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藤沢市の公立中学校ではなぜ給食費が無償化されないのか?

無償化子ども支援策は全ての自治体で実施できるのか

2022年6月7日、兵庫県明石市の泉市長が参議院内閣委員会に「こども家庭庁」に関する参考人として呼ばれ、子ども支援政策の必要性について熱弁を振るったことが話題となった。

明石市は、所得制限なしの「5つの無料化(下記)」を実施し、人口増・税収増・出生率増を実現している。
(1)高校3年生までの医療無料
(2)第2子以降の保育料の完全無料化
(3)1歳までおむつやミルクや子育て用品を毎月配送
(4)中学校の給食費無料化
(5)プールや博物館など公共施設の入場料無料化

実際に明石市では効果が出ており、SNSでは泉市長の発言に礼賛の声が上がった。
私も子どもへの積極的な投資には賛成であり、政府には明石市の政策を参考に子ども支援政策を進めていただきたいと思う。

しかし、このような「◯◯無償化政策」を全国の地方自治体で同様に実施することについて、非常に懐疑的である。
もっと言うと、「◯◯無償化」のような耳あたりの良い公約を地方自治に持ち込む政治家には目を光らせる必要がある。と主張したい。

なぜそのようなことを言わなければいけないのか。
それは「地方交付税」やふるさと納税をはじめとする「地方税制」に問題があるからである。

本稿では、私の住む藤沢市を引き合いに上記の問題点をお伝えしたい。

藤沢市の公立中学校ではなぜ給食費が無償化されないのか?

今回の問題提起の発端は、藤沢市在住で小学生のお子さまがいる保護者の方から質問を受けたことにある。

「藤沢市の公立中学校ではどうして給食費が無償化されないんですか?」

給食費の無償化はいくつかの自治体で実施されており、藤沢市でも無償化して欲しいという声が出るのは当然のことである。
私も「どうしてだろうか」と疑問を持ったため、調べることにした。

自己紹介

私は昨年末に会社を退職し、神奈川県議会議員・松長 泰幸先生のお取り計らいで林英臣政經塾に通う無職である。
政治塾に通塾する傍ら、地元藤沢市の皆さまのお悩みや相談を聞いて回っている。
要は政治家志望ということである。

活動の内容は各種SNSなどで公表している為、興味を持っていただけたら是非ご覧いただきたい。(リンクはページ最下部に記載)

藤沢市、そして日本の発展に寄与したいとの思いからこの活動をしている。

藤沢市の皆さまから頂いた様々なご相談やご意見に対して、
「どんな対応が取れるのか?」
「自分はその意見に賛成できるか?反対か?」
「そのアイデアを実現するには何が必要か?」
と、市政について考える日々である。

さて、そんな中で浮上した「藤沢市の公立中学校ではどうして給食費が無償化されないのか?」という問題について考えていきたい。

藤沢市の中学校給食

まず手始めに現在の公立中学校の給食について調べてみた。

実は、私はお隣り鎌倉市にある私立鎌倉学園中等部を卒業している。
鎌倉学園はお弁当持参であり、そもそも給食ではなかった。
ましてや藤沢市の公立中学校となると実情を全く知らなかった。

そこで藤沢市のホームページを見てみると、

中学校の昼食は「デリバリー方式の給食」と持参弁当を選択できます
となっている。

藤沢市の公立中学校は給食ではなく、お弁当を注文するか持参するタイプの学校だったわけだ。
ちなみに神奈川県下では横浜市、海老名市、鎌倉市、逗子市、座間市、伊勢原市でも同様のデリバリー方式の給食が採用されている。

続いてホームページには、中学校給食の経過について記載があった。

藤沢市の給食は、1964年4月に中学校でミルク給食(牛乳のみの提供)が開始された。
1976年4月までに完全給食の導入が7校まで進められた。(当時市立中学校は13校)

