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ドレスコーズ”戀愛遊行”に行ってきた話

早速だが私は今日、勤めている会社から給料を止められた。
明日辞めるはずの会社からラスト給料を止められたのだ。
”僕は君のダメな天使 羽もないし金もないし”と云うその主人公はきっと私より金はあると思う。

そんな嘘みたいな本当の話で私は今日の午前中にびっくりするほど落ち込んで”今日好きなバンドのライブがある人間の顔”というのが全く出来なかったのである。

なんなら夕方16:40まで不貞寝をしていた。
もう会場では大勢のファンが物販を買って今かいまかとライブを待っているというのに。

恐らく。
今日この日を待ち望んでいたファンは男性も女性も「ちょっといい格好」をして「非現実」を楽しむものなんだと思うが私は起きて歯を磨き服を着替えてもう家を出た。
なんなら無給のシコリが電車の中で見え隠れしていて
「会社"ラストナイト"にラスト給料なしって・・・とほほ・・・。」とやはり肩を落として向かった。

川崎にありますはCLUB CITTA
会場付近にはたくさんのお洒落な格好をしたファンが集まっていて
なんというか「うぐ・・・うぐぐ・・・」と自分に対する劣等感という発作が出てきそうにもなったが不貞寝していた自分が明らかに悪いのでどうにか押さえ付けてCITTA内に入った。

約45分間の沈黙。
周りの方はスマホを触ったり、恋人や友人と談笑したり。
そんな中、私は45分間の沈黙を貫いた。
コインロッカーにスマホを置いてきてしまったのだ。

中には書籍を読んで待っている方も居て「お洒落すぎてお洒落」と思ったりした。
45分間の沈黙は今行われているワールドカップの前半と同じ時間だ。
この時間の沈黙は相当きつい。
日本チャチャチャ!を誰かと出来ない人間の気持ちがお前にわかるか!!!
わっかんねーだろうな!!!!!!!

そんなこんなで暗転。
メンバーの皆々様が登場し”ナイトクロールライダー”が始まる。
ラジオで竹中直人さんが「タイトルがいいね!」と言っていた曲で私も大変そう思う。
ビートさとしさんのスネアの音がめっちゃ良くてあのスネアに貼ってある機材どうなってんすか?とめっちゃ思った。

志磨さんのシルエットがあまりに美しく「もう逆に顔見えなくていいや!いや、見たいけど」みたいな気持ちになっていたら一気に”聖者”となりメンバーの顔が見えた瞬間に周りの女の子が一斉に黄色い声を上げた。

ロックンロールとは女の子がキャーキャー言って男の子が黙って拳を上げればいいのだ。

続け様に”惡い男”
今回の”戀愛大全”で私が一番好きな曲だ。
「僕にも流れるこの血は重ねた嘘の色」という歌詞でもうダメだった。
真っ赤な嘘という言葉は「血の色」だったのだ。その「赤」だったのだ。

志磨さんはとてつもなく惡い男だと思うし、
これだけの人間をいとも簡単に振り回せられる”才能”がもう”詐欺”のそれだ。
いい意味で。マジでいい意味で。
このアルバムはコンセプトアルバムに近いものだと思うがこの曲だけはどうしても”志磨遼平の歌”に聞こえてしまうのだ。

そして、”ぼくのコリーダ”
ギターの田代さんと志磨さんの二人で始まるのが印象的で
なんというか”悪い男”の恋人は”コリーダ”なんじゃないの?って思ってしまう。
縦横無尽にステージを大きく使い動く志磨さんの一挙手一投足にだんだんとお客さんも声を出し始める。
曲が終わり拍手だけの中「かっこよすぎ!!!!!」とめちゃめちゃ大きい声で叫んでしまい周りのカップルに笑われてしまう。
仕方ないじゃん。かっこいいんだもの。

志磨さんは
「悲しい恋人も幸せな恋人もこれから先全てがうまくいきますように祈りながら歌います」と言って”みずいろ”を披露。
これは以前のライブで竹中直人さんが歌っていて曲の見方が変わったのだけれど、そこからまた更に曲のイメージが変わった。
志磨さんが異常に麗しく妖艶で令和の時代に別の時代へと一気にトリップしたかのような。そんな感覚に陥った。と思ったら転調し出して”紙の月”へと変化を遂げた。
寺山修司さんの音楽劇”海王星”の曲をここで投げ入れるとは思っていなく
猛夫と魔子の二人の悲恋をまた思い出した。

北海岸ホテルに滞在していた我々の頭上にめっちゃ綺麗な月が見え始め
”MAYBE”のイントロが流れ始める。
右斜め前に居た男性が祈るかのような素振りを見せてこの曲に対して思い入れがあるのを知る。
1曲1曲が誰かの思い入れがある曲なんだと。当たり前な話かもしれないが
再確認した。
「みんなが僕をメイビー。忘れてしまってもメイビー。
君だけは僕をどうぞ忘れないでね。」
なんというか変わり続けるバンドは同時に好き嫌いが別れるバンドとも言える。(これは当たり前のそれではない)
「ドレスコーズ変わっちまったな」が常にあるバンドなのだ。
忘れていく人間もたくさん居ると思うし、逆に好きになる人間もそれと同時にいる。
そんな志磨遼平が今この曲を歌うことがどれほどの意味を持つか。
あの祈りを捧げた男性はどう感じただろうか。
今、それが知りたい。

