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乳がん治療 in アメリカ とりあえずの「終わり」を迎えて...


三大山を越えた!

昨年9月、アメリカにて乳がんの診断を受け、治療を続けてきましたが、2日ほど前に5週間に渡る放射線治療が終了しました。11月から約5ヶ月間にわたる抗癌剤治療、4月下旬の両側全摘手術+両側リンパ郭清、そして最後の放射線と、いわばこれらが治療において越えなければならない3大山でした。週1で12週間の抗癌剤治療を前にしたときや、週5日で5週間の放射線治療を前にしたときは、先の長さに不安にもなりましたが『始まれば終わる』は本当でした。この魔法の言葉はこれから先の人生、今度は私が誰かにつないでいく番です。実感をもって。

乳がんの治療としては、ごく一般的な治療をたどってきましたが、道のりは結構な凸凹道でした。病気の治療というものは、誰もが凸凹と感じるものなのかもしれなく、何を凸凹と感じるかもまた人それぞれでしょう。病状も薬の副作用も、それに対する体の反応にも個人差があります。でも、誰もがただ良くなるために闘っている、ということは同じなのだと思うのです。
私の凸凹道はこんな感じでした。

  • 自覚があった左側だけでなく、右側にも乳がんが見つかった

  • 検査の過程で肺転移がかなり濃厚に疑われ、肺の生検をした、しかも2回

  • 1度目の肺生検で、気胸になり入院した(過去一痛かった)

  • 2度目の肺生検はロボットも導入した最新式。結果は陰性

  • 肺は癌ではないものの、別問題があることは間違いなく治療続行中

  • 抗癌剤AC療法後、白血球の減少により入院

  • 退院直後、謎の高熱が続き、再入院

  • 感染症の検査の一環による結核検査のため、3日間は隔離部屋で入院

  • 手術直後に血種ができ入院(確率は3-4%と言われた)

  • 放射線治療の準備中に突発性気胸が発覚


ここからは長期戦に突入

大きな山を3つ乗り越え、やっと一息ついている今ですが、それはまた、ここからの長期戦の始まりでもあります。私の両側の乳がんは転移によるものではなく、異なるふたつの乳がんで、片側はHER2陽性ということもあり、3週間に1度、分子標的薬ハーセプチンを投与しています。これが3週間に1度で1年間になるので、終了は年明け。また、それとは別に、ホルモン療法が始まり4週間に1度のリュープリンの注射、そして1ヶ月後にはアリミデックスの経口が始まり、これはこの先10年間続く予定。副作用がひどく出ないことを願いつつ、うまく付き合っていくしかありませんね。でも、もし再発してこのプロセスをもう一度することを考えたら、予防のための長期戦はありがたく受入れるものでしかありません。

アメリカで乳がん治療をしたメリット&デメリット

乳がんに罹患したことを家族や友人に伝えたとき「日本で治療するの?」と聞かれることもあり、なるほどそういうこともあるのか、とは思いましたが、私の心はアメリカで治療することでかたまっていました。一刻も早く治療に取り掛かりたいというのが大きな理由だったとは思いますが、幸い病院も近かったし、検査を重ねる過程で、アメリカの医療、ドクターを始めとする医療スタッフへの信頼に確信を持てたのもあったように感じます。とはいえ、アウェイならではの経験もありましたので、アメリカで乳がん治療をしたメリット&デメリットをまとめてみようと思います。

①検査や診察は電話で予約
アメリカでは検査も診察も、全て自分で電話手配しなくてなりません。診察したドクターが検査のオーダーをしてくれますが、予約は各自でしなければならないのです。当初、私にとってはこれがとても大変でした。検査の数が半端なく多い上、当然ながら英語での電話、なかなか電話がつながらない、つながったと思ったら突然切れてしまう、などなど、とにかくフラストレーションがたまりまくり。泣きながら旦那さんに助けを求めたこともありました。それが今では、検査予約の電話はお手の物。どの検査はどこに電話をして、何を聞かれてどう答えるのかも把握できていますからね。病院に関する英語電話はなんなくこなせるくらいに強くなりました。なので、大きなデメリットかと思いましたが、英語電話の上達という結果でメリットに。

