高校卒業したら結婚してくれと言われた男
高校生の時
忘れられない思い出がある。
話は小学生の頃に遡る。
私は小さな一年生で、その頃は数人の家の近い人が組んで班で、学校に登校していた。
班長は6年生の男の子で、ガキ大将なのだが、
小さい子や弱い子にからかいはするものの
いじめたりはせず、安心してみんな一緒に遊べる
強きをくじき弱きを助ける 正義の味方、スーパーヒーローだった。
私は足が遅く、いつも遅れてしまう。
そんな時、いつもスーパーヒーローは、
自分のランドセルを誰かに預け、私をおんぶし、
学校の前の坂道を駆け上がって、登校時間に間に合わせてくれた。
大好きなお兄ちゃんだった。
ある日、お兄ちゃんはお父さんの転勤で
川崎に引っ越してしまう。
みんなが慕っていたお兄ちゃんだったので、みんな本当に残念がった。
何年かして、私の家族も川崎に転勤になった。
引っ越してからすぐ、お兄ちゃんに連絡をし、家に遊びに来てもらうことになった。
私の家族は、4人家族で、私の上に兄が1人いて、
兄も、お兄ちゃんが大好きだった。
相変わらず爽やかで優しく、勉強を見てくれたり面白いことを言ったりして、楽しい時を過ごした。
何度目か、私たち兄弟は中学生、お兄ちゃんは高校3年生になっていた。
母がお兄ちゃんに将来はどうするのと、聞いた。
お兄ちゃんは、警察官になる
と答えた。
ええっ〜とビックリする気持ちと、この人ならそうだろうなと納得する気持ちがあった。
そして、勤務地はまだわからないこと、
自分の住んでいる場所や、父の勤務先のそばなどではないらしい、これからしばらく、寮生活だとも言っていた。
彼女はいるのかという話になり、
実は結婚してくれと言われていると言った。
またもや納得である。
そりゃあそうだよ、スーパーヒーローだもの。
私は撃沈したが、中学生ではどうにもこうにもできない。
しばらく私たちは、会うことはなかった。
私は高校生になり、吹奏楽部に入った。
野球部の応援で、追浜高校へ行った帰り
駅のとなりの交番に あの お兄ちゃんが座っていた。
制服姿で、駅にいる人たちをじっと右から左へ目を動かし、見ていた。
お兄ちゃんの目が真ん中で、止まった。
私を見つけ、笑顔で出てきてくれた。
「☆☆ちゃん」
懐かしい声だった。
周りにいた吹奏楽部の友達は、突然私が交番へ歩き出したので
何事かと驚いていたが、
私は飛び上がらんばかりに再会を喜び、
お兄ちゃんは、優しく私たち家族の様子を聞き、
「また遊びに行くよ」と言ってくれた。
今も交番の前を通ると、私のお兄ちゃんがいないか 見てしまう。
東野圭吾さんの小説に「加賀恭一郎」という刑事がでてくる。
私の中の「加賀恭一郎」は
このお兄ちゃんだ。
私のスーパーヒーローは、今もきっと街の
みんなを、守ってくれている。