NPO等による物件利活用の際のポイントは!?〜空き家に関わる事業者の視点から
「NPO法人等のソーシャルセクターが物件をどうすれば利活用していくことができるのか?そのポイントとは?」という観点から、若者支援者や ソーシャルな立場だけでなく、 不動産等の事業者の皆様たちの声をお聞きしようということから始まった対談企画。
今回はNPO法人山科醍醐こどものひろば 前理事長の村井 琢哉さんを進行役に、 鈴木 一輝さん(空き家バンク京都株式会社 代表取締役)、豊福 火水成さん(豊福行政書士事務所)をお招きし、まちとしごと総合研究所より三木が参加し対談動画を作成しました。
今回はディスカッションタイムを中心に編集したものをお届けいたします。
「NPO等による物件利活用の際のポイントは!?〜空き家に関わる事業者の視点から」の動画本編もぜひご覧ください。
登壇者のご紹介
村井:様々な子育てニーズや悩み、親子関係トラブルなどを聞く際にも、「物件を探すのが大変だった」記憶があります。今日は不動産、物件活用の可能性を探りつつ、物件との出会い方などお話ができたらいいかなと思っております。
Q,さっそくですが、2人のお話を聞きながら、最近私のところにもあるケースでは、「元々飲食をやっていた物件が未活用、何か子どものために使えませんか?」というご相談が不動産業者ではなくダイレクトにあります。お二人にはどのような相談ケースがあるのでしょうか?(村井)
豊福:私は活用したい方よりもどうにかしてほしいというお話が多いです。空き家を活用する際には、建築基準法や都市計画法などの法規制に注意が必要です。場所によっては想定外の制限があることもあり、計画が思い通りに進まないことも少なくありません。最近では、これらの法律が改正され、緩和措置や都市計画法の見直しが検討されています。地域住民の中には、空き家による二次被害や新しい建築物に対する懸念を持つ声も多くあります。空き家の所有者や新たに活用する人々と地域住民との調和、さらには町全体の将来像についての共有が重要だと感じています。「空き家問題はまちづくりの大きな議論」と考えています。
Q.休眠事業や若者支援では、様々な不安やリスク、トラブルを抱えた若者たちを支援することが少なからずあり、特に、不特定多数が出入りする可能性のある物件に関しては、地域住民の方々の懸念が予想されます。そのような際にはどう対応されていますか?(村井)
鈴木:弊社では空き家の活用として民泊運営もしていますが、住民のみなさんからの反対意見に直面したこともあります。しかし、これは私たちのアプローチ方法に問題があったと反省しています。町内会長や住民の方々にヒアリングを実施し、問題を聞いた上で解決策を提案し、サインを得た後に事業を進めるようにしました。このアプローチは、民泊だけでなく子ども食堂の運営にも応用しており、事前の説明と理解を得るコミュニケーションの重要性を実感しています。それが継続的な運営につながると考えています。
Q,NPO側に期待することや準備しておいてほしいことなどはありますか?(村井)
鈴木:NPOは自主的に、社会的貢献を目的として活動を始めており、その活動に対して一般からの同意を求めるべきでは、本来はないのではないかと思っています。相談から入り、説明をいただく機会を設けることは重要だと思います。NPOのみなさんには私達もサポートをしますが、覚悟や思いを全面に伝えていただきたいです。
豊福:なぜそんなに説明を住民側が求めるのかというと、これまで地域の声をあまり聞かない業者による事業を多く経験しており、地域住民にフラストレーションが溜まっており、正当な業者も批判の対象になってしまう状況があります。信頼関係の構築には、NPO側の熱意や行動が不可欠です。私達ばかりが前に出てしまうと、「当人はなにをしている?」と。なってしまいますので。
村井:NPOは使命感に駆られ、社会的な貢献や変革を目指す組織ですが、その強い思いや、「わかってもらえるだろう」という仮定に基づいた行動が、誤解や問題を引き起こす原因となっているケースもあります。また社会的な仕組みやルール、手続きの理解不足が、プロジェクトの進行に影響を与えるケースもあり、お二人のような理解ある事業者と手を組めるとチャレンジがしやすいですね。
