[ホワイト・クロウ 伝説のダンサー] "THE WHITE CROW"(2018)
最近バレエ映画づいている。それぞれ毛色は違うものだけれど、美しい肢体は芸術であると強く感じる今日この頃。今自分の身体を鍛えたいと思っているタイミングなのも、この映画を選ぶのに一役買ったのかもしれない。
20世紀を代表する伝説のバレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフの成長や亡命劇を描いた映画。主演はタタール劇場の現役プリンシパル、オレグ・イヴェンコ。バレエに明るくないのでヌレエフについてそんなに詳しく知らないけど、イヴェンコはヌレエフと容姿が少し似ているらしい。体格は違うし踊りのカラーも違うらしいけど、バレエダンサーでこんなにしっかり演技ができる才能あふれる人をキャスティングできてすごいなぁ。
監督は、ハリポタのヴォルデモート卿でおなじみのレイフ・ファインズ。構想20年だそう。自身も出演していて、ロシア語で話している。ロシア語が上手かどうかなんて私には全く分からないけど、ロシア人が見たらどう思うのかな。欧米人にはアジア人の顔の区別がつかないように、私も欧米の人たちの区別がつかないけど、イギリス人がロシア人を演じても違和感がないものなのだろうか。(韓国映画「お嬢さん」で韓国人が演じた日本語、日本人には違和感があったけどね笑)
共産主義のロシアで、才能を見出された人が国のために世界へと羽ばたくけれど、あくまでそれは国のため、多くの国民のため。順調にキャリアを積んできていたと思っていたヌレエフに一気に危機が訪れ、空港で亡命を決断するまでの一連のドラマは、人生の大きな決断をするには短すぎる時間だと思うけれど、観客もいっしょに手に汗握る緊張感を味わいながら見つめることになる。
ひとは何か大きなことを決断するとき、多かれ少なかれ失うもの、犠牲にするものがある。幸せな決断だとしても、きっとそう。ヌレエフの場合は、自由なダンサーになるために、故郷を失い、家族と離れるという大きな犠牲を払うことになった。それでも「自由になりたい」と思いを吐露するまでの過程には、幼少期のバレエを始めたころの記憶がフラッシュバックするように出てきたり、ヌレエフが自由にふるまうほどに監視を強めるKGBの男たちの視線を描いたりすることで、焦燥感が募っていた様子がわかる。
彼ほど何かの才能を明らかに持ってそれにすべてを捧げて生きられる人は少ないだろうけど、あなたならどう生きる?と問いかけられるような気がする。
いわゆる事実をなぞっただけの伝記映画ではなく、ヌレエフの若さ、まっすぐな生命力、そして肉体に宿る美しさで、とてもエネルギーに溢れた映画だった。