緊張がほぐれる温かいごはん|『ドライブ・マイ・カー』
『ドライブ・マイ・カー』素晴らしい作品でした。3時間の長尺ですが、まったく長さを感じさせない、俳優さんたちの演技もさることながら、やはり脚本のうまさを実感した名作でした。
第74回カンヌ国際映画祭で日本映画としては初となる脚本賞を受賞。国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞の独立賞も受賞し、4冠獲得の偉業を成し遂げた作品。
濱口竜介監督作品は『寝ても覚めても』を劇場で観ていました。上映時間が5時間 17分で話題となった『ハッピーアワー』はまだ未見なので、こちらも観たいです。
3時間の長尺ドラマですが、食卓シーンはひとつしかありませんでした。映画の中の食事シーンは「生」を感じる作品が多いなと思っているのですが、この作品では、ほかの行動で「生」を感じていたんだろうなと思うので、食事シーンが無いのも納得しています。
(ご注意)
ここから書く『ドライブ・マイ・カー』の食事シーンは、少しネタばれになります。初見でこのシーンを観た方が楽しいと思うので、まだ作品を観てない方は、ぜひ鑑賞後にお読みください〜
▼▼『ドライブ・マイ・カー』に登場するごはん▼▼
ドーナツとコーヒー
西島秀俊さん演じる家福(かふく)は舞台演出家で、妻の死後、広島で行われる国際演劇祭で、オーディションから演出を行うことになり車を走らせました。
広島までの道中、サービスエリアで駐車した車内で、おそらくドーナツとコーヒーを食べるカットがありました。(紙カップに入っている飲み物を飲んでいるのですが、家福は自宅でコーヒーを飲んでいたので、ここで飲んでいるのもおそらくコーヒーかな)
韓国家庭料理
この国際演劇祭で一緒に仕事をする、ドラマトゥルク兼韓国語通訳を担当するユンスさん。
家福の舞台は、国際色豊かな俳優で構成され、今回の演目『ワーニャ叔父さん』には日本のほかに台湾、韓国、フィリピン、韓国手話を使う俳優が揃いました。
こういう舞台はあまり観たことがないのですが、オーディションシーンから丁寧に描いているので、何だかすごく説得力がありました。
本読みの後、ユンスさんは「謝らなければならないないことがある」と、家福を夕食に誘います。ユンスさんの自宅にいたのは、韓国手話を使う俳優のユナ。ここでユンスさんとユナは夫婦ということが分かりますが、この作品を観ていて、初めてふわっと気持ちがゆるむシーンでした。
テーブルに並ぶ食事の詳細はわからないのですが、チヂミぽいものが見えました。あと、ユナが育てたジャガイモで作った料理(カムジャタンに似た料理)が登場しました。ユナが「(ユンスは)ジャガイモに似ている」というジョークを言い、みんなで笑うシーン。可愛くてとてもほっこりしたなぁ。ドライバーのみさきが家福に運転を褒められて、照れたのか急に犬を触り出すところも可愛くて笑っちゃいました。
ちなみにカムジャタン(감자탕)とは韓国の鍋料理の一つ。カムジャはジャガイモ、タンはスープの意味。直訳するとジャガイモのスープになるが、ジャガイモのスープはカムジャククといい、カムジャタンは「豚の背骨とジャガイモを煮込んだ鍋」を示すそうです。
劇中の料理は、カムジャタンより汁が少なめに見えたので、ほかの似ている料理かもしれませんが、韓国の家庭料理も調べてみたくなりました。この食卓を思い出して、ほっこりした気持ちになるだろうな。
ウィスキーと煙草
家福と高槻は2回ほどバーに行きます。食事は出てきませんが、二人ともがウィスキーと煙草なのは(例えば、高槻がビールじゃないところ)村上春樹ぽいのか、濱口竜介監督だからなのか。不穏なシーンだった。
3時間という間だったけど、なんだか自分も一緒に彼らと旅をしてきた気分になっていました。ラスト、韓国でのシーンもすごく好きでした。原作にはないらしいのですが、私はこのラストに賛同です。
マスクをしているので劇中もコロナ禍だと思いますが、みさきの新しい生活はとても充実しているんだ、と思えて本当に嬉しかった。
私たちは生きていかないといけないからね。