リリアン前夜🐇🪺(後編)
前編はこちら→https://note.com/0214a0428/n/ndb874b822473
イメージ画🦋
前作2021年版『リリアン』からイメージ画を担当してくれている、ちさとちゃんには特別な感謝を。彼女とは小学生の頃から友達で、今も昔も私のことを(良い面もそうでない面も)よくわかってくれている稀少な存在だ。転校先で初めて友達になったのも、放課後の音楽室で泣き沈んでいた私を見つけて迎えに来てくれたのも彼女だった。
彼女でなければ、今回のイメージ画に関してここまでわがままな注文をすることはできなかったと思う。少女時代の沢山の夢は、泡と消えないことを、これからも私は信じる。
新版『リリアン』のイメージ画は、爽やかで夏らしくて、いっぺんに気に入った。
物語の端っこ✂️
この物語を拾ったのは、私がある温泉施設でバイトをしていた時のこと。鏡台で身繕いしている女性2人の会話が耳に飛び込んできた。聞いているうち、ピンときた。きっとこの2人の関係性は姉妹に違いない。姉妹にしか知り得ない家族の記憶が、話の断片に織り込まれていたからだ。
…そんな何気ない発見から『リリアン』は生まれたのだが、あの見知らぬ姉妹がこの物語を聴くことは、たぶんないのだろう。と思うと少し不思議だ。
章の名前🌷
この『リリアン』という物語は、もともとは小説の形をとっていたため、章ごとにちゃんと名前がついている。我ながらどれも気に入っていて、せっかくなのでこの場を借りて披露しておく。
【姉妹の電話】【リリアン】
【レストラン プロポーズの夜】【秘密】
【姉妹喧嘩】【花の棺】
精神分析的・読解📖
新版『リリアン』の準備は、私が別のラジオドラマも並行して作っていたこともあり、思った以上に時間がとれずバタバタとしてしまった。
稽古も、台本読解を含めて2日間。(それでも本番のみんなの集中力と演技力はさすがだった)
本を書いた時点では、自分が役者として作品を読解することになろうとは思っていなかった。自分で自分の精神分析をするような、少し奇妙で面白い経験だった。
まずタイトルでもある玩具の「リリアン」に込められている意味に始まり、各登場人物の望み、台本には描写がない姉妹の母親はどんな人だったのか…。などたくさん意見が出た。そして今回のチームとしての目的をどうするか。他の人の解釈や考察を聞くのはものすごく勉強になった。
書いた本人だからと言ってその作品のことをすべて理解しているわけではない。誰かの声を通して初めてわかる気付きがたくさんある。今回のリリアンでは、物語の読み取りに正解はないし、とにかく一旦自由になりたい! という思いが強かったため、面白いと思ったアイデアはだいたい取り込んでみた。
もともと私が書くのはぼんやりとした輪郭を持つ世界ばかりではある。書き手としては、その輪郭をもっとくっきりはっきりさせよう、という欲求はあまりない。性格上なのか、ぼんやりはぼんやりのままで満足してしまう。
でも演じる上では、その世界で生きるためには、やっぱり役の現実や目的がなくちゃならない。
キャスト陣は、作者である私以上に役のことを考え、それぞれの内に落とし込んでくれていた。こうやって、紙の上の役は命を得て生き始めるんだ。役のためにその人の一部を懸けてもらう経験は、作者として本当に幸せなことです。ありがとう。
そして今回は、作品の内側に一歩踏み入れたからこそ、リリアンの世界を流れる空気の中で生きることができた。2度目の『リリアン』を作る機会をくれた咲子役のつっちぃには感謝しかない。
収録📽
収録ではいくつか印象的な出来事があった。
「姉妹喧嘩」の収録の直前、姉・紫苑役のあやが「腕を引っ張ってみよう」と提案してくれた。姉妹同士向き合い引っ張り合いながら台本を片手に「姉妹喧嘩」を演じてみる。…勝てない。お姉ちゃんの剣幕にとてもかなわない、引き摺られる。
この実験のおかげで収録では、言外の力を声の底に感じながら演じられたシーンになった。姉を不安の渦から引き戻すための、秋江の冷静な現実感、が出たような気がする。
次もあやのエピソード。姉妹が花屋の床に横たわるシーン(「花の棺」)。私は「冷たくて、いい気持ち」という台詞をうまく言えずに困っていた。
けれど、これは姉妹の絆を象徴する大事な台詞だから何とかしたいと熱弁していると、あやはすぐに了解してくれ、私の手に触れてくれた。