転換を迎えたのは1979年。
中学校の給食の在り方について検討がなされ、その結果として、中学校の完全給食は中止となった。

その後、家庭からの弁当持参以外の昼食の提供を望む声に応えるため、中学校での弁当販売を開始する。
そして2011年から、再度の中学校給食に関する議論が開始された。

生徒・保護者および教職員へアンケート調査を実施し、その結果として、デリバリー方式の給食と家庭からの弁当持参の選択制による中学校給食が採用された。

藤沢市においてはお弁当を持っていきたいというニーズがあり、その結果として現在の方法が採択されたわけである。(アレルギーやボリュームの心配があったり、お弁当を通じたコミュニケーションを重視する家庭が多かった。)

実際にデリバリー給食の利用率(喫食率)を見てみると30%前後を推移しており、「お弁当持参」を選択する家庭が多い。

また現行の制度から、完全給食へ移行をするとなるとその導入費用は80億円程かかる試算である。

当事者のニーズや予算を勘案すると、やっぱり現行の制度を維持する方が良いと思う。(藤沢市議会も同様の結論付けをしている。)

給食費の無償化について考える。

こうした状況把握の上で給食費の無償化について考えたいが、そもそも同じメニューを食べてないのだから公平性のある無償化案が見当たらない。

「全員デリバリー給食にして全員無償化すればいいじゃないか」という意見もあるかと思う。

しかしデリバリー給食は利用率が30数%から40%程度の見込みで予算取りがされており、いずれにせよ追加の予算が必要になってしまう。

なによりお弁当持参を望む保護者が多いわけだから、市民ニーズとマッチしない。

今回ご相談を頂いた方には本当に申し訳ないが、藤沢市において中学校の給食費を無償化することは、なんともハードルが高い。

しかし、だからといって肩を落として欲しくないのが政治家志望としての心持ちだ。

もし市内の中学生全員分の昼食代を賄える予算があれば、別の方法で還元すれば良いのである。
その際は先述のような80億円の追加費用なしに、各家庭に同じ便益を受けてもらえる。

どうして他市では無償化が出来ているのか?

それでは、なぜ他市では子育て支援を目的とした財源の捻出が出来ているのか?という疑問が発生する。

明石市をはじめとするいくつかの自治体で様々な無償化が実現できているわけだから、藤沢市だってそれくらいの余力はあるだろう、と思いたい。

手始めに総務省が公表している市町村ごとの財政力指数(令和2年度)を見てみた。

財政力指数とは、国が算定する基準財政収入額を基準財政需要額で除して得た数値の過去3年間の平均値とのこと。

藤沢市の財政力指数は1.08で、収入が需要を上回っている。健全と言える。
ちなみに鎌倉市も1.09で同様に収入が需要を上回っている。

一方で、全国的に子ども支援政策の成功自治体として報道されている明石市は0.78だった。
コロナ対応として臨時的に中学校給食費を無償化している大阪市は0.94で1.00を下回っている。(1.00を下回る=需要が収入を上回っている)

ん?
藤沢市より財政力が乏しい自治体で無償化政策が実施されている?

というか、そもそも財源が足りない自治体で無償化政策が実施されているわけだ。

「よかった。よかった。なおさら藤沢市でいろんな支援策が打てるじゃないか。」と思いたいところである。
しかしそれは楽観的すぎる考えだった。その理由については後ほど述べていきたい。

では、明石市や大阪市はそもそも財源が足りないのにどうやって実現しているのだろうか。

それを可能にしているのが、地方交付税だ。

地方交付税とは、国が地方に代わって徴収する地方税(地方の固有財源)であり、地方公共団体間の財源の不均衡を調整し、どの地域に住む住民にも一定の行政サービスができるよう財源を保障するため、地方公共団体の財政状況を考慮して配分されている。

実はこの地方交付税だが、日本で1,711の自治体が受けている。
令和3年度の不交付団体(受けてない自治体)はたった54団体に過ぎなかった。

地方交付税の算出方法は下記の通りだ。
各団体の普通交付税額 = (基準財政需要額 - 基準財政収入額)
= 財源不足額

地方交付税を受けることが出来るか出来ないかというのは、簡単に言えば先述の財政力指数が1.00を下回っているかどうかである。

もちろん藤沢市は不交付団体である。
神奈川県は鎌倉市、厚木市、寒川町、箱根町が不交付団体にあたる。
皆さまのお住まいの自治体が不交付団体か否かは、是非お調べいただきたい。

