マチブラ×美術研究会 札幌市再開発と美術の関連性 第3部「大通・札幌駅編」
前回の「すすきの編」に続き、「大通・札幌駅編」です。
前回の記事をまだご覧になっていない方は、こちらも合わせて読んで下さると嬉しいです。
元気地蔵
「大通・JRタワー編」のトップバッターは、H&Mやイケウチなどがある3丁目交差点の守り神である元気地蔵です。
街:こちらの作品について名前は初めて聞いたが見たことはある、と思う方はたくさんいるのではないでしょうか。
漫画の吹き出しのような輪郭とつぶらな瞳が特徴的で、なんともいえない顔をしていますね。
この作品は、H&Mなどが入居している「丸一ビルヂング ラ・ガレリア」の前に設置されており、同ビルが建設された1995年(平成7年)からずっと3丁目交差点を見守っております。
作者は、この作品に対し「この世の生き物すべてを救済する菩薩、地蔵」をイメージして作ったそうです。「具体的に何を救済するのか?」と思った方もいるでしょう。ここは、そもそものお地蔵様の意味を見てみるとわかってくるのではないのかと個人的に思います。
まず、お地蔵様とは仏教の六道で苦しむ人々を苦しみのない状態へと道案内をする仏様であり、全ての生き物に手を差し伸べてくれる存在です。
つまり、この生き物を企業や建物に置き換えてみますと、3丁目交差点に建設された建物や入居した企業が経営不振や施設の老朽化などによって潰れたとしても、元気になって新しい再スタートを切れるまで導いて下さるという意味なのではないかと考えます。
ちょうど元気地蔵の目線の先にあるイケウチゲートが、再開発によって2022年(令和4年)10月に新しい建物になり、ステラプレイスから撤退したGAPが入居しました。
このように、老朽化したイケウチゲートの建物と一時撤退したGAPを3丁目交差点で元気にさせているため、彼は「元気地蔵」という名前に恥じない実績を持っております。
また、新イケウチゲートビルのコンセプトは、「アートとテクノロジーとイノベーションが融合した新しい形のスマートビルディング」だそうで、建物をただの建物として終わらせるのではなく、快適な空間を備えた美術作品として楽しんでもらいたいという意図があるのではないかと感じられ、3丁目交差点に新たな風が吹いてきているのを実感できます。
元気地蔵が設置されてから約30年間、彼はこの交差点をどのような気持ちで見守り、救済していこうと考えていたのか。新たな姿に生まれ変わったイケウチゲートやその隣の丸井今井、さらには自身が身を置くラ・ガレリアを元気地蔵はこれからどのように見守り、救済していくのか。
考えすぎるあまり、彼自身が元気でなくなってしまうことがあっては大変であるため、街歩きで通りかかった際には、労いの気持ちも込めて心の中で「お疲れ様です。」と思ってみるのもいいかもしれませんね。
【マチブラメモ】元気地蔵の仲間が道内に複数存在しており、札幌では3体が確認されています。
どの作品も、元気地蔵とリンクする顔ですね。
元気地蔵の仲間たち
中央区北3条西3丁目に居る「eyes」には、「MANAZASHI」という相方がいましたが、ヒューリック札幌NORTH33ビルの再開発に伴う取り壊しで姿を消しました。
また、中島公園には「みどり子ファミリー」という大きな植木鉢に松本純一さんの作るなんとも言えない顔が彫られた作品があり、春~夏までは派手な髪の毛を、秋~冬は髪が抜け落ちた様子を見せてくれていました。しかし、この作品も撤去されてしまいました。
それでは、美術研究会さんにバトンタッチします
美:二頭身にぴょこんと生えたツノ、小さな目が特徴的なこの作品は、札幌の彫刻家 松本純一さんの作品です。
松本さんは、シンプルな立体を組み合わせたような、抽象的で丸みを帯びた、どこか温かみのある作風が特徴的です。
元気地蔵の顔には目以外のパーツはありません。まっすぐ前を見つめるその表情は、「無」。彼は何を思っているのでしょう。
もしかすると、何も考えていないのかもしれません。無表情ながらも優しさを感じさせるのは、そのゆるっと丸いフォルムのおかげでしょうか。
元気地蔵の仲間たちを見ると、このような特徴は共通していますが、目の位置や大きさによって落ち着き、あどけなさなど様々な個性が見える気がします。
なぜ彼らの顔に他のパーツがないのか、考えてみました。私は、目でのコミュニケーションだけで十分に人柄や気持ちを伝えることができるというメッセージなのかなと推測しています。皆さんはどう感じたでしょうか。
言葉はなくとも優しく見守って、時には寄り添ってくれているような、そんな姿が愛くるしく魅力的ですね。
さて、元気地蔵の後ろには大型衣料品店H&Mがあります。そこで服を買う人々を毎日眺めているとさすがに羨ましくなってしまうのか、普段は素っ裸で立っている元気地蔵も冬になると服を着るようになります。そのデザインは毎年異なり、今シーズンは緑地に金色のリボンで飾ったクリスマスツリーのような可愛らしい姿になっていました。冬にここを通る際は、注目してみてください。
【美研メモ】現地で元気地蔵を見た際に、彼の目に映る世界が気になりました。元気地蔵の背後に回り、穴を覗いてみると、いつもとはちょっとだけ違う目線で見る景色が新鮮に感じられて面白かったです。ぜひ元気地蔵体験してみてください。
星の大時計
次は、札幌駅南口では誰もが目にしたことのある「星の大時計」を見ていきましょう!
