『リュウノヒゲ』①
この曲がり角は右なのに左と言える。曲がり角で立ち止まり選ぶのだ。そこに迷う。それが人生というゲームの面白いところだったのだが……すべて片付いた今、何を必要とするのかわからなくなった。苦手なのはスープに入ったしなしなのレタスだけ……思い出したのだ。異なる世界の住人はとてもとても無機質だった。だから彼女は旅に出たのだ。
「――私のやりたいことがない事ぐらい、この世界にはお見通しだった……隠さなくてもいい。何も成すべきことがないから人として腐敗していくと勘違いしている。現代が幻想に近いのだ。あまり考えても意味がない」
だから、と付け加えようとして口を閉ざす。人間の中で一番堕落していると思い込んでいる。悲観的な感情が“ある隠し事”を助長しているのだった。だから仕方がないと言えばそうなってしまうのが世の常である。だから敢えて口癖にしたのだ。
ピアスがどうとか歌っている歌手を内心馬鹿にしていた時期に、何があったのだろう。彼らは人生を歌詞にして、その他大勢は平凡という日常を何に変えていったのか。それが解らない以上答えが出ていないのと同じだったのだが……迷った挙句たどり着いたバーには見知らぬ男性が無口にグラスを眺めていた。
「なぜあなたが来ると思ったのか」
「それは質問しても意味がない。私がたまたま通りがかりに喉が渇いて立ち寄った」
「それはロマンチストと思わせて完全に切り分けられた関係性だね」
世間話にしてはドライだった。
結果として、終点は訪れなかった。まだ生きていいということだったようだ。神様は見ているのだろうと+に考えたが実際は彼女の考えは真逆だった。あんまり長く生きたくはない――。
そう思うだけの理由があった。確かに日常は終わらず繰り返しと思いきや軽微な変化があちこちにある。だから面白く、捨て去る要素はどこにもなかった……そう錯覚させるのが街の悪い所だった。さすがに見抜いてしまう。人がここで暮らしていい、いいや暮らすべきだと思わせるトリックがある。人が集まっただけではこうはならない。だから調べてみると彼女は奮闘していた。
「そういえば、ライブハウスは初めてだった」
「名所といえば名所だがもう廃れている。他を当たったほうが良い」
「そう言われれば、そうね」
大体が時代遅れなのかもしれない。資本主義とは単純な考えなのと同時に複雑は心境と向き合わなければならない。感情がないのが普通なのかと疑問を抱く。人間とは何なのかと哲学に溺れそうになる。人が傷つけあう理由を探しても見つからない人種は身近に居るようだった。だから数に頼ると言えば語弊がある。弱い者いじめのようになってしまう。それでも理想は正しいのだ。正しく生きていくことが人間なのだと思いたいのが人間の性なのだ。
思い描いた未来が実現していく。おそらく時間の流れは遅くなっている。時間軸がズレていくのではなくそもそもタイムラインが違うだけだった。気づいた時にはもう人生は始まっていて後戻りできないのはそうだが未来も描けなかった。未来とは……。
――危うい。生きるだけなら十分だと察した瞬間、目的を見失った。
それが日常茶飯事なのは言うまでもない。
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