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【後編】授業時間数特例校って何だろう?~4月からの探究的な学びや授業はどう変化していくか~

【後編】では、イベントに参加された方からのご質問、また事前にオンライン上で頂いきましたご質問に沿ってトーク形式でお答えしていきます!

【前編】【中編】はこちらからお願い

Q.地域や保護者に探究的な学びの重要性をどう伝えましたか?

小髙先生:地域や家庭の理解は、探究学習を進めるうえでとても大事ですから、その意識を変えるために効果的な情報発信をしました。戸田市はFacebookを情報発信の場としていたので、毎日必ず探究学習の様子やその成果を発信するようにしました。学校だよりにも同様の内容を掲載していましたね。また、コミュニティスクールの場でも学校運営協議会委員の方にご理解いただくよう努めました。そうすることで、様々な角度から徐々に理解が深まっていったと思います。

Q.探究学習で子どもが変わるだけでなく、先生たちの変化もありましたか?

小髙先生:探究的な学びの経験が少ない教員も多いので、まずは教員組織の改革を行いました。例えば、「生徒指導委員会」を「子どものこころを育てるプロジェクトチーム」に名称変更し、自分で考え、行動する楽しさを体験してもらったんです。こういった経験をもとに教員の意識が変わると、授業の質も上がるので、子どもたちにとっても良い変化になったと思います。

小林さん:探究学習を通して社会を知ることは、先生方の変化に大きくつながったと思います。大学卒業後すぐ教員になる人は多いですし、教員になってからは日々の業務に忙殺され、学校外の状況や変化について自力でキャッチアップするのは難しかったりします。探究的な学びを通して、子どもたちと共に社会を学んだ先生方は、探究学習の重要性について実感を持って理解するようになると思っています。

また、先生方がプロジェクトを進める中でその目的と現在の行動が合致しているかを、ミライティーチャーズアカデミーでは常にチェックしていました。そのような見直し・修正が入ることで、先生方もまたさらに変化していったと思います。

Q.探究学習を通して、保護者にも変化が見られましたか?

小髙先生:保護者の方にも、自分でアイディアを出してそれを実行するといった探究的な活動をしてもらいました。
個々の保護者の方々に、自分たちでできることを考えてもらい、結果としてさまざまなアイディアをいただきました。当時はコロナ禍だったこともあり、オンラインの読み聞かせなどの発案がありました。

小林さん:保護者がボランティアとして授業に参加したことで、良い変化がもたらされたこともありました。
3年前、私の仕事に興味を持っていただいたのがきっかけで、息子の中学校でキャリア教育のような活動を始めました。各クラスに大人のアシスタントが必要ですが、当時は7つのクラスがあり外部からの人材確保が難しい状況でした。そこで保護者からボランティアを募ったところ、15名の方が参加し、各クラスに2名ずつサポーターが配置されることになったんです。

子どもが中学生にもなると、保護者が学校に行く機会は小学校に比べて少なくなります。自分たちの子どもが、普段何をどう学んでいるのか、よく分からないんです。それがこういった学習ボランティアに入ると、子どもたちが大人の想像を超えて結果を出す姿を目の当たりにします。そして、子の成長の速さに驚くとともに、大きな嬉しさを感じるんですよね。実際に、ボランティアの保護者の皆さんからも「この活動に参加してよかった」とのフィードバックを多くいただきました。

神薗さん:そういった子どもたちの変容を見ることで、大人たちの心にも火がつくんだと思います。

Q.探究的な活動の経験が少ない教員やその組織の改革は、どのように行われましたか?

小髙先生:私もプロジェクトベースの活動の経験はありませんが、自分が変えられる立場になったら教員や組織のあり方を変えたいと常々思っていました。
世の中は目まぐるしく変化しているのに校内組織は全然変わらず、子どもの学びの改革は叫ばれるのに教員の形は古いままであるという現状に問題意識を持っていたんです。

その中で私は、「みんな正解が分からないのだから、みんなで作っていこう!」というスタンスで組織づくりを行いました。自立的学習者を育むという最上位目標はあるけれど、その手段としての、主体的・対話的学びの在り方は、まだはっきり定まっていないからです。教員の研修については、講師を教育委員会から呼ぶのでなく、起業経験のある方や企業に勤めている方をお呼びしてお話を聞いたり、自分たちでPBLを進めたりすることで行いました。

神薗さん:私もずっと学校を支援する仕事をしていたからこそ思うのですが、先生たちの内側から変化が起きると、学校自体も大きく変わっていきますよね。先生たちの負荷を下げると余白が生まれて、新しいことをやっていただくことが可能になるのだと思います。

小林さん:目黒区には「研究開発学校」という制度がありまして、それを導入しています。小学校は、教育基本法で授業が1コマ45分と決まっているのですが、それが40分に短縮されるのです。本来午前中4コマのところを5コマにできるので、午前に全ての授業が終わる、あるいは午後に1コマだけ残すという形になります。
計算すると、年間で127コマの余剰が生まれるので、その分を全て探究学習に使うこともできますし、半分を先生たちの研修や授業研究に使うこともできます。この制度を導入して、目黒区では先生たちの働き方も改善していると聞いています。

Q.学校の配置転換がある先生方の採用・育成を、都や区としてはどのように考えていますか?

