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大胆で繊細なラブストーリー|『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』

2022年4月8日に公開された『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』というフランス映画を一足早く、オンライン試写で鑑賞させていただいていました。

第93回アカデミー賞国際長編映画賞にフランス代表作として出品された作品で、高齢女性たちの愛をサスペンスフルに描いたドラマです。

南仏モンペリエに建つ眺めの良いアパルトマンの最上階。向かい合う部屋を行き来するニナとマドレーヌは世間的には仲の良い隣人ですが、実際は長年愛し合う恋人同士でした。
2人は部屋を売ったお金でローマへ移住する計画を立てていましたが、マドレーヌは子どもたちに真実を伝えられず(カミングアウトをすることができずに)にいました。そんな中、マドレーヌが病で倒れてしまい、2人は選択を迫られることになります。

左がマドレーヌ、右がニナ

長年密かに愛を育んできた女性たちが主人公の作品ですが、本作で大胆さを感じるのでは、2人が70代の女性ということでしょうか。
愛の形に年齢や性別は関係ないのですが、ことエンタメ作品となると、女性同士でしかも年齢を重ねるほど、扱われにくくなります。(男性の物語は少しずつ増えてきた印象です)

またメガホンを取ったのは、1980年生まれの男性監督です。本作が長編デビュー作とのことで、難しい題材を何としてでも映画化しようとした熱意を感じます。

ポスターなどから勝手に想像していた雰囲気とは全く違い、ドキドキハラハラするシーンも多かったのが意外でした。
監督自身が「ジャンル面でも楽しむことができた」と、あえてサスペンスフルな表現を選んだというようなことをパンフレットで語っていましたが、この意外性は面白かったです。
マドレーヌが病に倒れるという状況もあり、個人的には、アンソニー・ホプキンス主演の『ファーザー』を観たときのような感覚になりました。

向かい合わせの部屋に住む2人

愛のために手段を厭わず、感情的になるニナの行動は、理解できないところもありましたが、当たり前だった日常を突如失ってしまったとき、わたしも同じことをしてしまうのかもしれない。

また「老い」も重要なテーマだったと思います。以前このnoteで『劇場版 きのう何食べた?』について書いた際、一緒に老いることをイメージして作られたことに感動し共感しましたが、彼女たちが長年求めていたこともこれだったのかなと。

フランスでは2013年に同性婚が認められており、本作では家族へ真実を伝えることができない故に一緒になれない2人ですが、日本では結婚さえできない状況ですよね。
長年の恋人同士でも親類と見なされない場合、一緒にいることさえ出来ない場合があります。結婚したい人が結婚できる世界にならないと、最期まで一緒にいたいという、その希望さえ叶えられないんだなと、我が国の現状を改めて考えさせられる。

向かい合う部屋に住み、お互いの部屋を借りているのですが、ほぼマドレーヌの部屋で暮らしていたんだろうなと、すぐ分かるほど部屋の充実度が異なります。(ニナの部屋は見事にがらんどうでした)

2人が長年、大切に積み上げてきた「生活感」を観ることができて、すごく嬉しい。こういう雰囲気を感じ取ることができるから、映画が好きなんです。

変わらない日常が何よりも嬉しい
マドレーヌの部屋は、写真や植物がたくさんあって素敵でした

あと、わたしは映画の中で「大切な人と一緒に睡眠をとる」シーンが好きなのですが、本作は愛おしい(そして少しハラハラもする)睡眠シーンがあったのが素晴らしくよかったです。

マドレーヌが病気で話せない状態でも言葉にせずとも訴えかける想いに涙する。映画の結末のその後の2人がハッピーエンドなのかは分かりません。でもあの一瞬、2人だけの空間でちゃんと意思疎通できたあの時間が、2人にとって何よりも大事だったのかもしれない。

▼▼『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』に登場するごはん▼▼

マドレーヌの誕生日はシンプルな焼き菓子。ドリンクはコーヒーじゃなく、ワインというのがフランス映画らしい。赤ワインも白ワインも何回か登場します。

ニナが1人になった際には、スクランブルエッグを作ろうとしますが、焦がしてしまうシーンもありました。(捨てられてしまう食べ物を見ると、胸が痛む…)

食事シーンが多く出てくる映画ではないのですが、2人の日常が見えるシーンは愛おしいです。上映館が少ないミニシアター作品ではありますが、機会があればぜひご覧ください。



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豆花
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