繰り返しになるが、
地方交付税は地方公共団体間の財源を調整するために、国が徴収した地方税(地方の固有財源)を分配する仕組みだ。
それはどの地域に住む人でも一定の住民サービスを受けれるようにするためである。

ここで(誤解を恐れずに発言する)、
「給食費の無償化は他市からすれば一定以上の住民サービスに当たらないか?」という疑問が発生する。

もちろん人によっては「義務教育なのだから給食費だって行政が肩代わりすればいい」という意見をお持ちの方もいると思う。
しかしそれであれば、全国一律で国庫支出金から出すのが妥当である。

地方交付税の交付団体が無償化政策をすることへのモヤモヤ感は依然として残る。

他方で(誤解を恐れずに発言すると)、私は明石市の取り組みを評価をしている。
子ども支援政策を実施して、人口が増え、税収が増え、結果として不交付団体入りすれば政策は大成功であるからだ。

しかし同様の政策が日本全国で成功するとは思えない。

なぜなら明石市は、他自治体からの流入者で人口が増えているからだ。

増えたと言われる出生率も人口置換水準には達しておらず、今後の成果を期待する必要がある。

全国で無償化政策を競い合ってしまえば、子ども支援以外の行政サービスで質が低下する恐れがある。
実際に明石市は市営住宅や下水道、土木費の予算を大幅に削減して財源確保をしている。

もし競争に参加した結果、財政のやりくりが出来ず、歳入が減少する自治体が出てきたらどうなるだろうか。
その減収分については、地方交付税で補われるのだ。

地方交付税は日本全国の地方税を分配しているわけだから、要は税金で賄われるのである。

ここに無用な人口奪い合いの結末として、国民全体の税負担が増してしまう懸念が生まれる。

そして、最も割りを食うのは減収をしても地方交付税で補償を受けることができない不交付団体である。

不交付団体は不利益を被るだけの、税負担耐久レースに参加させられるのだ。

それでは、なぜ藤沢市をはじめとする不交付団体は同様の子ども支援策を機動的に実施できないのか。不交付団体ならではの苦悩をお話ししたい。

地方交付税 不交付団体の不利益

国の政策には、臨時交付金対応等の事業を一般財源化し、さらにそれを交付税措置とするものがある。

砕いて説明すると、
「初年度は臨時交付金で事業を始めてもらいますが、次年度移行は交付税措置で進めてください。なので不交付団体については次年度移行、自主財源で継続をお願いします。」ということだ。

一般財源化をする理由は地方自治の自主性を尊重するためであるが、不交付団体にとってはシンプル負担増なのだ。

2019年10月にスタートした「幼児教育・保育の無償化」の財源負担は、国が1/2・都道府県が1/4・市町村が1/4となっている。(初年度は全額国庫負担)

もちろん財源の議論は行われ、同年の消費増税分が財源に充てられる事業であった。(そもそも地方消費税の増税分を国が勝手に使途を定めるのは、地方自治の自立を妨げている気がする。)

しかし景気影響をモロに受けるような市民税を財源としている藤沢市にとって、景気後退期の事業継続への不安は拭えない。

実際に藤沢市における令和2年度の市税歳入が818億円7,300万円であるのに対して、令和3年度は778億7,900万円と減収しており、コロナによる景気悪化の影響を受けている。

