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みどころは《窓辺で手紙を読む女》だけじゃありません!【フェルメールと17世紀オランダ絵画展〜解釈編〜】

はじめまして。町田てるよしと申します。

先日、フェルメールと17世紀オランダ絵画展(東京都美術館@上野)に訪れました。(開催期間:2022 2.10〜4.3)
修復後のフェルメール《窓辺で手紙を読む女》が来日するので、皆さんも注目されているに違いありません。

しかし、《窓辺で手紙を読む女》だけをお目当てにしてませんか?

実はこの展示会、《窓辺で手紙を読む女》以外もめちゃくちゃ楽しめるんです!

この解釈編は私なりの楽しみ方を紹介します。
すでに本展へ行かれた方とは思い出を共有し、これから行かれる方には参考としていただければ幸いです!

もくじ

  1. みどころは《窓辺で手紙を読む女》だけじゃありません!

  2. ネーデルラントの歴史を振り返る

  3. 17世紀オランダの絵画

  4. 改めてフェルメールを観る

  5. まとめ

1. みどころは《窓辺で手紙を読む女》だけじゃありません!

既にフェルメールという画家の偉大さは周知ですから、きっと皆さんも《窓辺で手紙を読む女》を目当てに本展へ行かれることです。私もそうでした。

しかし、本展で展示されるフェルメール作品は《窓辺で手紙を読む女》ひとつのみ。
フェルメールだけを目当てにすると少しがっかりです。(正直に申し上げると《窓辺で手紙を読む女》だけでも十分に元を取れますが。笑)

本展のみどころはフェルメールだけではないのです。それでは何なのか?

本展のみどころをズバリ!申し上げましょう。
17世紀、栄華を築いたネーデルラントに思いを馳せる!

本展のみどころは展示会タイトルにもあるように17世紀のネーデルラント(オランダ)そのものにあります。歴史を知り、当時のネーデルラント絵画に思いを馳せることで、本展全体が体系的に面白く感じるようになってます。
その上でフェルメール《窓辺で手紙を読む女》を鑑賞すると、その解釈も見方も変わってくると思います。

紐解く為には、まず最初に歴史の理解が欠かせません。

2. ネーデルラントの歴史を振り返る

16世紀、ネーデルラントは元々スペイン(ハプスブルク家)の領地でした。
スペインは大帝国を築いており、当時の覇権を握っておりました。

同時に16世紀はルターをはじめとして、宗教改革が起こった時代でもあります。カトリックに対抗する新教徒(プロテスタント)が生まれました。
ネーデルラントでもプロテスタントの一つであるカルヴァン派が広まります。その為、カトリックであるスペイン王フェリペ2世はプロテスタントを弾圧しました。
それがきっかけとなり、ネーデルラント(プロテスタント)VS スペイン(カトリック)の「八十年戦争」が始まるわけです。1568年に始まったこの戦争は17世紀半ばまで続きます。

1581年にネーデルラント(プロテスタント)側はスペインからの事実上の独立を果たします。

独立後、ネーデルラントは発展の快進撃を始めました。
戦争が有利になり、世界の覇権をスペインから取って代わることができたのです。
まさしく17世紀はネーデルラントの黄金期と言えます!

まずアジアに進出し貿易に取り掛かります。世界貿易の3分の1をネーデルラント商人が扱っておりました。
加えてエネルギー産出でも他国を凌ぎました。オランダと言えば、風車を思い浮かべる人も多いでしょう。風車を使って機械化・工業化を進めていきました。
極めつけに現在の首都アムステルダムは金融都市としても発展していきます。前述のアジア貿易には多大なコストが掛かる為、銀行業や証券業・保険業が生まれました。
つまり、当時のネーデルラントには富が集まり、商業で財を成す人が非常に多かったわけですね。

まとめるとポイントは2つ
①カトリックに対する反動としてのプロテスタント国家であった。
②金持ちの商人がたくさんいた。


これらの条件によって、17世紀のネーデルラント(オランダ)絵画が花開きます。

3. 17世紀オランダの絵画

一般的に17世紀の西洋美術は、バロック期へと移り変わります。
ルネサンス期を経て「奥行き」を手に入れた西洋絵画でしたが、バロック期には躍動感があり、写実的な絵画が増えました。
しかし、オランダ(ネーデルラント)ではさらに独自の方向へと向かいます。前項で述べた2つのポイントが「鍵」です。

①カトリックに対する反動としてのプロテスタント国家であった。

オランダはプロテスタントの国です。
プロテスタントには諸宗派ありますのでカッチリと定義をすることは難しいですが、大きな特徴として「偶像崇拝を行わない」ことがございます。
つまりルネサンス期に多く描かれた聖母マリア像をはじめとする宗教画は、オランダにおいては描かれることが少なくなりました。
その反動として、風俗画や風景画が多く描かれることになります。

フェルメールは35もしくは36の作品を残したとされますが、2つの風景画を除いて多くが風俗画でありました。本展にて展示された《窓辺で手紙を読む女》も風俗画のひとつです。

②金持ちの商人がたくさんいた。

当時のオランダは世界中から富が集まり、そこで財を為したお金持ちの商人がたくさんおりました。
彼らの財力が17世紀オランダ絵画の発展を後押しするわけですが、一方で自らの財力を誇示するために画家へ肖像画や静物画の注文を多く出すようになりました。
レンブラントの代表作《夜警》も集団肖像画と呼ばれる肖像画のひとつです。

さて、このような背景により17世紀オランダでは風俗画・風景画・肖像画・静物画が描かれるようになりました。画家たちは現実世界に即していく、つまり写実主義(リアリズム)へと向かうわけです。

本展も肖像画→《窓辺で手紙を読む女》→静物画→風景画・風俗画の順で展示されてます。
17世紀オランダ絵画の潮流をひとまとめに鑑賞できるわけですね!