②英語&日本語で、ググる量は2倍
病気について検索することは一長一短。インターネット上の情報が必ずしも正しいとも限らないし、がんというものは本当に人それぞれのようで、ある人の体験談がそのまま自分にあてはまるとも限りません。
ということは承知した上で、私は何度も検索魔と化してきました。大きく理由は2つ。まず第一に、私は自分の体に起きていること、それに対する治療については知っておきたいタイプです。調べている過程でドツボにはまってドヨーンとすることも多々ありましたが、検索している自分に疲れるまで止められない。旦那さんからは「Are you digging a hole again? (また穴掘っているの?)」とよく言われたものです。地球の裏側に出ちゃうよ、なんてね。
理由2つ目は、アメリカでの診察に備えるため。診察はもちろん英語です。専門用語もたくさん出てきます。でも、予習をしておくと結構ついていけるものなんですよ。私の場合、日本語で調べた方が内容は理解できます。で、それを英語だとどうなるのかを調べていましたね。診察で出てきた知らない英語は書き留めて後で調べて、更に日本語で確認して、みたいな。
大まかな治療法は日本でもアメリカでも大体同じですが、薬の名前は違ってくることが多いので要チェック。そんな感じなので、調べる量は倍になるわけで、そりゃぁ穴も深くなるものですよ。結果的には乳がんについて、日本語だけでなく英語での知識も増えたので、これもメリットでしょう。

⓷通院治療が基本のアメリカスタイル
抗癌剤にしても放射線にしても、アメリカでは通院での治療が基本です。入院を希望すればそれも可能なようですが、医療費が高いのですからね。日本では抗癌剤初回は入院で様子を見て、大丈夫そうなら2回目からは通院で、というケースも多そうですが、アメリカではかなりまれなのではないでしょうか。家族や友達が車で送迎してくれることが多いので、アメリカでがんになって「車が必要だったら言ってね!」という言葉を何度もかけてもらいました。

通院なので、私は抗癌剤治療中も放射線治療中も仕事をしていました。念のため、職場には休んでも大丈夫なように「intermittent leave」を出していましたが、毎日が「治療」だけに染まらないことは、私にとっては大きかったです。抗癌剤の副作用があっても仕事をしている数時間は、多少なりとも気がまぎれます。あれで入院でもしていたら、副作用のつらさだけに集中してしまっていたのではないでしょうか。
「つらかったらいつでも帰っていいからね」「手伝おうか?」という理解ある仕事仲間がいて、「あなたがそうしたい、そうできると思うなら仕事もOK
よ」と言ってくれるドクターがいてこそ成り立ったものですが、私には向いていました。
やれるときにやる、やれるまで待つのではなく、やってみるからできる、やってみたらできた、というほうが私は好きなようです。

やるかやらないかは自分が判断する、とは言え、本当に無理なときはちゃんとドクターが判断してくれたのも事実。2度目の退院後にしても、手術後に回復が遅れていた時にしても「あと2週間休んでみるのはどう?」というドクターの言葉は、100%素直に聞き入れることができました。
始めは「アメリカの治療はスパルタだ」と思っていましたが、私の判断を尊重し、私の日常生活を維持させてくれたアメリカの治療スタイルは、私にとっては大きなメリットでした。

アメリカの医療従事者に感謝

アメリカでのここまでの乳がん治療、大変なことはありましたが、ありがたいことに嫌な思いをした記憶がありません。思い浮かぶのは、私に携わってくれたたくさんの医療従事者のみなさんの言葉や顔。

検査が終わって「君のためにお祈りをさせてほしい」と言って祈ってくれた検査技師のおじさん。

PET検査後に、何とも言えない表情で「がんばってね…」と声をかけてくれた技師のお姉さん。きっと肺が真っ赤に映っていて「転移している…」と思ったのでしょう。彼女の表情を見て私は「まずいかも…」と思ったものでした。

「たくさんのガン患者を診てきたけど、君は大丈夫な人だと思う。Just live your life!」と励ましてくれた2度目の肺生検をしてくれたドクター。

「ここまで大変だったよね。泣いたっていいのよ」と診察室で泣かせてくれた手術を執刀してくれたドクター。

抗癌剤最終日にハグして一緒に喜んでくれたナース。

「あなたの治療をできることを心から嬉しく思います」と電子カルテに書いてくれた放射線ドクター。

これまで大きな病気などしたことがなかったので、日本のそれと比べることはできませんが、私はアメリカで乳がんになり、アメリカで治療ができたことを、とてもラッキーだったと思っています。お世話になったドクターやナース、検査技師のみなさんへのこの感謝の気持ちは、どうやって返すことができるでしょう。
まずは私が元気で健康になること。そして、私の体験が、今闘っている誰かの「何か」になること。これからの日々、心に留めて生きていきたいと思います。

タイトル上写真の石について

最後にタイトル上の写真の石について説明しておきますね。
まず、写真全容はこちら。

これは、放射線治療が終わった時に、一番お世話になった技師のお姉さんから手渡されました。彼女の言葉をそのまま訳しますね。

これは放射線治療の修了証。私たちはRadiation Oncology Centerで略してROC。だから、治療を終えた人には記念で石(Rock)を渡しているの。あなたには「JOY」を選んだわ。本当にお疲れ様。ドクターのフォローアップで来たときには声かけてね!



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