そもそも財源が足りない自治体は地方交付税で補われるので心配がないが、不交付団体は景気影響を気にしながら財政運営をしなければならない。

地方の自主性を尊重するための制度が結果として地方の負担を増やしている制度となっているのだ。

ふるさと納税も不交付団体の負担を増やす制度となっている。
ふるさと納税で増収した自治体の記事は目にしても、減収した自治体についてはあまり知らないだろう。

実はふるさと納税によって税が流出した自治体は、減収額の75%を地方交付税で補償される仕組みとなっている。

その一方、不交付団体は減収分を補償されない。
不交付団体から流出した税収はそのままダイレクトに財政に影響を与えるのだ。

「だったら返礼品に力を入れて、減収しないよう努力すればいい」と意見する人もいるだろうが、そもそも自治体間の財源不均衡は地方交付税で是正するんじゃなかったのか。

藤沢市は令和2年度に10億7,400万円がふるさと納税によって流出している。
自主財源で財政運営をする不交付団体にとって、ふるさと納税は全くメリットがない。

もしアナタが不交付団体に住んでいるようなら、ふるさと納税について考え直してほしい。
率直に申し上げて、自分自身が受ける行政サービスを自らの手で低下させる仕組みなのだ。

ちなみに、ふるさと納税で増収した場合、その増収分は普通交付税算出における基準財政収入額に算入されない。
寄附を受けた全額が収入増となり、増収によって地方交付税が減らされることはない。

ふるさと納税とは、なんてアンバランスな制度なのだろうか。

地方交付税制度は改革されるべし

結論、私が何を言いたいのかというと、

①「自治体間の人口奪い合い」を助長する無償化政策は、勝てば官軍だが、負けた自治体も地方交付税で減収分を補償されるので、真の敗者は税負担をする国民である。

②地方交付税を受けない不交付団体は減収分の補償も受けれないので、さらに負担を強いられることになる。

③問題の所在は、このような状態を容認する地方交付税制度である。自治体同士の財源不均衡を是正するために、基準財政需要学の算定方法や交付税措置とする制度設計の見直しをしていただきたい。

さらに言えば、(地方自治における)聞こえの良い政策は国家全体にとっても良い効果を生むのか?と懐疑的になる必要があると思う。

本当に必要とされる子ども支援策であれば、教育国債を発行するなり、普通交付税の算定を見直すなりして財源を確保して、国庫支出金で実施するのが妥当であろう。

せめて健全な財政運営を行なっている自治体の足を引っ張らないような制度改革を進めてほしい。

自治体経営の心構え

「自分の関わる自治体が良ければそれでいいんだ」という姿勢の自治体経営では、結果として地方公共団体が目的とする住民の福祉の増進に背く。

将来、国家全体の税収が減ってしまったり、それによって国民の税負担が増すような結果を生めば、最終的には当該自治体にも影響が波及するからだ。

私は政治家志望である以上、藤沢市だけでなく国家全体が良い方向へと進む筋道を立てていきたい。

そのためにも、地方自治に参加しながら、地方交付税制度の改革も主張していこう。

ちなみに、藤沢市は無償化政策をしなくても転入者によって人口が増えている都市である。
また子どもの人口も、58,000人前後で維持ができている。(2020年〜2022年)

本稿で批判したような、国民の税負担を招きかねない人口争奪戦を仕掛けているわけでない。

もちろん自然豊かな居住環境があり、都心へのアクセスも良いので、その立地的条件が追い風となっているわけだが、
それ以上に健全な自治体経営を進めてきた藤沢市や市議会のたぐいまれなる努力の結果だ。

藤沢市民の皆さまには、藤沢市に住むことを選んだ誇りを持って頂けたら幸いだ。
私もこれまでの藤沢市の財政運営に心から感謝したい。

参照

基礎から学ぶ入門地方自治法 松村 亨著 発行:ぎょうせい
市町村議員のためのよくわかる地方交付税 発行:中央文化社
「ふるさと納税」「原発・大学誘致」で地方は再生できるのか 高寄 昇三著 発行:公人の友社
藤沢市HP
藤沢市議会 議事録
総務省HP 令和2年度地方公共団体の主要財政指標一覧
内閣府HP 幼児教育・保育の無償化について
「お金がないときこそ、子どもに金を使えば…」明石市長が国会で訴え、SNSで「泣きそう」と話題に。その“子ども支援策”とは BuzzFeed Japan/籏智 広太

リンク集

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