鈴木:我々にとっても、NPOさんたちの活動や力が必要です。市場に出ている物件の多くが金銭的な動機で動いている一方で、金銭以外の価値に重点を置いて活用してほしいと考える人たちもいます。そのような方々にはNPOが提供する価値や活動を紹介し、空き家の新たな活用法を提案したいと思っています。それらをサポートする人たちが集えるといいと思います。
Q,子ども食堂をスタートされたような方々の活動がひろがるにつれ、緊急性の高いケースなど相談の質が変わってきているように思います。若者を避難させるための物件や、社会復帰のために住所が必要なケースなどがでてきています。NPOによる物件活用はますます進んでいくと思うのですが、京都ではNPOが活用できる物件はどう流通していくのでしょうか(村井)
豊福:空き家問題の根本にあるのは、「どうしようもない」空き家、つまり固定資産税の納税者が不明であったり、崩壊の危険があり近隣に迷惑をかけてしまっている物件です。これらの物件は改造や改装が困難であり、NPOなどによる活用がしにくいと思いますが、今回の空き家税の問題や登記義務化、空き家特別措置法の強化・改正などの政策により、市場にでてきていないNPO団体等が活用可能な物件が流通する可能性があります。
鈴木:不動産関係の事業者へのアプローチも重要なのですが、身近な周辺の方に「物件がほしい」という話をするとつながることがあります。毎日まちを歩き、空き家をみていますが、売買の看板が掲げられることも増えました。制度改正が売買の方向に促進していることを感じます。
Q,NPOが地域に密着して活動しており、その地域に適した物件や活動場所を求めることが多いですが、エリアを絞ると場所や条件に合った物件を見つけるのは難しくなります。限定的な条件で探す場合はどうするといいのでしょうか?(三木)
鈴木:まずは実際に現地に足を運び、郵便物の積み重なりなどの特徴からここは空き家なのではないか、という物件を探します。近隣の住民さんに話を聞いたりして持ち主を探します。直接お会いしに行ったり、遠方であれば思いを込めて手紙を書いたりします。これは我々もやっていることですが、同じ方法ができるのではないでしょうか。
豊福:高齢者福祉に関する団体さんとつながることも一案です。空き家問題はその予備群となる高齢者の住まいの問題です。福祉関係者は個人情報保護の観点からの難しさもありますが、身近な情報を持っています。高齢者福祉の問題は空き家になれば地域の問題になります。これらの領域が連携することは重要です。
Q,お二人が主に活動しているエリアではない所のケースでも相談にのっていただくことはできるのでしょうか。(村井)
鈴木:もちろん、相談いただければ嬉しいです。自分自身で直接問題を解決できなかったとしても、それは問題ではないと考えています。私たちのネットワークを通じて問題に対応できることがあります。
豊福:相続手続きを進める中で「空き家問題だな」と気づかない行政書士や司法書士がいます。「こんな手続きしたら、後が大変だろう」という物件もあります。不動産が絡むと事態は一層複雑になります。そういう状況に対応できるのは誰にでもできるわけではありません。僕が直接対応できないものでも、必ず対応できる人の繋がりはありますから、ぜひ相談してください。
三木:居住支援については、今、高齢者を中心に展開されているのが主流ですが、実は若い世代に向けた動きも出てきています。不動産業者や企業、オーナー、NPOなどとのネットワークが非常に重要になってくるでしょう。特に、若い世代に対して物件を提供したいと考えている人々の動きがこれから出てくると思います。
村井:ネットワークと言うと、今までは不動産業界は不動産業界、NPOはNPO、子ども支援は子ども支援団体という風に、それぞれ別々の分野で動いていました。実際には、これら異なる分野のコラボレーションが必要ですね。今日のディスカッションを通じて、業者を中心に物件を探す方法が悪いわけではないですが、人と人との繋がりを大切にすることで、もっと早く、より自分たちが求める物件を見つけることができるかもしれません。また、若者やその地域で生活する人々の背景も考慮に入れ、周囲の理解を得ながらひとつの方向にみんなで向かうようなアプローチが必要だと感じます。物件探しは、ただ単に「箱」を探しているわけではないという認識を持つことが重要ですね。