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知的財産の価値_2023冬


PPP/PFIの大原則は対等・信頼

企画提案書を開示せよ!

ある民間事業者から(同業務の2期目にあたるプロポーザルコンペで優先交渉権者に引き続き指定されたが、)議会が審議するために執行部から「優先交渉権者の企画提案書を資料として提供してほしい」という要請が出され困惑しているとの相談を受けた。

拙著「PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本」「実践!PPP/PFIを成功させる本」や上記noteでも記したとおり、民間事業者の企画提案書は知的財産の塊であるので、簡単に開示するようなものではない。
そもそも、(PFI法に基づくPFIや工事請負契約で一定額を超えるものなど一部の契約は議決事件に当たるので、契約書そのものに付随する資料として提案概要などは必要かもしれないが、一般的な契約では)執行部がどのような事業者と契約を締結するのかは執行権の範囲であり、議会の権能が及ぶところではない。

議会は執行部がどのような事業をやろうとしているのかを予算審議で丁寧に検討して予算の議決権を行使すること、決算において自らが議決した予算が適正に執行されて十分な効果を得られたか検証して認定・不認定の判断を下すことが自らの役割として、明確に地方自治法で位置付けられている。

近年、多くの自治体でトラブルとなっている事例の多くは執行部・議会が二限代表制やお互いの権能を十分に理解せず、過剰に干渉したりお互いが役割を見落として空白地帯を生じたりさせていることに起因している。

随意契約はハードルが高い?

上記の事例もそうだが、こうした不毛な争いが生じると決まり文句のように「随意契約はハードルが高い」と言い訳し、思考停止してしまう。
上記のnote等でも記しているとおり、随意契約が本当に悪だったら地方自治法(・施行令)から除外されているはずだ。
随意契約に対するトラウマ・先入観といった小さな・誤った認識によって、そこから得られるはずの「まちとしてのリターン」を喪失させてしまうのはあまりにも勿体無い。
全国各地で普通に行われている各種プロポーザルも、契約は随意契約である。プロポーザルコンペは誰とどのような形で随意契約を締結していくのかを決めていくための「契約の準備行為」の意味を担っているのであり、契約としては随意契約に他ならない。
「その人しかできない」「あの人・企業でしか持ち得ないノウハウ・アイディアを買う」のであれば、そのことをしっかりと随意契約の理由として説明すれば良いだけだ。
近年では、随意契約している案件のリストや契約理由をホームページで公表している自治体も増加しており、こうしたところで堂々と自分たちの意思決定の理由を記せば良いだけであるし、そのようなことすらできないのであれば、自ずとアウトプットの質も決まってくる。

違う見方をすれば、一般競争入札に付すことができるのは「金抜きの内訳書が全て書き切れるもの」でしかない。工事請負契約における一式計上も、そこには(仕様・調達方法・原価などの自由度が高く)民間事業者の裁量が大幅に働くので、本来は一般競争入札に馴染まない。ましてや、各種コンサルへの業務委託では、どのような手法・メンバー・手順・工程数で行うのか各社によって大きく異なるので、一般競争入札で対応することに無理がある。

随意契約は、そのプロジェクトの質を高めていくためにきちんとした手順と覚悟・決断・行動があれば非常に有効な選択肢となるはずだ。

対等・信頼とは

PPP/PFIに限らず、市民や民間事業者と何らかのプロジェクトを構築していくためには「対等・信頼」の関係が大前提となる。
行政だけではマンパワー・ノウハウ・資金・ネットワーク等が不足して手の届かない世界を創出していくためには、「誰か」の力を借りたり一緒に走っていくしかない。それどころか現在のほとんどのまちは、税の再配分だけでは(自治体経営ではなく)行政運営すらままならない状況に陥っているので、PPP/PFIは生きるための手段として不可避になっているはずだ。

まちは行政だけで動かせるものでも変えられるものでもない。様々な主体が、それぞれの得意分野を活かして有機的に繋がったり離れたりしながら試行錯誤してくしかない。
このようなことを前提に考えれば、(本来は自分のビジネスに特化していれば良い・そのまちに関わる必要性のない)「民間事業者の力を貸していただく」ことになるだから、余計に相手の存在・知的財産・価値を尊重することが重要である。

