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保育園の隣で10年。地域とともに歩むカフェ「まちの本とサンドイッチ」(六本木)


「食は広く人をつなぎ、本は深く人をつなぐ」という言葉のもと、保育園と地域をつなぐ中間領域として、地域に根ざし、地域の方がつながりあえるお店をめざしオープンした「まちの本とサンドイッチ」。通称、まちサンド。

2014年11月、まちの保育園 六本木(分園)の軒先ではじまったまちサンドは、昨年で10周年を迎えました。立ち上げ時から現在までお店に立ちつづけている、店長の原さんにお話しを伺います。

取材・文・編集:大和桂子
写真:大畑陽子

六本木一丁目駅と神谷町駅の間にある「まちの保育園 六本木」。
分園の入口隣に「まちの本とサンドイッチ」がある。

ーお店ができて丸10年。振り返ってみてどうですか?

正直に言うと、最初は不安でした。今でこそ、麻布台ヒルズができたり、海外の観光客の方も多いですが、当時、周囲は完全に住宅街。人通りもまばらで、この場所で本当にやっていけるのだろうか……と。でも、地域に住む方が、マンションの住民同士で噂を広めてくれたり、近隣のオフィス内で徐々に口コミが広がったり。“最近、紙袋を持っている人を見かけるけど、みんなどこで買ってきてるんだろう?”と。「謎の茶色い紙袋のお店」と呼ばれていたらしいです(笑)。

その後、やっと軌道に乗ったと思ったら、今度はコロナ禍で街から人がいなくなってしまって。でもそんな時だからこそ、お店の存在意義を改めて感じたし、開き続けることに使命感のような感覚もありました。多くの人に支えてもらって、ここまでやってこれたと本当に思います。

店長の原さん。当時を振り返りながら

ーまちの本とサンドイッチで働くことになったきっかけは?

もともと、こどもと関わることが好きで、キャリアのスタートは保育士でした。母が料理関係の仕事をしていたことも影響して、数年後、飲食業に転職。ハードに働いていましたが、自分が出産した年に東日本大震災を経験したことで、コミュニティの必要性を実感し、視点が変わりました。そのとき目にしたのが、まちの保育園の記事や、「まちの保育園 小竹向原」に併設するカフェ「まちのパーラー」の取り組みで、考え方にとても共感して。
応募時はコミュニティコーディネーター*志望だったのですが、さまざまなタイミングが重なり、(まちサンドの)店長としてお店の立ち上げから携わることになったんです。

*コミュニティコーディネーター・・・まちの保育園・こども園グループが各園・施設に独自で置いている役職。園とこども・地域・保護者・職員などを繋げたり、こどもを中心とした園のコミュニティをまちにひらき、耕していくための存在。

「パーラー江古田」のパンを使った、自家製サンドイッチ。日替わりの温かいスープも人気。

ー「まちの本とサンドイッチ」ってどんな場所だと思いますか?

保育園の子どもたち、保護者、職員はもちろん、地域に住む方、近隣のオフィスの方、みんなにとっての「あいだ」の場所というか。たとえば、園児にとっては保健室のような存在。朝、登園したものの、まだみんなと遊ぶ気分になれない……そんな様子を見て、保育室とお店の間の廊下にそっとイスを出しておくと、そこでひと息ついている姿があったり。ふと見るともう部屋に戻っているんだけど、焼菓子やスープのいい匂いがして、私が料理している気配を背中でなんとなく感じながら、気持ちを整理したり、スイッチを切り替えているのかな。

保護者の方とは、お迎え時、園に入る前にちょっと立ち寄って、コーヒーを飲みながらおしゃべりしたり。話が盛り上がって、そのまま買ったパンを置いて帰っちゃうなんてこともあるあるです(笑)。
仕事中の方は、「ちょっと外の空気を吸いに」「甘いものでひと息つきたくて」という声も多いので、ほっとできて、コーヒーに合うようなメニューを増やそうかな、とこちらも考えたりします。

ファンの多い「パーラー江古田」のパンたち(毎日12時ごろ入荷 *火曜のぞく)

ーこのお店ならではのエピソードを教えてください。

今は海外の大学に通っている初年度の卒園生が、夏休みに帰国したタイミングでお店に来てくれて。まちサンドのスコーンが好きで、「原さんとお菓子を作って店番したい」と言ってくれて、一緒にお店に立ちました。六本木という国際色豊かな土地柄か、日本を離れる子も多いけど、帰国するとふと、お店を思い出してくれるみたいです。
あるときは、小学生になった卒園生が、「通っていた保育園を描く」という学校の課題を見せに来てくれて、お店のことをたくさん描いていました。店員全員の名前まで(笑)。
保育園という場所が、「お母さんお父さんがパンを買ってくれた」「友達と一緒にお菓子を食べた」そんな記憶と結びついているんですね。食を通じた幸せなひとときに貢献できているのかな、と思ったりもします。園の軒先に、昔と変わらない同じ店と同じ人が今も居るというのは、立ち寄りやすい理由のひとつになっているのかもしれません。

他にも、店先でのこども服交換会や、園のこどもたちにケーキ作りを教えたり、地域の方にレモネードのワークショップをしたり、お店の常連さんが園で保育体験(!)したりなど……挙げるとキリがないですね!

ーこれから、どんな10年にしていきたいですか?

coしぶや(渋谷区神南ネウボラ子育て支援センター:まちの研究所運営、2021年オープン)内のコミュニティカフェ「coの食卓」の店長も兼務しているのですが、こちらは野菜たっぷりの定食が食べられて、赤ちゃんの泣き声やこどものイヤイヤが当たり前の、人目を気にする必要がない「おたがいさま」の空間です。
まちサンドだったり、coの食卓みたいな、誰かがほっとできる場所だったり、子育て中に気軽に行けるようなお店が、日本中にもっと増えたら嬉しいなと思います。そうすれば子育てしやすくなるし、子育てがもっと楽しくなるかも。大人がご機嫌でいられることが、こどものしあわせに繋がるといつも感じています。大人たちの安心や余裕、ちょっとした喜びが、こども達にも伝染していくなあって。

個人的な目標としては、10年後もここにいたいから、身体のメンテナンスは欠かさずに。はじめは自分ひとりのスタートでしたが、今では仲間がたくさんできました。これからも、共感してくれる人が集まってくれたら嬉しいし、続けるために、もっと広げてゆくために何ができるか考え続けたい。前向きに仕事ができるための環境づくりをしていきたいですね。
(インタビューおわり)

まちの本とサンドイッチ
東京都港区虎ノ門5丁目5-1 アークヒルズ仙石山テラス1F
(まちの保育園 六本木 分園 よこ)
営業時間/9:00〜17:00
定休日/土・日・祝
Instagram @machi_sandwich

本インタビューは、まちの保育園・こども園グループの季刊誌「まちのね (2025年・1月号)」に掲載したものを再編集しています。


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