「花の棺」が、のちの自転車2人乗りのシーンへ導く。むせかえるような花の濃い香りと、死の気配が漂う、少し官能的な場面。
あつらえたように冷たいあやの手は、姉に対する秋江の根本的な情愛を補完してくれた。感覚的に「わかる」ってこういうことなのだと思う。
自分に甘く…ではダメです🍡
私自身に関して、一つ反省がある。
自分で書いておいて、「モノローグ」はかなりの難所であった。音の一つ一つがそのシーンの命を左右する。(どの台詞も大事なのは重々承知だけれど、モノローグってのは、ことの重大さが違う)
他のキャストさんには平気で口出しするくせに、秋江のモノローグ二ヶ所は、家で録ってきますと言って、収録を飛ばしたのだ。時間の制約はあったにしても、これは賢い判断とはいえなかった。結局、家のすぐ脇の道を車が通る合間を見計らい、一人夜な夜なモノローグに挑む羽目になった。
自分に甘いのは悪い癖だ。沈黙が怖くても、自信がなくても、みんなが作ってくれたあの空気の中で録るべきだったのだ。問題のシーンが作品全体の質を落としていないことを祈る。
↑始めは座ったまま読んでいた私も途中から立ち上がる。こっちの方が断然いい、と思った瞬間。
ちょぴっとオリジナルシーン🎞
2021年版もお聴きくださった方はお気づきになっただろうか。新版『リリアン』には、ちょぴっとオリジナルシーンがある。「一味も二味も違った作品」になったのは、このシーンの存在が大きい。
きっかけは、冒頭の「姉妹の電話」が時系列でいうと一体どこに属するのか、というあやの疑問だった。
…考えたこともなかった。この発想が面白すぎて「へぇぇー‼︎」と思わず大きな声を出してしまった。
話し合いの結果、今回のラジオドラマは、最後に冒頭の台詞を繰り返すことに決まった。円環構造。オルゴールの音色も相まって、心なしか幻想的。
この提案のおかげで『リリアン』の未知の側面を見つけることができ、ため息が出ちゃうほど素敵なシーンが新たに生まれた。
キャスト陣について💃
敬愛する演劇のお姉さん方と共演できて、とても嬉しかった!
腕を引っ張り合ったあやとは、姉妹になれた気がした。
つっちぃの咲子には、大人の常識(咲子も理解しているとは思うが)にとらわれない、意志の強さを感じた。そして現場につっちぃがいるとそれだけで(私が)安心するのがとてもよかった。
洋司役のゆうは、「でもいいさ」なシティボーイ(?)を爽やかに演じてくれた。豊富な人生経験が滲み出ていて一つ一つの言葉に深みがあった。収録や編集段階での的確な指摘に、ずいぶん助けられた。
ピンチヒッター・ふじの出来る感じのウェイターさんも良かった。急遽の応援要請にもかかわらず、来てくれて本当に助かりました。ありがとう。
秋江について🍂
1回目の稽古兼読解の日、私にはまだ秋江のイメージができていなかった。前編でも書いた通り、オリジナルキャストがあまり素晴らしかったので、自分でいくら台本を読んでみても、オリジナルの秋江の声が頭の中で響いていて、不可抗力でそれをなぞってしまうのだ。
自分なりの秋江ってなんだろう…収録までの日に考えることは考えたけれど、それらはすべて、2022年版を共に演じたキャストのおかげであらかた崩れ落ちてしまった。
秋江をどうするか、というスタンスではなく、紫苑たち他の登場人物の姿が明確になるにつれ、秋江としてどのように立つべきかがわかる、というような役の作り方だった。能動的に「作る」というより、「作られた」というイメージ。
正直に言うと、頭の中のオリジナル秋江に飲み込まれた箇所がいくつもある。それを感じながら演じるもどかしさ。とはいえ、多くの舞台で同じ作品が何度も再演される所以が少し、分かったような気がして良い経験になった。
迷言?生まれる🐣
完成はないけど、終わりもない。
夢を見る🌈
台本を使ってみんなに演じてもらうことで、自分のために物語を書くのとは違った喜び(もしかしたらそれ以上の喜び)を知った。
私自身の人生における超目的(最近習った語彙)は、誰かと物語を共有すること=同じ夢を見ることなのかもしれない。まだこの辺りは曖昧だが、今回は得意のぼんやりで済ませようと思う。
またどこかで、同じ夢を見ましょう。
2022年『新版 リリアン』本編はこちらから→https://open.spotify.com/episode/0yVjShr6WOZFUrDs1vPNhn?si=d8mAPJYwQOCSY2epNyTfqQ
_「リリアン前夜」 完