プロジェクトの質を高めていくためには、パートナーが投下するマンパワー・ノウハウ・資金・情報等の経営資源よりも自分の方が多くのリソースを提供していくことが必要であるし、実際には行政の方がかなり多くのリソースを持ち出すぐらいでやっと50:50になると認識した方がよい。

知的財産を買う

プロポーザルコンペ(や随意契約保証型の民間時提案制度)で民間事業者から行政が買うものは「民間事業者の知的財産」である。
企画提案書で書かれている一言一句や行間に込められたニュアンスは「行政だけでは絶対に思いつかなかった」知的財産の塊である。「あなたが思いついたわけでも、適正な対価を支払って買い上げたもの」でもない。それを安易に議会やなんちゃって評論家、粗探しをするだけの自称行政オンブズマン、挙げ句の果てには当該プロポーザルでコンペティターとなっていた同業他社の情報公開請求でモロ出しして良い訳がない。

本当にその企画提案書が欲しかったら、拙著「実践!PPP/PFIを成功させる本」でも記しているとおり、企画提案書を作成した会社に直接問い合わせれば良いが、絶対に提供してくれることはありえない。
民間事業者にとって一番大切な知的財産を決して軽んじてはいけないし、第三者が興味本位で取り寄せるものでも批評するものでもない。行政もそうした安易な声に「行政の持ちうる情報は市民の共通財産だ」と、自分本位な表面的優等生対応、保身をしている場合ではない。なぜなら民間事業者の企画提案書は「あなた(行政)の知的財産ではないから」である。

プロジェクトの質を上げるために

「誰とやるか」が大切

「うちのまちにはまともな民間事業者がいない、やってこない、ろくな企画提案書が出てこない」というのは、前述の対等・信頼の関係から考えると、「自分たちがそこまで達していない・その程度のレベルである」ことと同義である。

自分たちが本気で既成概念・前例踏襲・事勿れ等の思考回路・行動原理から脱却して、既得権益に切れ込むことも含めてプロジェクトに取り組み、必死になって自分のまちのプレーヤー、地域コンテンツ、まちの文脈等と向き合い、徹底的に営業を繰り返し続けることができたら、良いパートナーと巡り会えるチャンスが増えるだろうし、相手を見定める眼力もついてくるだろう。

プロジェクトの質を大きく左右するのは「誰と組むのか」である。二流・三流と組んでいてはプロジェクトの質もそこにしかならない。一般競争入札で巡り会える程度の相手では、やはりその程度の事業(≠プロジェクト)にしかならない。
一流のパートナーは一流の知的財産を有している。一流のプロジェクトに育てていきたければ、余計にパートナーの知的財産には最大限のリスペクトを持たなければならない。

比較されるような。。。

良質なプロジェクトを創出していくためには、一流のパートナーとともに歩んでいくことが重要であるが、一流のパートナーは簡単にプロポーザルコンペには参加しないし、ましてや安かろう・悪かろうの一般競争入札には参加しない。

パートナーを(行政が一義的に定義した仕様に基づく)価格だけで決めるような姿勢を持っている限り、一流のパートナーには巡り会えないし、そもそも一流の人たちは忙しいので企画提案書を書く時間もなければ、入札に付き合っている暇はない。そして、他の民間事業者と表面的に金額や企画提案書で比較されてしまうようなレベルにはいない。

こうした意味で考えていくと、特命の随意契約や随意契約保証型の民間提案制度の意義や可能性が見えてくるはずだ。もはやこれもあちこちで言っていることの繰り返しにしかならないが、随意契約ガーとか言っている時代ではない。

適正な対価

「PPP/PFIを活用すれば1つの事業でまちの課題が全部解決できる」「民間と連携すればコスト削減につながる」「民間事業者が公共資産を活用して儲かるのけしからん」「行政が民間事業者を活用してやっているのだから、行政の言い値でやるべきだ」等の民間事業者に対するリスペクトの感じられない声を、残念ながら今でも聞くことが多い。