神薗:先生は市区町村単位ではなく、都や県から配属されてくる(政令指定都市は独自で採用しています)ので、渋谷区や戸田市で頑張っても先生方は入れ替わってしまいます。そのため、都や区の採用や育成のあり方が重要になってきます。本日は都議会議員の龍円愛梨議員も来てくださっていますので、突然で申し訳ありませんが、その点をお話していただけますか?

龍円さん(都議会議員): 東京都には教育計画があり、2024年からはその第5次計画がスタートします。その3本柱のうちの一つが、「学校内だけでなく、社会全体で子どもたちを育てていく」というものです。「全体教育から、一人ひとりの教育へ」という視点も加えられています。その中で、探究的な学びが重要視されているので、課題意識をもって取り組もうとしています。
また、教育に取り組む上では、子どもたちだけでなく教員の皆さまにも目を向ける必要があると、本日のお話の中で学びました。教員の皆さまへのプロジェクトワーク実施については、私の課題として持ち帰らせていただきます。  

神薗:埼玉県から、こんなことやったらいいんじゃない?というアドバイスがあれば、ぜひ小髙さんお願いいたします!

小髙先生:私は、戸田市から出て行った教員が、他の自治体を変えてくれるイノベーターになってくれればいいなって思っているんです。実際、「さまざまな改革をしてくれる先生が来てくれた!ありがたい!」と戸田市から出た教員が高い評価を受けたりしています。戸田市でワクワクする学びを作った経験を糧に、その後管理職になる方もいますね。
同じメンバーで学校を作っていけば、もちろん組織は安定します。でもそれを続けていくと、結局は学校が旧態依然としてしまう。だからこそ、学校という「村」にはどんどん新しい風を入れていくことが大事なんですよね。先生たちも色々な交流をしながら、どんどん新しいことを学んでいければ良いと思っています。

小林さん:旧態依然とした学校をどう変えていくか、ミライティーチャーズアカデミーを卒業された先生方も、現場に戻ると仲間がいないという悩みを抱えていました。そういった問題を解決するために、将来的には、自治体レベルでのミライティーチャーズアカデミーを行いたいと思っています。本来は都や県のレベルでやらないといけませんが、まずはいくつかの区や市で行い、その動きをどんどん広げていきたいと思っています。

Q.教科学習の時間が減ることを不安に思われている保護者に向けて、どのような説明をしたらよいでしょうか?(渋谷区の小学校教員の方から)

小髙先生:ポジティブシンキングといいますか、各教科の時間が減ることではなく、探究学習によって子どもたちにこれだけの変化が訪れ、成長しているので、その学びを加速させるために増やしたい、子どもたちの可能性を伸ばしたいということに着目して説明すると良いと思います。教員が、本当に探究が必要だと考えているのなら、その想いは必ず保護者に伝わるはずです。
また、従来の標準時数はアナログ時代が基準ですが、今はGIGAスクール構想により、タブレットを1人1台持つ環境に変わりました。こういったICTをフル活用することで、基礎のドリル的な学習についてはかなり時間短縮できるはずです。その点についてもお話するのはどうでしょうか?

小林さん:私が副委員長として携わっている、板橋のコミュニティスクールの話なのですが、当初はコミュニティスクール委員会、地域コーディネーター、おやじ会、同窓会、PTAと、ばらばらに存在していたんです。それが本年度から、学校をよくするワンチームとして、座談会のように皆で話し合う時間を取っています。その内容を一生懸命発信しているので、保護者の皆さんにも少しずつ情報が届けば良いなと思っています。また、探究学習の発表会を開催して、子どもたちの取り組みや成長を見てもらうことで、大丈夫だなと思ってくださるのではないでしょうか。子どもの成長を見ることのできる場を作ることが重要かと思います。

Q.現状として、先生方の力量の差を目の当たりにしており、新しい試みの探究学習が深いものになるのか、親としては非常に不安です。

質問者:先生によって見せてくれる、広げてくれる世界の差が大きいなと授業参観のたびに思います。具体的には、ICTを最大限活用してくださる先生もいますが、人によってはICTをドリルだけに使ってしまい、子ども同士の意見交換がないなど、プロジェクトが協働でなく、分断がおきてしまう場合もありました
先生方に時間を与えている、研修をしているというのは分かりますが、親としてはどういった内容の研修を行い、どんなゴールを置いているのかに焦点を置いて話していただきたいんです。

神薗:今のご不安は本当にそうで、先生によって、できる・できないはありますよね。できない方へのフォローアップをどうしていくのかが重要だと思いますので、もしやり方など、アイディアがあれば教えてください。

小林さん:中学校は先生方の担当が教科ごとの縦割りなので、お互いに話をする時間が忙しくてほとんどないんですよね。
それを渋谷区では、他の先生が行っていることを知り、自分の授業・研究内容も共有する時間を作れるようになっておりこれが重要だと思います。
例えば「主体的・対話的な深い学び」と言っても、主体的とは?対話的とは?深い学びとは?その学びを達成するためには何をすれば良いか?と、最初はそれぞれの先生方の思っていることがバラバラでしたので、話し合ってまとめ、それを学校にフィードバックしました。抽象的な概念を具体化し、認識のすり合わせを先生の間で行うことが、新しいチャレンジをする上で重要な事だと思います。