そして、MCを挾み”ラストナイト”
やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!
俺は無給!!!!会社ラストナイトに無給!!!!!!!!!
思い出させるなドレスコーズ!!!!!お前!!!!!!!!!!!
チャイナタウンに一気に我々を連れて行きステージとフロアの境界線なんて無いものとし、我々は汗だくで踊り出す。
老若男女全員が各々の踊り方で踊る。正しくそれは今まで禁止されていたこと。
世の中の新ルールになっていたこと。それを今、とてつもない数の人間が破り出した。
それは「とてもいけないこと」であり「とても気持ちいいこと」なのだ。

拍手と歓声が響く中、ここでまさかの”すてきなモリ夫”
毛皮のマリーズ時代のベーシスト栗本ヒロコさんがメインボーカルを務める
”すてきなモリー”の志磨さんボーカル版だった。
観客は我慢できずに「らんらんモリー!」と叫ぶ。
ベースの有島コレスケさんは裏声の美しい声でコーラスをし、右手を上げながら煽り踊っていた。
”あの頃のライブ”が少しづつ戻ってきたように思えて仕方がなかった。

キーボードの中村圭作さんの演奏が響きそれに足し算していくように
各々の楽器が混ざりだす。
”エロイーズ”のイントロが始まり後ろから「きゃー!」と声がする。
この曲もきっと誰かの想いが詰まった曲なのだと思った。
「なんだ恋だった」こんな歌詞今まであっただろうか。
志磨さんの言葉の使い方は本当に品とユーモアに溢れていて
時々「ドキッ」としてしまうのだ。
エロイーズが終わり、”Mary Lou”が始まる。
「メリールーどうすれば君だけのために生きていけるの
本気だよメリールー」と歌う志磨さんは座り込みメリールーを大事そうに抱き抱えてそこを動かなかった。
誰かのために生きたいと思うほどに恋や愛なんかは人を狂わせる。
それは狂気であり、時に安らぎでもある。
恋や愛の全てをこの一瞬で、その動作で私は再び感じることができたのだ。

MCを終えて”やりすぎた天使”が始まる。
季節はすっかり冬になり、街にはイルミネーションが輝き始める中。
川崎のCLUB CITTAはまた夏に戻される。
私たちが体験したこの数年の夏とはかけ離れた曲にギャップと理想と懐かしみを思い拳を上げたり手を叩く。
やけに暑すぎたのは今日の川崎だった。(そして、このツアーで周った場所も勿論含まれている)

聞き覚えのあるドラムが聞こえ、歪んだギターリフが重なる。
ここで”コミック・ジェネレイション”の登場である。
志磨さんは”敢えて”「小さい声で!!小さい声で歌って!!だめだ!!!もっと小さい声で!!!!」とまるで「押すなよ押すなよ!」みたいなノリで煽り出し、それに応えるように観客の声量も上がっていく。
「愛も平和も欲しくないよだって君にしか興味ないもん」
こんな漫画のセリフでしか許されない言葉をこうして曲にして
堂々と歌い上げる人間が今まさに私の目の前に居た。
現実なのかはたまたこれも嘘なのか分からなくなるほどに汗が出て
声を上げて歌を歌い、他人同士が体をぶつけ合いライブの居心地という
忘れていた”それ”を完全に復興してみせたバンド。
それがドレスコーズだった。

そして、本編ラストを飾ったのが
まさかの”恋をこえろ”だった。
ここで観客は我慢ができずモッシュが起こる。
それをあの会場にいた誰も止めず(いや、止めてくれるな)
鼓膜には音楽と他人の「アイラビュフォレバモー!」が響く。
そうだ、私たちが見ていたのはポップソングを歌うバンドではないのだ。
あくまでロックがロールするバンドだったのだ。
志磨さんは体をぐにゃっと曲げて倒れ込み、ギターの田代さんは
自分が弾いていたギターをぶん投げてステージをはけていった。
戀愛遊行の最後のメッセージが「お前!恋超えろよ!!!!!!」だとは
思わなく、この3年間の音楽に対する苦しみが一気に爆発した瞬間でもあった。

アンコールでは
定番となっている”ビューティフル””愛に気をつけてね”かなと思っていたがここでまさかの”愛のテーマ”
恋を超えたら愛になった。

一瞬のモッシュの後に観客は手を左右に振り出し幸せのなんたるかを噛み締めてその音を音楽を抱きしめているようだった。

そして、夏が終わり。秋が過ぎ。
冬になる。

最後を飾ったのは”(序曲)冬の朝”
東京の街は夜と朝の間だけ二人のものになると歌ったそれは
12月21日のドレスコーズへの導きのようにも聞こえた。

もし、これが”ビューティフル”がアンコールだとしたら。
恐らくライブは一旦中止になっていたかもしれない。
モッシュしても中止にはならなかったが、あれが2曲3曲と続いたら
まだ居座っている”ご時世”が「いやいや、まだでしょw」といってきたかもしれない。
それを上手くヒュルリとかわし美しく別の意味で”ビューティフル”に納めたのは流石のドレスコーズだと思った。

帰り際
ドリンクチケットを交換し忘れたことを思い出し、レッドブルを一気飲みした。
喫煙所によりタバコを吸っているとめちゃくちゃ大きい声で今回のライブについてディスってた人がいて一気に現実に戻り「あ、俺金無いんだった」と思った。
あのまま遊行していたら調子に乗って色々帰りに買ってパーティーするところだったからその人にお礼が言いたい。

金がないことを思い出させてくれてありがとう。

冬が始まる。

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