数年前までPPP/PFIや自治体経営の先進自治体と言われていたはずのまちでも、こちらから(営業経費等を一切加算しないで)提示した見積額に対して市長自ら「そんな高いんですか?」の言葉が発せられた。コンサルからの講演依頼でも、「ぜひうちの社員ではできないことなので」とい言いながら「国の謝礼単価に準じて」とアルバイトレベル、その会社の新入社員の単価よりも圧倒的に低い額を平気で提示してこられたことがある。

金だけの問題ではないが「その人」「その企業」と本気で組みたいなら、適正な対価を支払うことは重要なことである。
こうしたところで目先のコストをケチり、一般競争入札で「安かろう・悪かろう」のコンサルに短絡的に委託してしまうから最終的なアウトプットの工事費がコントロールできなかったり、事業としてのレベルが低くなったり、最悪の場合には墓標になったり民需なき官製都市となってまちを衰退させてしまう。
最初のかけるべきコスト(≒知的財産を買う)・プロセスを軽んじて、膨大なキャッシュアウトを発生させたり「こんなはずではなかった」になったことは、どこのまちでも何度も経験しているはずなのに、同じ失敗を繰り返してしまっている。

令和版「失敗の本質」ループに陥っている場合ではない。

覚悟・決断・行動

やはり、知的財産についても行政が貴重なパートナーとなる民間事業者の立場を尊重し、つまらない理論や思惑を持った周囲の動きに惑わされることなく「覚悟・決断・行動」をしていくことが求められる。

企画提案書の開示要求如きでヒヨっているような人・まちが信じられるパートナーになりえるだろうか。企画提案書を開示するのではなく、どれだけ素晴らしい提案が寄せられたのかは、知的財産に配慮しつつオブラートに包みながら熱を持ってそうした人々に伝え、三次元の世界に現れたときの楽しみにして貰えば良い。(なぜなら、前段でグチグチ言っている人たちはプロジェクトの構築プロセスに関与することもなければ、相手にしていてもプラスに働く可能性もないからだ。)

また、このような不毛な企画提案書開示論争を起こさないためには、プロポーザルの実施要項や要求水準書のなかにニュアンスだけを記した公開に耐えられる「企画提案概要」を1ページにまとめたものを提出してもらうことを位置付けておくことも有効な対抗手段になることを記しておく。

行政の熱意・行動力はもちろん大前提となるが、民間事業者もビジネスであることから、その知的財産の価値をしっかりと受け入れ、知的財産に対して適正なフィーを支払っていくことを躊躇ってはいけない。

お知らせ

公共FMフェス2024in福山

2023年8月に草加市で開催し、大好評をいただいた公共FMフェス。満を持して第2回を2024年1月17日に福山市で開催することになりました。
詳細は上記リンクで確認いただきたいと思いますが、今回もSlidoを活用しながら会場参加型の1vs1のトークバトルを3ブロックにわたって展開します。絶対に再現性のない・ここだけでしか聞けない・超リアルな場ですので、ぜひみなさんご参加をお願いします。

実践!PPP/PFIを成功させる本

2023年11月17日に2冊目の単著「実践!PPP/PFIを成功させる本」が出版されました。「実践に特化した内容・コラム形式・読み切れるボリューム」の書籍となっています。ぜひご購入ください。
出版記念企画の「レビュー書いて超特濃接触サービス」も絶賛実施中ですので、ぜひこちらにもご応募ください。

PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本

2021年に発売した初の単著。2023年11月現在5刷となっており多くの方に読んでいただいています。「実践!PPP/PFIを成功させる本」と合わせて読んでいただくとより理解が深まります。

まちみらい案内

まちみらいでは現場重視・実践至上主義を掲げ自治体の公共施設マネジメント、PPP/PFI、自治体経営、まちづくりのサポートや民間事業者のプロジェクト構築支援などを行っています。
現在、2024年度業務の見積依頼受付中です。

投げ銭募集中

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