、意見を交わすことで新たな価値が生まれる。そんな未来を、内川さんは町プロタウンと共にデザインしたいと考えている。
編集・校正:ロマーノ尚美
取材・執筆:坂本リサ
最後までお読みいただきありがとうございました!
2021年より活動を始めた「町工場プロダクツ」がさらに発展し、町工場とファンが共創する新しいオンラインコミュニティ「町プロタウン」が2024年4月にスタートしました。
町工場以外のどんな立場の方も関われるしくみができました。町工場のみならず、さまざまな業界、町工場が作るモノが好きで応援したいという個人ファンの方もご参加いただけます。
Biz.会員として、Fans会員として参加してみませんか?
申込みなど詳細は公式サイトをご覧ください!
コンタクトフォームもご用意しています。
質問・お問い合せもお気軽に。