美:札幌駅南口の顔とも言えるあの時計は、滝川市出身の彫刻家 五十嵐威暢さんの作品です。
コンセプトは「北海道の豊かな可能性と理想の追求」、これを表現しているのが文字盤に散りばめられた満天の星です。
北海道では、五稜星が開拓のトレードマークとして用いられてきました。
現代においても、寝台特急北斗星や北海道旗、サッポロビール、札幌市交通局のロゴマークなど様々なところで星が象徴として受け継がれています。
この作品も、北辰旗(開拓使旗)をモチーフに作られたようです。
先人たちの開拓者精神を現代、そして将来にわたって守り続けてくれるような、そんな作品ですね。
文字盤いっぱいに大小の星が輝くこの時計ですが、夜になると小さい星たちは眠ってしまいます。昼の輝きと夜の静寂を対比して見てもらいたい作品です。
【美研メモ】五十嵐さんの作品はここだけではなく、JRタワー展望台にも
『山河風光』
というものが展示されています。後の記事で紹介している『direction』(菊竹雪さん)とともに楽しんで欲しいです。
それでは、マチブラ部さんへバトンタッチします。
街:皆さん驚くかもしれませんが、実はこの時計も妙夢と同じく、2003年(平成15年)に「JRタワーアートプロジェクト」の一環で設置されました。
直径は7.3mもあり、駅に設置されている時計の中では世界最大です。
そんな世界最大の彼がJRタワー開業の2003年から20年間、どのような札幌駅南口を見守ってきたのかというと、それは百貨店や商業施設の移り変わりではないのかと思います。彼が見てきたであろう歴史を振り返ってみましょう。
彼が設置された2003年にはJRタワーと合わせて大丸札幌店が開業しました。
大丸札幌店の開業によって、札幌の百貨店勢力図が大きく変わり、2009年(平成21年)9月に「星の大時計」の目の前にあった「札幌西武五番館」が閉店し、大正から昭和にかけて札幌で流行った百貨店の謳い文句である「見るは三越、遊ぶは丸井、品良く買いよい五番館」の一角が姿を消した結果、札幌駅前の賑わいが減少してしまいました。
しかし、2017年(平成29年)~2019年(令和元年)の期間限定で跡地の一部で立ち飲み酒場などが入った交流空間である「コバルドオリ」が開業し、様々な人々がお酒を楽しみ、短い期間ですが再びこの土地に賑わいが戻ってきたのを彼は見守ってきました。
また、札幌西武五番館が閉店する前の2005年(平成17年)に「札幌エスタ」がJRタワーの管轄となり、2007年(平成19年)にエスタの屋外広告のデザインが一新され、現在のデザインとなったのも見てきました。さらに、2018年(平成30年)には、西武五番館跡地の隣にある「さっぽろ東急百貨店」に同系列の「東急ハンズ札幌店」が移転し、全館リニューアルオープンを果たしたのも見守ってきました。
このように、星の大時計が見守ってきた札幌駅南口は百貨店や商業施設の移り変わりだと言えるでしょう。
そして、今現在の新幹線延伸に伴う再開発によって、今まで見守ってきたエスタや五番館跡地は新たな建物となり、さっぽろ東急百貨店にはビックカメラが入居するため、星の大時計はまた百貨店や商業施設の移り変わりを見届けることになります。
札幌駅周辺に買い物へ行った際には、彼の気持ちとなってエスタやさっぽろ東急百貨店、五番館跡地を見てみてはいかがでしょうか。
まとめ
再開発によって、4プラ、ピヴォ、イケウチ、エスタ、東急といった札幌市中心部を代表するような商業施設が新しくなり、大通~札幌駅までの景色や楽しみ方はガラリと変わってくると思います。
しかし、これら全てが開業され、新しい商業施設を楽しむことが出来るのは新幹線延伸が完了する2030年度以降であり、それまでは何もない更地や工事中の囲いがあるなど楽しめることができる状態ではありません。
そんなときだからこそ、大通~札幌駅までの間に点在する美術作品を巡り、その作品が見てきた歴史に思いを馳せたり、同じ作者の作品を探したりしてみるなどして楽しんでみてはどうでしょうか。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
最終部の「JRタワー編」に続きます。そちらも合わせてご覧になってくださると嬉しいです。
それでは、良いマチブライフを・・・・・・