小髙先生:私が教員組織を改革したのは、ベテラン・若手といった壁をなくし、フラットに意見交換や対話をする時間と場所を確保したいという想いからなんです。そこで生まれたコミュニケーションから、変化を作っていこう!という機運が出てきます。他にも戸田市の中学校では対話の必要性を重視し、あえて教科の壁をなくしたグループで、自由な意見交換の場を作り始める学校が増えてきました。

そして、この場に校長先生がいらっしゃるようなのであえて言いますが、校長会から変えるのはどうでしょうか?今の校長会は、フラットに熟議をする雰囲気になっていますか?変革を起こすためには、一人ひとりが自分事として変えていかなければいけない、人のせいにしてはいけない、自分の関わりがあるところで、自分のできることをやっていくのが大事だと思っています。戸田市の教育は急に変化したわけではありません。校長会が大きく変わり、教頭会が変わり、そして職員室も変わっていったのです。

Q.渋谷区が授業時数特例を導入しようとした経緯を教えてください。

神薗:渋谷区の場合、誰か一人が声をあげたというよりは、リレーのバトンを渡すような形で、段階を経て今があります。2017年に長谷部区長が、子どもたち全員にタブレットを持たせると決めたのが大きな契機でした。加えて、教育委員会の全校コミュニティスクール構想や、地域学校協働本部の設置なども改革の種となりました。
そしてこの4月に向けて、「シブヤ未来科でやっている探究を、さらに拡大するためにはどんな制度を使うと良いか?」という相談を渋谷区の教育指導課が文科省へ行い、授業時数特例校の制度に関して提案をもらい、導入に至ったというわけです。
その際、通常ならモデル校を2,3個作って、そこでのトライアンドエラーを踏まえて、全校展開する形を取るのですが、渋谷ではみんなで最初の一歩を踏み出すことを決めました。4月から混乱が起きるかもしれませんが、今までの仕掛けがあるから乗り越えていけると信じて、みんなで新しい試みに取り組んでいきたいと思っております。

Q.中3という難しい時期に、不登校等の様々な不安を解消するシステムはありますか?

質問者:不登校を経験している子どもたちは、自分自身や学校、社会、教育に対して、色々な問題発見をしているような気がしています。でも、その問題発見の最中で苦しんで、休養が必要だったのかな?とも思います。その問題発見できた部分を潰さず、社会や学校が子どもを生かしていけるシステムがあるといいなと思っています。
そういった子どもたちは、今自習室でひとり探究をしていますが、これでは協働という要素が大きく欠けてしまいます。自分だけが見つけた問題を子ども自身で解決できたら、社会に出て行く際に大きな助けとなるのではないかと思うんです。
学校自体も大きく変わっていく中で、不登校の人数もそんなに多くないため、そこに焦点がいかないのかもしれません。それでも、不登校支援という点にも問題の種はあると思いながら、本日お話を聞いておりました。

小髙先生:不登校というものが、日本の大きな課題となっている中で、戸田市もオルタナティブプラン*という形で支援を考えています。また、戸田市内の県立高校の中に、中学生が通えるサポートルームを作って高校と繋がることのできる仕組み作りにも取り組んでおります。

*戸田型オルタナティブ・プランの詳細はこちら

神薗:色々な環境にいるお子さんがいることを踏まえながら、今後もどういった働きかけができるかを考えていきたいと思います。

Q. 知的障がいがある子が、通常学級にいる場合のフォローアップ例はありますか?

小髙先生:探究学習こそ、個性・特性がある子が力を発揮できる時間になる気がするんです。弱みを克服するのが教科学習だとしたら、探究学習では自分の強みを発揮し、みんなとの相乗効果でその力をさらに高めていくことになります。

神薗:まさに「ちがいを力に変える」ということですよね!これは、渋谷区の基本構想なのですが、そこに帰結しましたね。

あとがき

トークセッションを含め2時間にも及ぶ、大変内容の濃い学びの場となりました。学校や先生方のお忙しい現状について知ることは、私も母として、保護者の立場から、ともに学びを創っていこう!と協力的な働きかけができる大切なきっかけになりました。
特に、保護者の方からの質問タイムは、非常に心を寄せて耳を傾けたくなる内容で、聞いていて胸にこみ上げるものがありました。それぞれのお子さんが異なる悩みを持ち、保護者も不安や不満があります。それを公の教育システムで、どこまで対応できるのだろうか?龍円さんがおっしゃられた言葉、「学校内だけでなく、社会全体で子どもたちを育てていく。全体教育から、一人ひとりの教育になる」が蘇りました。今回のトークセッションに足を運ばれている行動自体が、解決策を待っているのではなく、学校、先生とも協力し、社会に働きかけていく、勇気のある能動的な行動なのだと気が付かせていただきました!

文:ママインターン 磯部麻衣子
校正:学生インターン 根本真帆

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