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美しい描写に息をのむ。
P141
『私はすぐに、プルタブを開ける。
湯気と共に甘いレモンティの香りが鼻をくすぐった。
一口飲むと、喉から熱の塊がそっと伝う。
それは胸の辺りで溶けるように広がっていった。ほう、と吐く息が白く、すぐに闇に溶けていく。』
***
ただ、『温かい飲み物を飲む』
ってだけにこの描写、美しすぎませんか。
レモンの香りや、熱の塊が胸に広がっていく様子が、体感を通して想像できる。
「52ヘルツのくじらたち」同様、痛々しく衝撃的な描写も多い。
けど、それをも踏まえた生命の尊さ、様々な思いを抱えながらも生き抜いていく強さを感じさせる、5編成の短編集。
町田そのこさんの、丁寧過ぎる程丁寧で、
繊細で細やか、けれど強くもある圧倒的文章に、何度も何度も胸打たれる。
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