写実主義を技術的に推し進めたのは言うまでもなくレンブラントです。
本展でもレンブラント《若きサスキアの肖像》がご覧いただけます。(サスキアは彼の妻です。)
彼の絵画の大きな特徴は「陰影」です。光の魔術師と呼ばれ、非常に繊細な陰影を描きました。《若きサスキアの肖像》でも中央のサスキアの表情が光に強調される一方で、胸下や帽子の裏側は暗い影が印象的です。

実は、この「陰影」はフェルメール《窓辺で手紙を読む女》を観る上でもとても重要です。

4. 改めてフェルメールを観る

改めてフェルメール《窓辺で手紙を読む女》を観たいと思います。
とその前に、簡単にフェルメールの生い立ちを紹介していきましょう。

フェルメールは1632年にデルフトという町で宿屋の息子として生まれました。画家だけではなく宿屋や画商なども営んでおりました。
彼はカタリーナというカトリックの女性と結婚をしました。彼女の家は非常に裕福でフェルメールは活動初期において支援を受けることができました。

フェルメールの作品は、部屋の外から中を覗いているような構図で描かれた絵画が多いです。《窓辺で手紙を読む女》もそのひとつです。
(是非、他の作品も検索して観てみてください。)
左側に窓が配置され、手前のカーテンが部屋の外と中との光量の差を表現しています。
女性が光の差し込む窓辺で手紙を読むことで、「陰影」を強調する表現技法がふんだんに活かされることに気づきます。

17世紀オランダ絵画の特徴は写実主義。その手法として「陰影」を強調する技法がレンブラントを中心に生み出されたことは紹介しました。
フェルメールもこの系譜を辿り、まるで「写真で撮ったんじゃないの!?」と思えるほど写実主義をさらに推し進めました。

また彼は宿屋を営んでいたこともあり、作品間において「これ同じ部屋かな?」と思わせる構図を多用します。例えば市松模様の床が多用されたり、カーテン(布)越しの構図が複数の作品で見ることができます。

加えて画商もしていた為、彼の所有する絵が「画中画」として度々出現します。この「画中画」もいくつかの作品で多用されます。

今回の《窓辺で手紙を読む女》修復によって姿を現したキューピッドの「画中画」はまさしく他の作品でも見ることができます。キューピッドは《窓辺で手紙を読む女》を含めてなんと4作品で描かれてます。

さて、皆さんはここで大事なことに気づかれたと思います。

「あれ?キューピッドって宗教画だよね?」

そうです。先述の通り、プロテスタントの多いオランダでは宗教画はあまり描かれませんでした。ともすれば、画中画と言えどキューピッドがいるのおかしいですよね。
しかし、本展の再注目ポイントは修復されたキューピッドです。

なんとフェルメールは結婚を機にプロテスタントからカトリックへ改宗をしておりました!
(妻カタリーナはカトリックです。)

あくまで私の考察ではありますが、カトリックに改宗したフェルメールにとって宗教画を描くことはあまり抵抗がなかったのでしょう。
実は彼の初期作品にはいくつかの宗教画が描かれております。

フェルメールはオランダ絵画の黄金時代を築いた人物でありながら、プロテスタントではなくカトリックだったわけです。

後年《窓辺で手紙を読む女》の絵からキューピッドの画中画が上塗りされたのは、もしかすると
「キューピッドが描かれているとプロテスタントの客に売れなくなっちゃう!」とか
「17世紀オランダを代表する画家がカトリックだったなんて、評価を下げてしまうんじゃない?」みたいな宗教的な理由があるかもしれませんね。

信じるか信じないかはアナタ次第です!笑

5. まとめ

17世紀、栄華を築いたネーデルラントに思いを馳せる!

歴史を知るだけで、作品たちの見え方が変わってこないでしょうか?
フェルメール《窓辺で手紙を読む女》に現れたキューピッドにも特殊な事情があって、ミステリアスな印象が深まりますね。

補足ですが、
17世紀のネーデルラント(オランダ)は鎖国中の日本と貿易をしていた唯一の国でした。
日本産の金銀が世界で流通するのも、オランダ人貿易商の活躍があったからです。(17世紀、世界最大の金産出量を誇った佐渡金山が世界遺産への登録申請をされましたね!)

本展に展示される絵画には、貿易で集められた被服や調度品、フルーツ、エキゾチックな花々がふんだんに描かれております。
大航海時代以降に世界がひとつになっていく、そんな歴史のダイナミックさも感じることができます!

今回はネーデルラント(オランダ)絵画をじっくりと楽しむための私なりの解釈を紹介いたしました。
是非みなさんにも、フェルメール《窓辺で手紙を読む女》を含めて全ての作品もたっぷり楽しんでいただきたいです。

お付き合いいただき、ありがとうございました!
※個人の感想編は改めて、寄稿したいと思います。

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