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【エッセイ】サイパン旅行記 三日目①
朝、ホテルの一室で起きると、やたらと身体が冷えていた。空調が18度に設定されている。
サイパンも三日目を過ぎると、気温が高いとは感じなくなっていた。18度から23度に直して、シャワーを浴びた。
フロントに行くと、もうすでに先輩がいた。先輩の話によると、あまりにもスムーズに撮影が終わったので、もうやることがないという。
「こりゃ南の島でバカンスでしょ」
「マジっすか」
これは先輩にとって好都合というか、これを狙っての海外ロケだったので、順調といえば順調、順調すぎるくらいだった。
スタッフ全員が集合すると今日1日はオフにすることが決まった。
その話の流れもスムーズで、先輩が裏で打ち合わせしていたのかもしれないと思った。本当のところはわからないが。
ロケバスに乗り込むと、さっそく本を読んだ。オフと決まると、もうコソコソする気もなかった。
プロデューサーに「なんで水木しげるなんだ?」と聞かれた。南の島繋がりです、と答えると、その答えでは不十分のようだった。
「いや、そういうことじゃなくて、南の島の本なんていくらでもあるだろ? なんでその中から水木しげるを選んだんだって話だよ」
なるほど、と相槌。
別に水木しげるを特別に選んだわけではなかった。たまたまブックオフで、目に入ってきたから買っただけだった。そのまま言うのもつまらないので、理由を作り出してみた。
「水木しげるの『劇画ヒットラー』ていう漫画
があるんですけど、それめっちゃ好きなんスよね。僕それで世界史好きになりました。だからかもしれません」
「ほぉ、じゃあ慣れてるってことだな。水木しげるに」
「はい、多分」
「鬼太郎も好きなのか?」
「いや鬼太郎読んだことないッス」
「お前なんだそれ笑笑 おっかしい奴だなぁ」
確かにおかしいかもしれないと思った。でも即席で作った理由にしては、笑いのタネになっていてホッとした。そしてまた、いまさっきテキトーに作った理由が自分の中で本物の感情になっていることに気がついた。
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